眠り姫は目覚めを希望しない【改題】

里瀬ふゆ

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社交辞令に照れる生霊もとい、物の怪?

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 クリスは快く引き受けてくれた。

「勿論。それが僕の使命だ。今はそう思ってる」

「今は……?」

「この能力、昔は嫌だったんだ。幽霊なんて見たくもないし、助けてなんて言われても、僕にできることなんてないってね、ずっと突っぱねてた。でもね、見えるものはやっぱり見えるし、死んでる人に泣きながら何度も懇願されるってのは、いい気分じゃないよ。自分が見殺したような気分になってくる。じゃあもう仕方ないなって、少し手を貸してあげたのが始まり」

 テーブルに投げ出した両手の指を揉むようにしながら、クリスは苦笑した。
 この少年はいったい幾つくらいなんだろう。見た目は私と同じか、一つ二つ下に見えるが、話すトーンや表情の一つ一つは大人びている。
 きっと育ちがいいのだろう。
 この聖クシュハリスト学園に通う生徒は、貴族でこそないが、豪商や学者、高官の家の子などだ。
 この少年にしても、きっとバックボーンに育ちの良さがあるから、違和感なく紛れこめているのだろう。

「僕の前に現れる幽霊の願いごとは大抵、『大切な人にどうしても伝えたいことがある』っていうのだからね。憎いやつに復讐してくれとか、そういうんじゃないから、手を貸してあげてる」

 クリスは釘を刺すようにいって、私を見た。
 復讐の願いは受け付けない、と言いたいらしい。

「それで結構よ。私も伝えたいだけなの。私に構わないでほしいって」

 クリスの憂いを秘めたような瞳が、一瞬で驚きに満ちた。

「どういうこと? 君のこと、色々教えてもらえるかな」

「ええ、望むところよ。……自己紹介が遅れてしまって申し訳ないわ。わたくしは……」


 この国の眠り続けている王女だと言ったときの、クリスの呆気に取られた顔が忘れられない。
 てっきりすでになくなっっている人間――幽霊だと思い込んでいたクリスは、まるで異星人を見るような顔で私をしげしげと見つめたのだ。
 そしてこう言った。

「……生霊ってことか」

「生霊?」

「生きている人間の『念』が凄まじいと、肉体を離脱して、飛びまわれるんだ。古い東の国では、それを『物の怪(もののけ)』とも言ったそうだよ」

 うわぁなんか嫌だなとすかさず思った。だってなんか、響きが悪いじゃない。生霊も物の怪も。

「失礼ですわ」

 思わずむっとして口にすると、クリスはしまったという顔をした。

「ごめんなさい。お姫様に対して、確かに失礼だ。でもあの、物の怪というのは大層魅惑的な姿をしていて、人々を魅了するという話ですから、決して化け物という意味じゃないんですよ。人間離れしているという意味であって……、とても美しいんです、貴女みたいに」

 前言をフォローするための言葉、社交辞令だと分かったけれど、はにかんだ笑みを添えられてドキリとした。
 こういうものは淀みなく口にしてほしい。
 照れられるとこっちが恥ずかしいじゃない。

 言われ慣れていないのだ。
 九才で永遠の眠りについた私は、本来迎えるべきだった社交界デビューもまだ経験していないし、舞踏会やお茶会なども、正式に出席したことがない。
 興味本位で参加したことはあるが、何せこの姿だもの。だーれも相手にしちゃくれない。







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