夏から夏へ ~SumSumMer~

崗本 健太郎

文字の大きさ
27 / 48

第27話 音楽の授業

しおりを挟む
*ねりけしの話
 この頃はどこの小学校でもそうだが、ぼくの学校でも『ねりけし』が流行っていた。ねりけし』とは消しゴムのカスを集めて練ってかたまりにするというもので、それ専用の消しゴムが売られていたりもするものである。

 ぼくは専用の消しゴムを持っていなかったのだが、公園に行った時に違うクラスの子が持っていて『ねりけし』を少し分けてくれて、それを元にせっせと作っていた。だが、これには少し問題があって、専用の消しゴムと普通の消しゴムのカスを合わせると、大きくなるにつれて『ねりけし』がヒビ割れてくるのだ。

そこで水を足して柔らかくするのだが、欲張りすぎたぼくは水ではカバーしきれないくらい大きくしてしまって、『ねりけし』がぽろぽろ欠けるようになってしまった。だが、なんとなく愛着があったので机の隅にそっとしまっておいたのだった。

*やましたさんとの話 
 3年生の時に同じクラスになった山下さんという子は、背丈は普通くらいで髪が長く大人しめの性格の子だった。あすかちゃんと違うクラスになってからというもののなんだかこの子のことが気になっており、2学期になって偶然にも同じ班になった。

話しているうちにどんどん気になってきたのだが、別に付き合っているわけでもないのに、当時からクソ真面目だったぼくは、なんだかあすかちゃんに悪い気がして、その気持ちを抑え込むようにしていた。

 ぼくが風邪気味で熱っぽい時に心配してくれたり、前日から教科書を入れ替えるのを忘れた時に、席が隣で見せてくれたりと何かと親切にしてくれた。

 明るい性格のあすかちゃんとは対照的に、本を読んだり絵を描いたりすることが好きだったようで、くしゃみをする時に口に手を当てたり、律儀にハンカチで手をふいていたりと、わりとお上品な子でもあった。

 特に何かあったわけではないのだが、若い頃には異性に目移りしやすいもので、『意志の強い人間である』ということも一つの取柄であると言えそうだ。


*おんがくの授業の話
 ぼくは昔から高い声を出すのが苦手で、おんがくの授業の時はわりと苦労したものだった。先生に当てられた子がみんなの前で歌うのだが、みんなが当たり前に出せる高いドやレといった音域でも、ぼくには出すことができず、いつも悔しい思いをしていた。

 日本の授業はテクニックなど専門的なことを教えることは少なく、『とにかくやってみろ』というような進め方なので、指導をする時は、『裏声を混ぜてミックスボイスで歌う』といったような具体的な改善法を教えるようにしてほしいものである。

そんなこんなで授業を受けていたわけだが、ある日、クラスの高木さんという女子から衝撃的な一言を言われてしまった。

「おかもとくんの歌声って、ニワトリが首を絞められてる時みたいで変だよね」
「なっ(なんてこと言うんだの『な』)」

 小学生というのは時になんの配慮もすることなく、残酷な真実をためらわずにつきつけるものである。ぼくは今まで声が出ていないという自覚はあったのだが、まさか『ここまでむごい現実』をつきつけられるとは思っていなかったので、かなりのショックを受けたのであった。

「うるさいな。そんなこと言ったって真剣にやってるんだから仕方ないだろ」
「なによ、あんたが下手だから悪いんじゃない」

 気持ち的にひん死のところにこんなことを言われ、“ぼくだって一生懸命に歌っているのに、下手だから悪いと言われては立つ瀬がない”と思い、思わず今考えても酷いことを言ってしまった。

「なんだと、このゴリラ女」
「なによ、ゴリラって」

 それから、おんがくの先生が止めに入るまで二人でひたすら罵り合い、しばらくは全く話をしないようになってしまった。なんとか上手くなりたいと思い悩んだのだが、いかんせんやり方が分からなかったということもあり、当時やっていたリコーダーを頑張って練習して見返してやろうと考えた。

