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本編
75 闇の瞳と救いの光4 【side ラジウス】
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「・・・ラジウス、誰か付けてきている。このまま路地に入るぞ。」
僕は頷き、足を早めた。薄暗い路地へ入ろうと思った途端、ぶわり、と全身の毛が逆立つような気配がした。
(殺気!なんて強い)
思わず振り返ると、そこには屈強な3人の男がこちらを睨みつけていた。下町には似つかわしくない身なりで騎士崩れか何かだろう。目立たないようにするためか長刀は佩いておらず手に小刀を持っている。殿下を害そうとしていることに間違いはなかった。
殿下も僕も魔力制御が完全ではないので、やみくもに魔力を使うのは街を破壊する危険もあり避けたい。地の利はこちらにあるので力では敵わないが撒けるかもしれない。
人ごみを抜けて慌てて路地へ入る。人がひとり入れる程度の細い道なので大勢では近づけないからだ。
そのまま全速力で駆け抜けると噴水がある広場に出る。殿下は抜刀し、くるりと向きを変えて出てくる追手を身構えた。
ひとりづつ路地を抜けてくる男を順番に相手にする。小刀を持って飛び出した男に刀で対抗する。キンッ!という金属音と共に男は小刀を落とす。
「ラジウス、捕縛しろ!」
殿下の掛け声に合わせて小さく『動くな』と魔力で男を拘束する。次の男は殿下が蹴り倒して気絶させた。
ごくり、と唾を呑み込む。あと、ひとり。
誰かが通報してくれたのか、「君たち大丈夫かっ」という声が聞こえ、ばらばらと街の警備を行う騎士達が駆けつけてきた。野次馬も寄ってきた。動けなくなった男たちを騎士に引き渡す。
騎士に任せれば大丈夫だろうと気を抜いたその時だった。殿下の後ろから突然現れた男が、力いっぱい小刀を投げつけた。
「危ないっ・・・・!!」
かすれた声が出たものの、とっさのことで体が動かない。
直後にぐさり、という嫌な音と一緒に目の前の殿下がよろめき、倒れた。左肩には刀が刺さっていた。
「あ、、、あ、、、」
僕はがたがたと震えるばかりで何もできずに立ち尽くすだけだった。
襲われた恐怖と真っ赤な血の鮮やかさ。騎士が殿下の傍へ駆け寄り、応急措置を施すのが見える。
目の前が赤く染まり、僕の意識は遠のいた。
*****
「よかった。ラジウス、気が付いたか?」
目が覚めると、王宮内の自分の部屋に寝かされていた。悪い夢だと思いたかったが、目の前の殿下は肩に包帯を巻いており痛々しい。
「怪我はっ?!」
がばりと起き上がり、怪我をしていない反対側の腕を掴む。殿下は安心させるように、にかりと笑った。
「大丈夫、大した怪我じゃない。それよりもお前のほうが大丈夫か? 恐ろしい目に合わせて済まなかったな。」
「ごめんなさいっ。殿下をお護りすることが僕の役目なのに、何もできなくてっ・・・」
最後まで言葉が続かなかった。気づくと、僕はぼろぼろと大粒の涙をあふれさせて泣いていた。自分の魔力を過信して肝心な時に役に立たないなんて。
なんて、弱い。なんて、愚かな。
えぐえぐと泣いていると、殿下が困ったような顔をして僕の頭をがしがしと撫でた。
「ラジウス、泣くな。頼むから・・・。俺は刺客なんて慣れているからどうってことはない。それよりお前が泣くほうがつらい。いつもみたいに笑ってくれ。」
涙が止まらないまま殿下を見上げる。濁りのない青い瞳が僕を映す。
こんなことがあっても僕のことを心配してくれるなんて、と思うとまた涙が溢れた。
視界が、涙で滲む。
このやさしい主に報いるには、僕はいったい何ができるだろうと思いながら。
僕は頷き、足を早めた。薄暗い路地へ入ろうと思った途端、ぶわり、と全身の毛が逆立つような気配がした。
(殺気!なんて強い)
思わず振り返ると、そこには屈強な3人の男がこちらを睨みつけていた。下町には似つかわしくない身なりで騎士崩れか何かだろう。目立たないようにするためか長刀は佩いておらず手に小刀を持っている。殿下を害そうとしていることに間違いはなかった。
殿下も僕も魔力制御が完全ではないので、やみくもに魔力を使うのは街を破壊する危険もあり避けたい。地の利はこちらにあるので力では敵わないが撒けるかもしれない。
人ごみを抜けて慌てて路地へ入る。人がひとり入れる程度の細い道なので大勢では近づけないからだ。
そのまま全速力で駆け抜けると噴水がある広場に出る。殿下は抜刀し、くるりと向きを変えて出てくる追手を身構えた。
ひとりづつ路地を抜けてくる男を順番に相手にする。小刀を持って飛び出した男に刀で対抗する。キンッ!という金属音と共に男は小刀を落とす。
「ラジウス、捕縛しろ!」
殿下の掛け声に合わせて小さく『動くな』と魔力で男を拘束する。次の男は殿下が蹴り倒して気絶させた。
ごくり、と唾を呑み込む。あと、ひとり。
誰かが通報してくれたのか、「君たち大丈夫かっ」という声が聞こえ、ばらばらと街の警備を行う騎士達が駆けつけてきた。野次馬も寄ってきた。動けなくなった男たちを騎士に引き渡す。
騎士に任せれば大丈夫だろうと気を抜いたその時だった。殿下の後ろから突然現れた男が、力いっぱい小刀を投げつけた。
「危ないっ・・・・!!」
かすれた声が出たものの、とっさのことで体が動かない。
直後にぐさり、という嫌な音と一緒に目の前の殿下がよろめき、倒れた。左肩には刀が刺さっていた。
「あ、、、あ、、、」
僕はがたがたと震えるばかりで何もできずに立ち尽くすだけだった。
襲われた恐怖と真っ赤な血の鮮やかさ。騎士が殿下の傍へ駆け寄り、応急措置を施すのが見える。
目の前が赤く染まり、僕の意識は遠のいた。
*****
「よかった。ラジウス、気が付いたか?」
目が覚めると、王宮内の自分の部屋に寝かされていた。悪い夢だと思いたかったが、目の前の殿下は肩に包帯を巻いており痛々しい。
「怪我はっ?!」
がばりと起き上がり、怪我をしていない反対側の腕を掴む。殿下は安心させるように、にかりと笑った。
「大丈夫、大した怪我じゃない。それよりもお前のほうが大丈夫か? 恐ろしい目に合わせて済まなかったな。」
「ごめんなさいっ。殿下をお護りすることが僕の役目なのに、何もできなくてっ・・・」
最後まで言葉が続かなかった。気づくと、僕はぼろぼろと大粒の涙をあふれさせて泣いていた。自分の魔力を過信して肝心な時に役に立たないなんて。
なんて、弱い。なんて、愚かな。
えぐえぐと泣いていると、殿下が困ったような顔をして僕の頭をがしがしと撫でた。
「ラジウス、泣くな。頼むから・・・。俺は刺客なんて慣れているからどうってことはない。それよりお前が泣くほうがつらい。いつもみたいに笑ってくれ。」
涙が止まらないまま殿下を見上げる。濁りのない青い瞳が僕を映す。
こんなことがあっても僕のことを心配してくれるなんて、と思うとまた涙が溢れた。
視界が、涙で滲む。
このやさしい主に報いるには、僕はいったい何ができるだろうと思いながら。
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