何処へいこう

孤独堂

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第十七話 コンビニに行こう

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 あれから二日後の日曜日の夜。
 その日は渡辺と美冬の約束の日だった。
 車は渡辺の娘、遥のバイトするコンビニが見下ろせる、町の高台の公園の駐車場に停まっていた。

「何で真っ直ぐに行かないの?」

 人気のない高台の駐車場という事で、美冬は少し警戒しながら尋ねる。

「うん」

 渡辺は前を見つめたままそう一言だけ言葉を漏らすと、また黙った。

 車を此処に停めてから既に十分以上経つ。
 渡辺はその間何かを考えているらしく黙り込んでいた。

「娘さんとこ、行かないの?」

 だから美冬は、もう一度渡辺にそう尋ねた。
 言葉の中に『娘さん』と出したのは、万が一を警戒して、渡辺に理性を保たせる為に暗に含ませた言葉だ。

「考えてる」

 それに対しても渡辺は、またもポツリと一言だけ呟く。

「何を?」

 だから渡辺の顔を覗き込む様にして、美冬が再度尋ねた。

「娘に会いたい」

「会えばいいじゃん」

「そんな簡単には」

 そう言いながら渡辺は美冬の方を向いた。

「簡単じゃん」

 渡辺が振り向いた先では、美冬が真剣な顔をして渡辺を見ていた。

「えっ」

 その言葉と真面目な表情に思わず渡辺は言葉を失った。

「行けば良いだけなんだから、そんなの簡単じゃん」

 真剣な表情を崩さずに、美冬は続けてそう答える。
 その瞬間、渡辺はそれまでの一緒にコンビニに行っていた美冬とは、『何かが変わった』と感じた。

「そんなに簡単じゃない。五年だぞ、五年間まともに会ってないんだ」

「でもこのまま会わなければ、六年、七年って更に時間は経っちゃうよ。私にもおじさんにも関係なく時間は進んで行くんだから」

「……」

「離婚したおじさんには、もう娘さんしかいないんでしょ。娘さんにもお父さんは、おじさんしかいないんでしょ」

 渡辺には今日の美冬が、この前までの美冬と同一人物とは、到底思えなくなって来ていた。

『なんだこの前向きな発言は、あの時の自宅を放火しようとした娘とは思えない』

「ああ、そうだな。ところで美冬ちゃん、何か良い事でもあったかい?」

「なんで?」

 突然の渡辺の質問に美冬はキョトンとした顔をした。

「何か、この前までと雰囲気が違うというか…積極的というか…」

 渡辺は美冬の顔色を伺いながら、言葉を選ぶ様に話し出す。

「……」

 しかし今度はそれに対して美冬の方が、下を向き黙り込んでしまった。
 それは何かを話そうかどうしようか決めかねているかの様に見えて、だから渡辺はそれを誘い出す様に再び口を開いた。

「失礼だけど、ちょっと前の美冬ちゃんは、自暴自棄に見えた。それから俺の付き合いでコンビニに娘を見に行くのも、仕事みたいな感じだっただろ。内心どうでも良い様な。でも今日はちょっと違う様に見える。なんだろう…いつもよりも俺の問題に積極的に関ろうとしているような…」

「あー、まだちょっとテンション上がってるのかな。面白いゲーム始めたから」

 渡辺がそこまで話した時、美冬はまだ下を向いたままだったが、クスリッと笑い、そう口を開いた。

「ゲーム?」

 だから渡辺は尋ねる。

「そう」

「どんな?」

 再び渡辺が尋ねた時、美冬は微笑みながら顔を上げて、そちらを向いた。

「コンビニに、娘さんに会いに行くんなら教えてあげるよ」

 そして渡辺はこの瞬間、嵌められたと思ったのだった。

「ああ、そうだな。…そうなるな」

 渡辺はそう言うとオートマのギアを、パーキングからバックに入れ変え、車を後ろに下がらせ、方向転換を始めた。

「でも、美冬ちゃん。俺と君で、ちゃんと親子とかに見えるかな?」

「なんで?」

「だってさ、突然父親が一人で娘に会いにバイト先に現れたら驚くし、困るだろ」

「だから?」

「だから美冬ちゃんと二人で自然な親子連れみたいな感じで店に入って。その、その後君に上手く仲介をして貰いたいんだが」

 渡辺は目を細めて、懇願する様な顔で言った。

「ん~」

 それには美冬は少し考えた。

「いーよ。それでおじさんが今日、娘さんと会うのなら。私もあんまり時間がないから」

「時間?」

 渡辺が尋ねる。

「うん。この前おじさん、私に関わりたい、助けたいって言ったよね。私もね、二週間って期限決めたら、誰かの為になりたい、おじさんを助けたいって思えたの」

「俺を…助けたい」 

「そう」

 渡辺は公園から出る所で突然車を停めて、美冬の顔をじっくりと眺めた。

「何があった? 二週間って何だ? さっき言っていたゲームと関係があるのか? ゲームって何なんだ?」

 突然胸一杯に広がって行く不安感に、渡辺は美冬を問い詰める。

「車を出して。行きながら教えてあげるから。でも、聞いたらおじさんも参加者だからね」

「何の話だ」

 そう言いながらも美冬の言葉に従う様に、渡辺は車を出した。

「私は一度死んでるの。死人が生き返って、長生きしたらおかしいでしょ? だから踏ん切りを付ける為に始めたゲームなの。期限は二週間。だからおじさんの問題も悠長に構えてはいられなくなったの。さっさと話をつけて貰わないと」

 美冬は視線の先、フロントガラスの向こうに素晴らしい何かでも見えているかの様に、目を輝かせ、微笑みながら、そう話し始めた。





 つづく

 
 
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