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<ただ、幸せなだけの日常>
八鬼が居ない日(2)
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「そうかよ」
「ほんと、あんたって中身最悪なのに外側だけは極上品よねぇ」
普段の八鬼もカッコいいとは思ってるけどこんなに大人っぽくなるなんて!
僕が同じ格好をしても学芸会だろうなぁ。羨ましいなぁ。
食堂にはまだ人が残っていた。普段八鬼を怖がってる同級生達まで見惚れてる。
別に僕が感心されてるわけでもないのに、なんだか自慢に思ってしまう。
ただ、ヒロト君だけは八鬼を指差しながら爆笑してた。
八鬼はそんなヒロト君を問答無用で蹴飛ばす。
「こい」
数メートルも吹っ飛ばされ床に転がった彼に見向きもせずに、八鬼はトレイを片手に持って、僕の腕を引いて歩き出した。
「八鬼がねたましい」
「いきなりなんだよ」
「僕もタキシードが似合う男になりたい」
「お前が着たら七五三だな」
ひどい!
学芸会より酷くなった!
階段を上がって、部屋に戻る。
椅子に僕を座らせ自分も横に座ると、
「ほら、食え」
と、箸でご飯を摘んで、僕の口元に差し出してきた。
え? ……まさか……!
「ひょっとして、僕にご飯食べさせるために帰ってきた……!?」
「たりめーだろが。途中で抜けてきたから、ここに居れる時間は一時間しかねぇんだよ。着替える暇もねえ」
「ええええ!? わ、わざわざ帰ってこなくてよかったのに……!」
「朝も昼も食ってねえなんて聞いて、ほっとける訳ねぇだろ」
う。
「面倒ばかりかけてごめん……」
「面倒じゃねーよ。お前が飯を食えなくなったのは俺の責任だ。このぐらいしてやんのは当然だ」
当然……なのかな……?
今はちゃんと八鬼のことが好きなのに、負担になったままなのが心苦しいよ。
早く、自分で食べれるようにならないとな。
「どうした?」
八鬼の掌が僕の頬をなでる。
その手に促されるみたいに口を開いてご飯を貰う。
「美味しい」
「ただの米がか?」
「美味しいよ」
八鬼が傍にいれば何でも美味しい。傍にいないと、食べ物でも食べ物じゃない感じがするけど。
「弱った鹿を餌付けしてる気分になるな」
「丸々太ったら食べられるのかな」
「もう食ってるだろ」
?
僕は食べられてないよ?
意味がわからなくて、次の言葉を待って八鬼を見上げる。
八鬼は呆れたみたいな顔をするだけで意味を教えてはくれなかった。
「ほら」
続いてジャガイモの味噌汁。
久しぶりに食べるな。ジャガイモの味噌汁好きだ。
熱々で美味しい。
一通り食べさせてもらって、ようやくお腹が減ってくる。
「八鬼はご飯食べた? まだなら半分こしようよ」
「食ったからいらねえよ」
そっか。僕ばかり食べるのは申し訳ないな。
一時間しか居ないんだ。早く全部食べてせめて八鬼を安心させよう。
焦って口に入れる。
八鬼の大きな掌が僕の頭をなでた。
「ゆっくり食え。食い終わるまでちゃんといるから」
「……ありがとう……」
言葉が小さくなってしまう。
本当にありがとう、八鬼。
感謝が大きすぎて声が詰る。
八鬼の指が髪を辿る。
ちゃんと言葉にしなきゃ駄目なのに、伝わっているような気がして声を呑んでしまった。
トレイの上の食べ物が三分の一ぐらい減った頃、八鬼が立ち上がって上着を脱いだ。
冷蔵庫から食材を取り出しキッチンに並べていく。
「八鬼?」
「いいから全部食え」
腕まくりをしエプロンをつけて、手早く料理を始める。
僕の家には男子厨房に入らずなんて大正時代みたいな決まり事があったから、僕は料理なんてまるでできない。
そんな僕の前で、八鬼は見事な手さばきで次々に料理を作っていった。
卵焼き、ウインナー、唐揚げ。早炊きにしたご飯が炊き上がると、湯気だけでも火傷しそうなぐらい熱いのに、八鬼は躊躇い無くお握りにしていった。
ワンプレートにお握りと卵焼き、ウインナー。別のプレートには唐揚げと千切りキャベツが盛り付けられる。
