フットモンキー ~FooT MoNKeY~

崗本 健太郎

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第18話 元プロの神業

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第三章  情 熱 編

本日8月4日は新進気鋭の話題のチーム、御殿場ランナーズとの試合である。紫色のユニフォームが荘厳な彼らは、一人一人の意識が高く全員で目的が共有できていた。

サッカー選手としては珍しくベンチプレスが好きで、大胸筋が見事に発達しており、一人一人の個性を大切にし、全員がクリーンにプレーすることを示すため、白い手袋をしてプレーするという拘りを見せる紳士的なチームである。

そんなランナーズを束ねるキャプテンでエースの金 麒麟児は、去年の静岡リーグのMVPで、元Jリーガーだ。
この日は8月初頭ということもあって湿度が高く、ムシムシとした暑さの中での試合となった。試合前の一時、フィクソの銅とアラの銀が金と共にチームを盛り立てる。

「バランサーズか――今日は強敵ですね」
「そうだな。福祖と新しく入った本郷ってヤツ、それと特に室井には要注意だ」
「楽勝だろ?見せつけてやろうぜ。俺たちの『クリエイティブなサッカー』」

これはランナーズのコンセプトであり、決まり事を作らないというのが彼らの信条であった。このことで変則的でトリッキー、華麗で美しいプレーが可能となっていた。
それから3分ほど経ち、バランサーズボールでの試合開始。勢いよくボールを捌いてチャンスを伺ったが、攻撃から一転ランナーズボールでの守備となる。

ランナーズは穴になっている選手がおらず、誰もが他のチームでエースになれるかと思われるほどの実力者ぞろいだ。だが、彼らのネックになっているのはその人数であり、総勢6名しか居ない静岡県内で最も少ないチームであった。そんな彼らを見ていた昴は、あることが相当に気にかかったようだ。

“ワントップの『アイソレーション』かよ。スゲェ自信だな”
昴が驚嘆したこの孤立プレーは『クラウン』とも呼ばれる陣形で、本来ならサイドを固めるアラ二人をフィクソの位置まで下げ、得点力のある金一人でオフェンスを進めていくというものであった。ディフェンダーが3人寄って来たり、かなりの体力が必要であったりとフットサルの戦術としてはだいぶムチャなものであると考えられる。

これは、元Jリーガ―の金の実力を信ずればこそのスタイルなのであろう。そして、全くの金頼みということでは勿論なく、彼がポストプレーで演出したチャンスを、走り込んだアラ二人が活かし、シュートまで結びつけることができていた。

人数の関係で試合に出られない日がなければ、ひょっとすると県内最強なのではないかと思われるほどのチームで、攻守ともに全く粗のない完璧なチームのように思えた。

“相当に洗練されてるな。正月も休まず練習してる高校生のチームみたいだ”
そしてランナーズはアラの二人で繋ぎ、お決まりのパターンにしているのであろう、迷わず金へとパスを繋いだ。金は徐(おもむろ)にフェイントを加えて、保が為す術もなく抜かれてしまったのを尻目に、スライドで飛んだ苦氏が止める間もなくシュートを決めた。

金のこの『エラシコ』は、02年のワールドカップを制した、あのロナウジーニョも使っていた技である。ボールをつま先で抑え、左右に振ることによって相手を躱(かわ)す技で、内側に抜くことが多いと分かってはいるのだが、その華麗な妙技にどうしても惑わされてしまうのであった。

“気合入ってんな金さん。金さんって確か元Jリーガなんだよな。憧れるな~”
プロ級の人というのは案外たくさんいる。ユースで活躍プレーしている人、全国大会に出場した人、元プロなど。だが、そのどれもがプロという概念においては紛い物で、プロとして球団と契約している人物こそが本物のプロであると言えるのだ。

“夢は現実を忘れさせてくれるからいいんだよな~けど、それに甘えてちゃダメだ。
夢はたくさん描けるけど、現実はいつも一つしかないんだ。戦わなくちゃ、今の自分と”
 昴がそんなことを考えているのを尻目に、ランナーズ側はなんだか白熱していた。

「このまま二番手に甘んじるつもりはねえ。いつか金さんを越えてやるんだ!」
「いや、金さんを越えて、二番手を卒業するのは俺の方だ!」

アラの銀は相当な野心家のようであり、フィクソの銅も実質3番手ではあるものの、その向上心、実力ともに銀に負けず劣らずといった状況であった。そんな二人を見比べながら、不意に昴はあることに気が付いたようだ。

“銀さんは多分左利きだな。あれで右利きだったら変態だ”
実際、昴の読み通り銀は左利きであり、同じく左利きの蓮では咄嗟に右脚が出せないでいた。それから何とか前半を1対1で凌いで折り返すことができたバランサーズは、ハーフタイムに入ると昴、保がやはり金の話題で持ち切りであった。

「やっぱイカツイよね金さん」
「当たり前だ。あのイラン代表のアザールが、日本には金が居ると言ったくらいだ」
「へ~。有名なんだね、金さん」
「そりゃそうだ。サッカーではA代表にこそ選ばれてないが、U22の頃はスタメンだったからな。フットサル界の宝だよ、アイツは」

「そう言えば保さんって、金さんと同い年だったよね」
「ああ。上を見たらキリがないんだけど、時々惨めになるんだよな、比べると」
「人は人、自分は自分だよ。ジャンプしないんでしょ、保さん」
「まあそりゃそうだな。ありがとよ、気遣ってくれて」

 チーム最古参であり創設時から居る保と、22歳から7年間所属している昴の間には相当な信頼関係があった。相性があるとはいえ、月日が信頼を育むことは否めなかった。

一方ランナーズはチーム自体が3年前にできたものであり、全員が創設時のメンバーのままであった。見ると銅とアラの鉛ゴレイロの鉄がポニョの鋼と何やらモメている。

「ああっ、枝毛になってる」
「女子か!!」
「あ、指先ささくれてる」
「だから女子かって!!」
「あ~あ~、この八重歯さえ長くなければな~」
「お前らホントいい加減にしろよ。いろんな所でボケんなや。ツッコミきれねえよ」

ポニョの鋼は出場のタイミングを待っているため、元気が有り余っていた。
この一連のやり取りを見て、金は少々不安になったようだ。
「お前らいつまでそんなことやってんだ。体力はちゃんと持つんだろうな?」
「大丈夫ですよ、実際僕らピンピンしてますし」
「やっぱり胸刺さんから習った高地トレーニングが効いてますね」
「そうです!45分ハーフでも行けそうなくらいですよ」
「それなら安心だ。勝たないとな――アイツの為にも」

この高地トレーニングは標高2000m以上の山の上で走るというもので、00年にシドニー五輪を征した、マラソン日本代表のQちゃんこと、高橋尚子選手も行っていた練習法である。

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ここまで読んで頂いてありがとうございます。

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