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名門学園にて大きな独り言
しおりを挟む協力を仰いだもののジェシカにきっぱりと断られ、わたしは意気消沈してお城へ戻った。
舞台に専念したいというジェシカの気持ちはもっともだし、尊重しなくてはいけない。
エリオットとジェシカのこと、シスペランコ歌劇団のことをもっと詳しく知りたくて、ここ数日、専門誌を眺めたりファンや舞台関係者の話を立ち聞きしていた。
そして分かったのは、ジェシカは大人びて見えるけど私よりも一つ年下で、今回の舞台で初主演に抜擢され、勝気な性格も祟ってか、劇団の主流派閥に睨まれていることだ。
そしてエリオットは歌劇団長であり、花形役者であり、舞台の脚本も演出もスポンサー探しも、すべて一人で行っている。劇の配役もエリオットに決定権がある。なんたるワンマン。
つまり、何もかもエリオットの気持ち次第なのだ。
彼に変に思われて、役を降ろされることをジェシカは怖れている。
だからもう、私が見えていても見えないふりを通すってことだ。
はあー、せっかく話せる人ができたと思ったのになあ。
一つ救いがあるのは、エリオットも、『シェルメ』公演中はそれに注力したいと思っていることだ。
我が国の六都市を回り終わった後に「眠り姫プロジェクト」に挑戦しようと思っているようだから、まだまだ時間はある。
わたしリサーチによると、全公演が終わるのは約半年後だ。
ここ、王都での公演はもう半分終わってしまっているから、正確には五ヵ月半後だ。
どうすればエリオットに諦めてもらえるか、それまでにうんと考えよう。
数日ぶりに学校に来た私は、授業も上の空でそればかり考えていた。
ここ、聖クシュハリスト学園は、都立の名門校だ。
難しい試験を突破した者しか入れない、実力主義の革新的な学校だ。
だから、遊んでばかりいる貴族令嬢や子息は殆どおらず、学者や軍人や商人の家の子が多い。つまり、貴族ではないが裕福な家の子たちだ。
学園の門をくぐれば、身分による差はなくなり、皆が等しく学びの子となる、というのが学園のモットーだ。
この学園を疎ましく思っている貴族は多い。
永遠の眠りにつくまでの私は、学校に通ったことがなかった。
お城にいる家庭教師たちが、すべての授業をしてくれたからだ。さぼりようのない、マンツーマンの個人レッスンだ。
本に出てくる「学校」や「級友」というものにずっと、とても憧れていた。
だから体が寝たきりになって、意識だけ自由に動けるようになったとき、迷わず学校へ通うことにしたのだ。
初めて校門をくぐったとき、教室で皆と一緒に授業を受けたときの感動は、忘れられない。
だけどここでもそう、誰も私を視界には入れてくれなかった。
話しかけても独り言となる。
どうせ誰にも聞こえないのだからと開き直った今は、授業中だろうが大きな独り言を発している。
「えー、それってエリー王妃のせいじゃないじゃん!」
周辺外国の歴史の授業中だった。約二百年前に処刑された王妃のくだりで、家臣に裏切られ悪い噂を広められてしまったエリー王妃の不幸に、思わず同情の声を上げてしまったのだ。
かなりの大声で。
しかし誰もこちらを見る人はいない。
……はずだった。いつもならそうだ。
ばっと大きく体ごと、こちらを振り返った人がいて、私は目をむいてしまった。
十列ほど前の席で、こっちを見ている男の子……初めて見る顔だ。
だ、誰!?
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