「お、美味しそう……! 八鬼ってほんと凄いね。料理もできるなんて」
「凄くねえ。母親が働いてたから飯は俺の担当だったってだけだ。これが朝飯。昼はこれを食え。お前、俺が作ったうどんは自分で食ったよな? 手料理なら食えるんじゃねえか?」
「…………!」
言われて見ればそのとおりだ。
八鬼の手料理なら、食べられる。
僕の為に作ってもらったご飯だ。残すなんてとんでもない。
「どうだ? 食べられそうか?」
「うん……! 絶対食べるよ!」
「夜までには帰ってくるから、晩飯は一緒に食うぞ」
「……! うん、うん……!!」
ビリリ、と、電子音が鳴った。
八鬼のスマホだ。
「時間切れか……」
誰かが電話を掛けてきたみたいだ。八鬼は「今から戻る」と短く答えて、エプロンを脱ぎ上着に腕を通した。
「行くんだね」
「あぁ」
ぐいって引っ張られ、一気に八鬼が近くなる。
そして、キスを、された。
ちゅ、って音が鳴る。
「う、う」
キス以上のこともしているのに全然慣れない。ぐわって真っ赤になる。熱を冷ますために冷たい指で顔に触れた。
特に今日は、八鬼がかっこよすぎるから余計に恥ずかしい……!
「明日な」
部屋を出る八鬼を慌てて追いかける。
「どうした?」
「校門まで見送る」
歩幅の広い八鬼を小走りで追う。
八鬼はすぐに足を止めて、僕に掌を差し出した。
周りに誰もいないことを確認してから、その手を握る。
八鬼の手は僕の手よりも随分大きい。
なんだか、自分が子供になって大人と手を繋いでいるような不思議な感じがして、心のどこかが締め付けられた。
僕が子供の頃……こんな風に、大人と手を繋ぐことなんて無かった。
お父さんとお母さんに手を繋がれて居る子が、羨ましかった。
ぎゅっと握ると、八鬼もぎゅって握り返してくれて。
なんだかしあわせだ。なんて、思ってしまった。
(子供の頃、両親にしてほしかったことが全部叶っていく)
「ほんと、あんたって中身最悪なのに外側だけは極上品よねぇ」
普段の八鬼もカッコいいとは思ってるけどこんなに大人っぽくなるなんて!
僕が同じ格好をしても学芸会だろうなぁ。羨ましいなぁ。
食堂にはまだ人が残っていた。普段八鬼を怖がってる同級生達まで見惚れてる。
別に僕が感心されてるわけでもないのに、なんだか自慢に思ってしまう。
ただ、ヒロト君だけは八鬼を指差しながら爆笑してた。
八鬼はそんなヒロト君を問答無用で蹴飛ばす。
「こい」
数メートルも吹っ飛ばされ床に転がった彼に見向きもせずに、八鬼はトレイを片手に持って、僕の腕を引いて歩き出した。
「八鬼がねたましい」
「いきなりなんだよ」
「僕もタキシードが似合う男になりたい」
「お前が着たら七五三だな」
ひどい!
学芸会より酷くなった!
階段を上がって、部屋に戻る。
椅子に僕を座らせ自分も横に座ると、
「ほら、食え」
と、箸でご飯を摘んで、僕の口元に差し出してきた。
え? ……まさか……!
「ひょっとして、僕にご飯食べさせるために帰ってきた……!?」
「たりめーだろが。途中で抜けてきたから、ここに居れる時間は一時間しかねぇんだよ。着替える暇もねえ」
「ええええ!? わ、わざわざ帰ってこなくてよかったのに……!」
「朝も昼も食ってねえなんて聞いて、ほっとける訳ねぇだろ」
う。
「面倒ばかりかけてごめん……」
「面倒じゃねーよ。お前が飯を食えなくなったのは俺の責任だ。このぐらいしてやんのは当然だ」
当然……なのかな……?
今はちゃんと八鬼のことが好きなのに、負担になったままなのが心苦しいよ。
早く、自分で食べれるようにならないとな。
「どうした?」
八鬼の掌が僕の頬をなでる。
その手に促されるみたいに口を開いてご飯を貰う。
「美味しい」
「ただの米がか?」
「美味しいよ」
八鬼が傍にいれば何でも美味しい。傍にいないと、食べ物でも食べ物じゃない感じがするけど。
「弱った鹿を餌付けしてる気分になるな」
「丸々太ったら食べられるのかな」
「もう食ってるだろ」
?
