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第一合
第5話
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人知れず人ならザルものからの頼みを安請け合いしてしまった俺は、ひとまずSOSを発信することにした。
スマホから大人へ。
この時点からして個人で持て余すのは目に見えていたからだ。
「あいよ」
そう素っ気なく電話に出たのは秋田小町という名の三十路の女性で、中学生のころにお世話になった恩師だ。
かつては教鞭をとる先生だったがいまはまったく別の仕事をしている。
その仕事というのは『美人料理研究家』という定職なんだか無職なんだかよくわからない、家事手伝いみたいなふわっとしたものだ。
実状は深く知らない。しばらく連絡をとっていなかったし詮索してよいものか判断できなかったからだ。とにかく料理を生業にしているのは確からしい。
それが全てではないが、俺がいま心から頼れるのは精神的に彼女だけだった。
「どうも先生、ひかりです。ご無沙汰しています」
「ふん、何か困りごとのようだな」
俺が挨拶をするとすぐさま見透かすような返事が小町先生から返ってきた。
鋭い。すばり言い当てられた。
ひょっとするとこちらから連絡するのは助けてほしいときだけだとおもわれているのかも知れない。
ちょっとショックだ。
しかしかなしいかな当たりである。
「えー、まあそんなとこですかね……」
「さっさと言ってみろ」
およそ結婚適齢期を過ぎてそうな女性とは思えないぶっきらぼうな口調で彼女は先を促す。
昔からこのように色気は皆無だったが話が早くて結構だ。
「それが……」
と言いかけたところで俺は頭が真っ白になり茫然としてしまった。
どう説明したらよいものかさっぱりだったからだ。
口が金魚みたいにパクパクして続きが出てこない。
ノーアイディアに、ノープランだった。
「どうしたんだ? さっさと言え」
こちらがまごついていると小町先生が少し苛立ったような語調になる。
「そうしたいのは山々ですが、何と言ったらいいか……ちょい複雑で」
「だいたいでいい。端的に、わかりやすく、事実だけを淡々と述べろ」
「で、でも、そうすると俺が頭がおかしいやつと思われてしまうような……」
「心配するな。絶対に思わないから正直に話してみろ」
「わりました。ではお話します。座敷童という妖怪が現れてしかも食べ物のアレルギー持ちなので食べられるものを探してあげたいんです」
「お前、頭がおかしいんじゃないのか?」
「ほらあああ!」
だから言ったじゃないですか。
自分でも言っててアレって思ったよ。
突拍子がないにもほどがあるもん。
これでもし、わかった任せろなんて応じたらいよいよこの人もやばいし。
「何がほらだ。ホラを吹いているのはお前だろ」
「本当なんですって」
「わかった。信じよう」
「柔軟性すごっ。切り替えはやっ。信じるんですか? いまのを話を……?」
「ああ」
「妖怪なんてものの存在を?」
「いいや。アレルギーとお前をだ。体が反応するならそうなんだろうし、お前がそう言うならそうなんだろう」
「先生……やっぱり電話してよかったです!」
不覚にもぐっときて声が大きくなってしまった。
俺もこの人なら話を聞いてくれると信じていた。
すがった相手に間違いはなかったのだ。
すなわち異常な事象には凡人ではなく超人に頼るしかない。
まあさすがにこうすんなり行くとは思わなかったが。
「思ったより深刻そうだな。会って詳しく聞いてやる。私の家はわかるな?」
「ええ。小町先生が引っ越してなければ住所は存じてます」
「いつ来られる?」
「今すぐにでも」
「それは構わないが時間も時間だ。親に連絡は……不要か」
「ええいりません」
「そうか、相変わらずか。まあいい。では待っているぞ」
とんとん拍子で通話が終了。
スマホを仕舞い俺は再び歩道上で動かなくなってしまったぴりかを見下ろす。
その姿は街灯が作り出す陰影のせいか心なしか儚げに映った。
スマホから大人へ。
この時点からして個人で持て余すのは目に見えていたからだ。
「あいよ」
そう素っ気なく電話に出たのは秋田小町という名の三十路の女性で、中学生のころにお世話になった恩師だ。
かつては教鞭をとる先生だったがいまはまったく別の仕事をしている。
その仕事というのは『美人料理研究家』という定職なんだか無職なんだかよくわからない、家事手伝いみたいなふわっとしたものだ。
実状は深く知らない。しばらく連絡をとっていなかったし詮索してよいものか判断できなかったからだ。とにかく料理を生業にしているのは確からしい。
それが全てではないが、俺がいま心から頼れるのは精神的に彼女だけだった。
「どうも先生、ひかりです。ご無沙汰しています」
「ふん、何か困りごとのようだな」
俺が挨拶をするとすぐさま見透かすような返事が小町先生から返ってきた。
鋭い。すばり言い当てられた。
ひょっとするとこちらから連絡するのは助けてほしいときだけだとおもわれているのかも知れない。
ちょっとショックだ。
しかしかなしいかな当たりである。
「えー、まあそんなとこですかね……」
「さっさと言ってみろ」
およそ結婚適齢期を過ぎてそうな女性とは思えないぶっきらぼうな口調で彼女は先を促す。
昔からこのように色気は皆無だったが話が早くて結構だ。
「それが……」
と言いかけたところで俺は頭が真っ白になり茫然としてしまった。
どう説明したらよいものかさっぱりだったからだ。
口が金魚みたいにパクパクして続きが出てこない。
ノーアイディアに、ノープランだった。
「どうしたんだ? さっさと言え」
こちらがまごついていると小町先生が少し苛立ったような語調になる。
「そうしたいのは山々ですが、何と言ったらいいか……ちょい複雑で」
「だいたいでいい。端的に、わかりやすく、事実だけを淡々と述べろ」
「で、でも、そうすると俺が頭がおかしいやつと思われてしまうような……」
「心配するな。絶対に思わないから正直に話してみろ」
「わりました。ではお話します。座敷童という妖怪が現れてしかも食べ物のアレルギー持ちなので食べられるものを探してあげたいんです」
「お前、頭がおかしいんじゃないのか?」
「ほらあああ!」
だから言ったじゃないですか。
自分でも言っててアレって思ったよ。
突拍子がないにもほどがあるもん。
これでもし、わかった任せろなんて応じたらいよいよこの人もやばいし。
「何がほらだ。ホラを吹いているのはお前だろ」
「本当なんですって」
「わかった。信じよう」
「柔軟性すごっ。切り替えはやっ。信じるんですか? いまのを話を……?」
「ああ」
「妖怪なんてものの存在を?」
「いいや。アレルギーとお前をだ。体が反応するならそうなんだろうし、お前がそう言うならそうなんだろう」
「先生……やっぱり電話してよかったです!」
不覚にもぐっときて声が大きくなってしまった。
俺もこの人なら話を聞いてくれると信じていた。
すがった相手に間違いはなかったのだ。
すなわち異常な事象には凡人ではなく超人に頼るしかない。
まあさすがにこうすんなり行くとは思わなかったが。
「思ったより深刻そうだな。会って詳しく聞いてやる。私の家はわかるな?」
「ええ。小町先生が引っ越してなければ住所は存じてます」
「いつ来られる?」
「今すぐにでも」
「それは構わないが時間も時間だ。親に連絡は……不要か」
「ええいりません」
「そうか、相変わらずか。まあいい。では待っているぞ」
とんとん拍子で通話が終了。
スマホを仕舞い俺は再び歩道上で動かなくなってしまったぴりかを見下ろす。
その姿は街灯が作り出す陰影のせいか心なしか儚げに映った。
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