日本の小学校ではリコーダー、ピアニカ、ハーモニカをやるのが定番になっていて、どこの学校でもだいたいやっているのであった。そして、授業のたびに奮闘していたのだが、2学期末にクラスで発表会(成果を見せつけるためになぜかどの楽器でも必ずやる)をやることになった。

そこで頑張って来た成果が認められた(あれをそこまで本気でやる人はあまりいない)ため、先生が授業の終わりにぼくを名指しで褒めてくれた。

「たかぎさんとおかもとくんは本当によく頑張ったわね。先生感心しちゃった。これからも頑張ってね」
 これは後になって分かったことなのだが、たかぎさんの家はいわゆる『音楽一家』で、彼女は陰で楽器を相当練習していたようだった。

「あんたやればできんじゃん、見直したよ。下手なんて言ってごめんね」
「ううん、いいよ。あれがあったお陰で練習できたわけだし。ぼくもゴリラなんて言ってごめん」

 こうして仲直りできたわけだが、ぼくはこれまで何かあったら見返してやりたいと考え猛練習することで、だいたいのことは乗り切ってこれた。人生には『レベルアップ』は必要不可欠であり、そのままでいると忽ちみんなから追い抜かれてしまう。

みんなが日進月歩で努力している中では、『現状維持は即ち衰退』であり、集団の中で認められるためにも、日々努力して『何か光るもの』を身に付けられるようにすべきであると言える。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大人で子供な師匠のことを、つい甘やかす僕がいる。

takemot
児童書・童話
 薬草を採りに入った森で、魔獣に襲われた僕。そんな僕を助けてくれたのは、一人の女性。胸のあたりまである長い白銀色の髪。ルビーのように綺麗な赤い瞳。身にまとうのは、真っ黒なローブ。彼女は、僕にいきなりこう尋ねました。 「シチュー作れる?」  …………へ?  彼女の正体は、『森の魔女』。  誰もが崇拝したくなるような魔女。とんでもない力を持っている魔女。魔獣がわんさか生息する森を牛耳っている魔女。  そんな噂を聞いて、目を輝かせていた時代が僕にもありました。  どういうわけか、僕は彼女の弟子になったのですが……。 「うう。早くして。お腹がすいて死にそうなんだよ」 「あ、さっきよりミルク多めで!」 「今日はダラダラするって決めてたから!」  はあ……。師匠、もっとしっかりしてくださいよ。  子供っぽい師匠。そんな師匠に、今日も僕は振り回されっぱなし。  でも時折、大人っぽい師匠がそこにいて……。  師匠と弟子がおりなす不思議な物語。師匠が子供っぽい理由とは。そして、大人っぽい師匠の壮絶な過去とは。  表紙のイラストは大崎あむさん(https://twitter.com/oosakiamu)からいただきました。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

不幸でしあわせな子どもたち 「しあわせのふうせん」

山口かずなり
絵本
小説 不幸でしあわせな子どもたち スピンオフ作品 ・ ウルが友だちのメロウからもらったのは、 緑色のふうせん だけどウルにとっては、いらないもの いらないものは、誰かにとっては、 ほしいもの。 だけど、気づいて ふうせんの正体に‥。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

【3章】GREATEST BOONS ~幼なじみのほのぼのバディがクリエイトスキルで異世界に偉大なる恩恵をもたらします!~

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)とアイテムを生みだした! 彼らのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅するほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能を使って読み進めることをお勧めします。さらに「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です! レーティング指定の描写はありませんが、万が一気になる方は、目次※マークをさけてご覧ください。

ぽんちゃん、しっぽ!

こいちろう
児童書・童話
 タケルは一人、じいちゃんとばあちゃんの島に引っ越してきた。島の小学校は三年生のタケルと六年生の女子が二人だけ。昼休みなんか広い校庭にひとりぼっちだ。ひとりぼっちはやっぱりつまらない。サッカーをしたって、いつだってゴールだもん。こんなにゴールした小学生ってタケルだけだ。と思っていたら、みかん畑から飛び出してきた。たぬきだ!タケルのけったボールに向かっていちもくさん、あっという間にゴールだ!やった、相手ができたんだ。よし、これで面白くなるぞ・・・

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

処理中です...