僕は食べられてないよ?
意味がわからなくて、次の言葉を待って八鬼を見上げる。
八鬼は呆れたみたいな顔をするだけで意味を教えてはくれなかった。
「ほら」
続いてジャガイモの味噌汁。
久しぶりに食べるな。ジャガイモの味噌汁好きだ。
熱々で美味しい。
一通り食べさせてもらって、ようやくお腹が減ってくる。
「八鬼はご飯食べた? まだなら半分こしようよ」
「食ったからいらねえよ」
そっか。僕ばかり食べるのは申し訳ないな。
一時間しか居ないんだ。早く全部食べてせめて八鬼を安心させよう。
焦って口に入れる。
八鬼の大きな掌が僕の頭をなでた。
「ゆっくり食え。食い終わるまでちゃんといるから」
「……ありがとう……」
言葉が小さくなってしまう。
本当にありがとう、八鬼。
感謝が大きすぎて声が詰る。
八鬼の指が髪を辿る。
ちゃんと言葉にしなきゃ駄目なのに、伝わっているような気がして声を呑んでしまった。
トレイの上の食べ物が三分の一ぐらい減った頃、八鬼が立ち上がって上着を脱いだ。
冷蔵庫から食材を取り出しキッチンに並べていく。
「八鬼?」
「いいから全部食え」
腕まくりをしエプロンをつけて、手早く料理を始める。
僕の家には男子厨房に入らずなんて大正時代みたいな決まり事があったから、僕は料理なんてまるでできない。
そんな僕の前で、八鬼は見事な手さばきで次々に料理を作っていった。
卵焼き、ウインナー、唐揚げ。早炊きにしたご飯が炊き上がると、湯気だけでも火傷しそうなぐらい熱いのに、八鬼は躊躇い無くお握りにしていった。
ワンプレートにお握りと卵焼き、ウインナー。別のプレートには唐揚げと千切りキャベツが盛り付けられる。
「お、美味しそう……! 八鬼ってほんと凄いね。料理もできるなんて」
「凄くねえ。母親が働いてたから飯は俺の担当だったってだけだ。これが朝飯。昼はこれを食え。お前、俺が作ったうどんは自分で食ったよな? 手料理なら食えるんじゃねえか?」
「…………!」
言われて見ればそのとおりだ。
八鬼の手料理なら、食べられる。
僕の為に作ってもらったご飯だ。残すなんてとんでもない。
「どうだ? 食べられそうか?」
「うん……! 絶対食べるよ!」
「夜までには帰ってくるから、晩飯は一緒に食うぞ」
「……! うん、うん……!!」
ビリリ、と、電子音が鳴った。
八鬼のスマホだ。
「時間切れか……」
誰かが電話を掛けてきたみたいだ。八鬼は「今から戻る」と短く答えて、エプロンを脱ぎ上着に腕を通した。
「行くんだね」
「あぁ」
ぐいって引っ張られ、一気に八鬼が近くなる。
そして、キスを、された。
ちゅ、って音が鳴る。
「う、う」
キス以上のこともしているのに全然慣れない。ぐわって真っ赤になる。熱を冷ますために冷たい指で顔に触れた。
特に今日は、八鬼がかっこよすぎるから余計に恥ずかしい……!
「明日な」
部屋を出る八鬼を慌てて追いかける。
「どうした?」
「校門まで見送る」
歩幅の広い八鬼を小走りで追う。
八鬼はすぐに足を止めて、僕に掌を差し出した。
周りに誰もいないことを確認してから、その手を握る。
八鬼の手は僕の手よりも随分大きい。
なんだか、自分が子供になって大人と手を繋いでいるような不思議な感じがして、心のどこかが締め付けられた。
僕が子供の頃……こんな風に、大人と手を繋ぐことなんて無かった。
お父さんとお母さんに手を繋がれて居る子が、羨ましかった。
ぎゅっと握ると、八鬼もぎゅって握り返してくれて。
なんだかしあわせだ。なんて、思ってしまった。
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