眠り姫は目覚めを希望しない【改題】

里瀬ふゆ

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愛称で呼ばれる嬉しさ

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 私の頼みごとを一通り聞き終えたクリスは、なーるほどねぇと呟いたあと、こう言った。

「でも僕が思うに、それはシスペランコ歌劇団団長、エリオット・アーチボルトへ陳情しても駄目だと思うなあ」

「え?」

「だって、もしそれでアーチボルト氏が諦めたとしても、いつ次に第二の第三のアーチボルド氏が出てくるか分からないでしょ。その都度、その人たちに『諦めてほしい』ってお願いするのって、大変じゃない?」

「そ、それはまぁそうだけど……、だからって放っておくわけには」

「違う違う」

 クリスは人差し指を立てて、左右に振ってみせた。

「頼む相手が違うんですよ。国王に言わなきゃ。眠り姫を目覚めせし、英雄の募集はもうやめてほしいって」

 目から鱗だ。ぼろぼろっと落ちた。

 そうか、その手があった!

「眠り姫を目覚めせし者には、いかなる褒美をも与える」と広くお触れ書きを出しているお父様が、それを撤回すればいいんだ。
 お父様が『眠り姫プロジェクト』を取りやめれば、それに乗っかってくる人もいなくなるのだから。

「そのほうが信用してもらいやすいですしね」

 クリスは続けて言った。

「死者とまったく縁のなかった人間に、死者の言葉を伝えても響かないからね。あ、これは過去の経験上の話であって、あなたのことじゃありませんよ。死者っていうのは」

「ええ、続けて」

「僕には死者が見えると言って、死者の言葉を伝えても、普通はなかなか信用してもらえません。このインチキ野郎めとか、心のない悪戯はやめろとか、金目当てだろとか、罵詈雑言浴びせられるのがオチです」

 クリスの苦々しい表情にリンクして思い出したのは、ジェシカだった。
 私が見えることをエリオットに信じてもらえず、頭がおかしくなったと思われるのが嫌だと言っていた。
 そう、普通は信じてもらえないのだ。

「だからね、今までの『依頼人』と画策して辿り着いた結論、『ターゲットと依頼人の二人だけが共有している思い出を伝える』と信じてもらいやすい、ってことです。それでもまあ、絶対に信じない人もいるにはいるけど」

 クリスの言葉に目をみはった。まさに開眼する思いで。
 そうか、その手があった!

 興奮が押し寄せて身を乗りだしたとき、クリスはふっと視線を脇にそらした。
 同じ方向を目で追うと、こちらへ歩いてくる老教師の姿が見えた。
 クリスはピタリと口を閉ざし、すぐに席を立てる体勢をとった。

「おや、君。もう授業が始まっているんじゃないかね」

 すぐ近くまで来た老教師――モートン先生がずり下がる眼鏡の奥から目を光らせた。

「はい、すみません。すぐ向かいます」

 立ち上がったクリスはぺこりとお辞儀をし、教室のある方へと向かった。
 モートン先生との距離が開いてから、ささやくように言った。

「さすがに途中入室する度胸はないなぁ。僕はもうこのまま出て行くよ。お姫様は?」

「私も一緒に行くわ。その、お姫様って呼び方はやめてくれないかしら」

「ではお供いたします、マリアンヌ王女様」

 時々わざとらしく丁寧語になるのは、もはや嫌がらせにしか思えない。
 
「マリ、でいいわ」

 いつか友達ができたら言ってみたかった台詞だ。
 拒絶されたらされたで仕方ないとも思っていた。

「オッケー、マリ」

 クリスはまるで友達みたいに笑って応えた。
 なにこれ嬉しすぎる。


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