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第一部 未成熟な想い (小学生編)
第60話
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その日の授業もクラスも、美紗子にとっては何事もない、普段の日常だった。
そもそも美紗子はそれ程色々な女子と話して歩いている訳ではなかった。
他の女子のグループからも一目置かれる、ちょっとおしゃれな子のグループ、悠那のグループに入っていたからだ。
休み時間の用事のない時は、本を読んで過ごすか、悠那の隣に並び、仲の良い友達らと話をして過ごしている。
一目置かれているグループである。他の女子もそうそうその子達に美紗子の噂を流す勇気もなかったし、タイミングもなかった。
そんな訳で、まだ美紗子はクラス内の動きに気付かず、幸一と話せない事の悲しさだけを胸に過ごしていた。
昼休みの校庭の片隅。
いつもの遊び友達、五十嵐、谷口、丸山とドッヂボールのボールで円になって遊んでいる幸一。
しかし今日はそこに太一の姿もあった。
「どーゆー事。急に仲良くなった?」
幸一の隣にいた五十嵐が側に寄って来て小声で尋ねる。
「知らないよ。何か今日はちょこちょこ側に来るんだ。昼休みも校庭に出ようとしたら、『何をするんだ? 混ぜろっ』って付いて来て。大体アイツ、やる事やってんだろうな?」
「何だよ? やる事って?」
幸一の言葉尻を掴んで五十嵐が更に尋ねた。
「あ、いや。何でもない」
慌てて打ち消そうとする幸一。
あの事とは、朝の話の事だった。
その間も、五十嵐と幸一が話しているのを、太一はじっと見ていた。
ボールは丸山から谷口へ、そして幸一へと投げられた。
普段一緒に遊ばない太一のもとへは、基本的に殆どボールは飛んで来なかった。
そして幸一の予想通り、太一はまだ女子に噂の事とか、今朝の黒板の事とか、訊いて回ってはいなかった。
太一は普段、自分では普通の顔をしているつもりなのだが、どうやら周囲から見るとムッとして怒っている様に見えるらしかった。それを教えてくれたのは自分のクラスの人ではなくて、二組の北村颯太だった。
颯太は少し乱暴な所がある子で、喧嘩が強く、怒ると怖いのだが、普段自分のクラスの女子とも普通に話していて、男子からもそれなりに人気のある存在だった。
太一はいつも女子に話し掛けると、一瞬相手が困った様な顔をされるのに気付いてからは、あまり積極的に女子に話し掛ける事がなくなっていた。しかし、美紗子に対してだけは別で、何とか話し掛けたかった。親しくなりたかった。
それで三年の時同じクラスで、比較的仲の良かった颯太に相談したのだった。
「それはお前、無表情だからだよ。笑え! いつでも何処でもヘラヘラ笑ってろ!」
颯太は太一の両方の頬を思いっきり引っ張りながら、面白そうに笑っていた。
(俺もそんな風に笑えれば、人生変わるのかな?)
颯太の顔を見ながらそんな事を考えていると、両の頬を引っ張られながらも、太一は微笑んだ。
「そうだよ。それで良いんだよ! そうしていれば女子だって気軽に話し易いさ」
それから太一は生まれ変わろうとしているのだけれど、なかなか上手くは行かなかった。
つづく
そもそも美紗子はそれ程色々な女子と話して歩いている訳ではなかった。
他の女子のグループからも一目置かれる、ちょっとおしゃれな子のグループ、悠那のグループに入っていたからだ。
休み時間の用事のない時は、本を読んで過ごすか、悠那の隣に並び、仲の良い友達らと話をして過ごしている。
一目置かれているグループである。他の女子もそうそうその子達に美紗子の噂を流す勇気もなかったし、タイミングもなかった。
そんな訳で、まだ美紗子はクラス内の動きに気付かず、幸一と話せない事の悲しさだけを胸に過ごしていた。
昼休みの校庭の片隅。
いつもの遊び友達、五十嵐、谷口、丸山とドッヂボールのボールで円になって遊んでいる幸一。
しかし今日はそこに太一の姿もあった。
「どーゆー事。急に仲良くなった?」
幸一の隣にいた五十嵐が側に寄って来て小声で尋ねる。
「知らないよ。何か今日はちょこちょこ側に来るんだ。昼休みも校庭に出ようとしたら、『何をするんだ? 混ぜろっ』って付いて来て。大体アイツ、やる事やってんだろうな?」
「何だよ? やる事って?」
幸一の言葉尻を掴んで五十嵐が更に尋ねた。
「あ、いや。何でもない」
慌てて打ち消そうとする幸一。
あの事とは、朝の話の事だった。
その間も、五十嵐と幸一が話しているのを、太一はじっと見ていた。
ボールは丸山から谷口へ、そして幸一へと投げられた。
普段一緒に遊ばない太一のもとへは、基本的に殆どボールは飛んで来なかった。
そして幸一の予想通り、太一はまだ女子に噂の事とか、今朝の黒板の事とか、訊いて回ってはいなかった。
太一は普段、自分では普通の顔をしているつもりなのだが、どうやら周囲から見るとムッとして怒っている様に見えるらしかった。それを教えてくれたのは自分のクラスの人ではなくて、二組の北村颯太だった。
颯太は少し乱暴な所がある子で、喧嘩が強く、怒ると怖いのだが、普段自分のクラスの女子とも普通に話していて、男子からもそれなりに人気のある存在だった。
太一はいつも女子に話し掛けると、一瞬相手が困った様な顔をされるのに気付いてからは、あまり積極的に女子に話し掛ける事がなくなっていた。しかし、美紗子に対してだけは別で、何とか話し掛けたかった。親しくなりたかった。
それで三年の時同じクラスで、比較的仲の良かった颯太に相談したのだった。
「それはお前、無表情だからだよ。笑え! いつでも何処でもヘラヘラ笑ってろ!」
颯太は太一の両方の頬を思いっきり引っ張りながら、面白そうに笑っていた。
(俺もそんな風に笑えれば、人生変わるのかな?)
颯太の顔を見ながらそんな事を考えていると、両の頬を引っ張られながらも、太一は微笑んだ。
「そうだよ。それで良いんだよ! そうしていれば女子だって気軽に話し易いさ」
それから太一は生まれ変わろうとしているのだけれど、なかなか上手くは行かなかった。
つづく
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