何処へいこう

孤独堂

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第十六話 小休止

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 同じ日、金曜日。
 夕方五時。
 安藤と舞は放課後の誰もいない教室に残っていた。
 美冬が始めた変なゲームについて話し合う為だ。

「で、なんでお前も居るの?」

 しかしそこには、瀬川美冬もちゃっかり居たのだった。

「いいじゃない。私も『死にたがりクラブ』の一員なんだから」

 美冬はニヤニヤしながら安藤の言葉に答える。

「お前が居たんじゃ相談にならないだろう!」

「何で?ねえ」

 そう言いながら美冬は舞の座っている席の隣側に立って、同意を求める様に舞の顔を斜めに覗き込みながらその肩に手をかけた。

「何でって…」

 困った様な顔をして言う舞。

「当たり前だろ! お前が生きたくなる方法を考えてるのに、お前が居たら意味が無いじゃないか!」

 舞の目の前の席に後ろ向きに座っていた安藤はそう言いながら立ち上がった。

「安藤君、何か私に恨みとかある? 今日はなんか『お前』って呼ばれてるんだけど」

 美冬はそんな安藤を冷ややかな目で見ながら言う。

「大ありだよ! 当たり前だろ。俺や佐々木さんの気持ちを弄んで、挙句の果てに、二週間以内に生きたい気持ちになれなければ俺達の目の前で死ぬって言うじゃないか。そんな奴は『お前』だよ!」

「なんか今日の安藤君って怒鳴ってばっかり。男のヒステリーみたい」

 そう言うと美冬は楽しそうに顔を綻ばせた。

「ふざけんなー!」

 だから安藤は更に怒鳴った。
 そしてその状況を静かに見ていた舞もつい口を出す。

「ホントだ、安藤君ちょっと煩い。他の教室とかにもまだ誰か居るかも知れないのに。聞こえちゃうよ」

「アハ、舞に言われちゃた♪」

 舞の言葉に美冬は一層嬉しそうな表情を見せる。

「でも、コイツがいたら作戦会議にならないよ」

 憎らし気に美冬を睨みながら安藤は言う。

「あ、今度はコイツって言った♪」

 安藤の言う言葉の全てがツボなのか、美冬はそう言ってはまだ笑い続けていた。

「確かにそれもそう」

 そんな美冬をチラリと見てから舞は、安藤の言葉に同意した。
 そしてその言葉を受けて美冬は満足気な面持ちで、舞と安藤の顔を交互に眺める。

「で? どうやって私を救ってくれるのかな?」

 嬉しそうな顔でそう言う美冬を見ては、安藤は諦めた様な声を出す。

「駄目だよコイツ。ちっとも二人きりにさせる気がないよ。これじゃあ満足に話も出来ない」

 そう言い終わると舞の前の机に、顔をうつ伏せる様にする安藤。
 それは時間にすると数秒の事だったろうか。
 何かを閃いたのか安藤は突然顔を上げると、席から立ち上がり、教壇の方へと歩き出した。
 そして振り返ると舞の方に向かって声をかける。

「佐々木さん、ちょっとこっち来て」

 言われた舞はパタパタと、教壇の方に向かって歩いた。
 するとその後ろをまたも嬉しそうな顔をして、美冬がピッタリと付いて来る。

「だー! お前は来るなっ!」

 思わず叫ぶ安藤。

「安藤君声大きい」

「だって、瀬川さんが。後ろ見て」

 そう言われて舞が立ち止まり振り返ると、目の前には凄い楽しそうな顔をした美冬が、鼻が当たる程の至近距離にいた。

「ヒッ!」

 これには流石の舞も驚いて、急いで安藤の方へと駆け出す。

「うふふふふふ」

 それが面白いのか、笑いながら美冬は舞の後を追いかける。

「佐々木さん、こっち!」

 思わぬ展開に安藤は舞の方に手を伸ばした。
 舞も手を伸ばす。
 二人は伸ばした手をしっかり掴み合い繋がると、安藤は教壇から教室の後ろ、清掃用具用のロッカーへと向かって走り出した。

「うふふふふふ」

 美冬も教壇の上の机の周りをぐるっと回ると二人の後を尚も追いかけ続ける。

     バタンッ!

 安藤は清掃用具用ロッカーを開けると、自分と一緒に舞を中へと引きずり込み、急いで扉を閉めて、開けられない様に中から扉を引っ張った。
 それを見て美冬はロッカーの前で立ち止まる。
 こうして暫く静かな時間を迎える事となった。
 安藤は中から良く見えない外の状況を、気配で感じ取ろうと静かにして集中力を高めていた。
 流れる緊迫した空気。
 そして耳を澄ますと微かに聞こえて来る美冬の笑い声。
 それはまるでホラーの様で、到底『死にたい』と言っていた人の行動とは安藤には思えなかった。

「あ、安藤君」

 そんな時、突然舞が小声で安藤を呼んだ。
 安藤はロッカーの暗がりの中、舞の顔を捜す。
 直ぐに見つかった舞の顔は、少し恥ずかしそうな顔をしていた。

『あっ』

 美冬の気配に集中していて気付かなかったが、狭いロッカーの中だ。バケツもモップも入ったままなのだから殊更に狭い。
 ふと気がつくと、安藤は舞を抱きしめながら右手で扉を引っ張っていたのだ。
 当然安藤の胸には、舞の二つの大きな胸がガッチリと、感触が伝わる程に当たっていた。

「まるでラブコメみたい」

 隙間からでも覗いて見ていたのか、外から美冬の声が聞こえた。
 更に言葉は続く。

「面白かったし、じゃあそろそろ私帰る」

 その声と共に、ロッカーの周囲からは美冬の気配がスーッと消えた様な気がして、少し間を置いてから安藤はそっと扉を開けてみた。
 美冬は教室の出入り口の引き戸の所に立っていて、丁度廊下に出る所だった。

「せいぜい仲良くしてね。そして私を生かす方法を考えて。逝かさない様に」

 そう言うと美冬は、教室から廊下へと出て去って行く。

「はー、全く、アイツは何を考えてんだ」

 ロッカーから舞と手を繋いで出て来ながら、安藤は独り言の様に呟く。

「私、今日の美冬は何となく分かる様な気がする」

 舞はそれに対して、安藤との繋いだ手をまだ離さないままにそう言った。







 つづく

 
 
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