眠り姫は目覚めを希望しない【改題】

里瀬ふゆ

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因果応報……?

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 翌日もそのまた翌日も、ジェシカの元を訪れた。
 私の姿を見るとジェシカはぎょっとした顔をして、それからまるで何も見なかったように無視されるのだけど、しつこく話しかけていると、三日目に根負けしたようだ。

「ああーもう、分かったわよ。話を聞けばいいんでしょう」

 ジェシカが宿泊しているホテルの部屋へ招き入れてくれたのだ。
 願ってもない展開に、私は浮き足立った。
 だけどあくまで平静を装って、お上品に振舞う。それが王女というものだ。

「では失礼しますね」

 ジェシカが宿泊しているのは、中流の実用的なホテルだった。
 ここは王都の中心街に位置するため、華美で高級なホテルは辺りにいくつもあるのだが、歌劇団員の日常は思ったよりも地味だと知った。

 わたしがもう七年も眠っている寝室は、あらゆる装飾品で飾り立てられ、美術品の展示場のようになっている。
 その中央で眠っている私も、まるで展示品のようだと自虐的に思う。
 眠ったまま、食事も取らず排泄もしないのに、生命を維持し刻々と眠り続けている私は、年月の分だけ、成長はしている。
 眠りについた九歳のままではなく、着々と歳を取って、ちゃんと十六歳相応の風貌になっているのだ。
 意識だけは動き回ることもできるため、勝手に学校に行って同級生に混じって授業を受けたり、大人たちの会話を盗み聞いたりしていたため、壊滅的な無知でもないだろうと思う。

 むしろ魔女の魔法にかからなければ、今よりよほど世間知らずに育ったかもしれない。
 閉ざされたお城の中で、蝶よ花よと育てられてきた私は、外の世界を何も知らなかったからだ。

 そう、別に悪気はなかったのだ。

 遡ること七年前、私は無知で純粋な子どもだった。
 いつもの晩餐に特別ゲストとして着席した老婆の服装や振る舞いが、あまりにもユニークだったため、マナー違反を指摘したまでだ。

 その老婆が恐ろしい魔女だったのだ。
 これは眠ってから知ったことだけど、あの日の魔女は招かざる客だった。
 突然現れて、恐ろしい魔力をちらつかせ、お城での一食と一泊を強請ったのだ。

 魔女は異国の正装をしており、異国の礼儀に沿ったマナーを披露したのだ。
 そうとは知らず、私はそれを間違っていると指摘した。

『おばあさま。そのボウルに入ったお水は、手を洗うものであって、飲むものではありませんのよ』

 みなの顔が青ざめた。
 お父様お母様が慌ててフォローしようとしたけど、魔女は烈火のごとく顔を真っ赤にして私に杖をかざした。
 以上が、私が永遠の眠りにつくことになってしまった顛末だ。


「それはなんていうか、まあ大人気ないばばあだね」

 話を聞き終わったジェシカが、同情まじりの溜め息を吐いた。

「同情はするけど……私にできることはないわ」

「違うの。助けてほしいって頼みじゃないの。この間も言ったけど、エリオットを説得してやめさせてほしいの」

 ジェシカの砕けた口調につられたらしく、気付けば私も砕けた話し方になっていた。
「庶民と気安く話してはならない」という王族の決まりも、今の私を縛ることはできない。

「私だってそうしたいわよ。でも見たでしょ? あのカフェで。あいつ断言したじゃない。自分は相当な頑固者だって。あの男はねえ、一度こうと決めたらテコでも動かないの。私が説得したくらいじゃ、無理なのよ。頭がおかしい扱いされて、役を降板させられたらたまったもんじゃないし」

 ジェシカは深い溜め息を吐いた。

「眠り姫の生霊が見えるなんて、もう口が裂けても言わないことにするわ。悪いけど」

 私のことを話しても、そうそう信じてくれる人間はいない。それどころか、頭がおかしいと疑われるのが関の山だと、ジェシカは言った。

「私も私を疑ったわよ。エリオットの言うように、初主演の重圧で精神が病んじゃったのかって。そうじゃないとは言い切れないけど、あなたが私の生み出した幻影なら幻影で、別にいいわ。それでも私は舞台をやり遂げる。それだけよ」



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