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そういう血筋でしたか
しおりを挟むお城へ戻る途中まで、クリスは付き合ってくれた。泊まっているホテルが近いらしい。
街の雑踏に紛れ、クリスが私へ語りかける声はまるで鼻歌のように自然だった。
あまり大きな声だと、一人で話しながら歩く変な人に思われるだろう。
まあ、そんなお爺さんもたまにいるけど。
今日はもう遅いと、私の門限を気にかけてくれたクリスは、また明日会おうと言ってくれた。
それまでに、お父様へ出す手紙の内容を考えておけばいいのだ。
ペンを握れない私に代わって、クリスが代筆して、郵便ポストへ投函してくれるらしい。
私でしか知りえない、お父様との共有の思い出――、それを証拠として、その手紙が本当に私からのものであると、お父様に信じてもらえればいいのだけど……。
夢見がちな乙女のようなお母様と違い、お父様は男の人らしく合理主義だ。
「まあ、とにかくやるだけやってみなくちゃ」
決意を込めて言うと、クリスも頷いてくれた。
それから、少し言いにくそうに言った。
「でも……、本当にいいの?」
「え?」
「マリを目覚めさせることに、誰もチャレンジしなくなっても」
私の瞳を探るように覗き込む、クリスの言いたいことは分かった。
『眠り姫プロジェクト』を中止してほしいということは、すなわち諦めるということだ。
目覚めることを諦め、このまま一生眠り続けるということ。
「いいわ。誰も死ななくなるもの。本望よ」
少し嘘だった。本当は目を覚ましたい。ちゃんと肉体を伴って、ベッドから抜け出たい。
お母様お父様、みんなと目を合わせて話をしたい。私の声を聞いてほしい。愛していると伝えたい。
昔のように抱きしめてほしい。
でも私が貪欲にそう望めば望むほど、死人が出たのだ。一人二人三人……、十二人の犠牲者たち。
彼らはみな優秀で勇敢だった。全員が勇者だった。
でも彼らは私を目覚めさせることはできず、その都度お母様は心底絶望して言うのだ。
嗚呼、また偽物でしたわね。
今度こそ本当の勇者様がいらっしゃるわ、待ちましょう。
「そうか……」
クリスが複雑そうに微笑んだ。
その琥珀色の瞳に同情が読み取れて、少し意地を張りたくなった。
「結構いいものよ、今の私も。お供を連れなくても、どこにだって自由に行けるもの。今流行りの歌劇だって、普通に観れちゃうもの」
「シスペランコ歌劇団の『シェルメ』だね。僕は明後日のチケットを持っていてね、明後日観に行くんだ」
クリスの表情に輝きが戻る。
しかしそれもほんの一瞬で、にわかに曇った。それを見逃さなかった私は、怪訝な顔をして尋ねた。
「どうかした? なにか心配ごとでも?」
「……実はさ、メアリ役の女優のジェシカ・バベッジは、僕の妹なんだ。二卵性の双子のね」
ええっ!? あのジェシカ!?
「それほんと!?」
はっとした。そうだ、この瞳どこかで見覚えがあると思った! ジェシカの瞳だ。
クリスがジェシカと二卵性の双子――、それを知って合点がいく。
「だからなのね、ジェシカにもあなたにも私が見えるのは。そういう血筋ってことね」
「なんだって? ジェシカにも君が見えたって?」
クリスがびっくりして言った。
エリオットの話はかいつまんで話したが、ジェシカのことは省いていたのだ。
関係のない人に、個人の秘密をべらべら喋ってはいけない気がしたからだ。
しかし、まさか家族だったとはびっくりだ。
「そうよ、私もびっくりしたわ。この七年間、私が見える人に一人も出会わなかったのに、この一週間で二人も出会えるなんて!」
「そうか……、ジェシカにも同じ力が……。やっぱり血なのかな」
クリスは噛み締めるように言って、さらりと補足した。
「ジェシカは生まれてすぐに養女に出されてね。一緒に暮らしたことはないんだ」
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