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第二話
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作 さくね
「転落」私の人生を形容するに相応しく、なんとも憎たらしいその言葉。皮肉がない訳では無い、但し膨張も無い。他人目にみて、公平に正しく客観視すればする程、その陰惨さは露骨に溢れてくる。
しかしどうやったって現実は変わらない、無くした両足も、疎遠になった友達も、そしてあるはずだった青春も、「黒咲栞」にとっては、もはや雲の上のその向こうにしか存在しえない。
私はとても良い両親の元で育った。性格も容姿も家族関係も生活も、特別裕福という訳では無かったけれど、それでも人並みの生活と人並みの幸せが家庭にはあって、団欒とした暖かい家族だった。
育て方が良かったのだと思う。反抗期というものは実感がわかないくらい。両親は私を束縛なく自由に、しかし後々苦労しないように駄目であれば強く叱り、私と正面から向き合ってくれた。
だから私は両親のようになりたいと思ったし、そう努力出来たのだと思う。才色兼備に、慈悲深く、それでいて自らを大切に出来るような自分に成ろうとした。
だから、他人の気持ちをまず考えて行動していたし、いじめられているような子が居れば率先して声をかけていたし、悪い噂を流されたとしても毅然として振る舞い続けた。
いい子だったと思う。とても、正しくて潔く、いい人間だった。少なくとも、他の同級生とは一線引くような、優秀さがあった。
戻りたいと、何度思ったかは分からない。そのまま成長出来ていたなら、両親のような人間になれていたかもしれない。沢山の友人に囲まれ、甘酸っぱい青春を送り、そしてまた新しく前に進めていたはずだった。
私の両足が、交通事故で失われてさえいなければ。
今では顔の醜く曲がった人間や、手がまともに動かせない人間、そんな人達と共に障害者の高校に通っている。
人は平等であると、諳んじることが出来た健全少女はもう存在しないのだ。
ここへ来て、私は自分が心のどこかで、下に見ていた人間がいた事を知った。可哀想だと、生きていて辛そうだと、彼等の人生を露ほどにもらない癖に、そう決めつけて疑わない自分がいた。
そして何より私が、自分自身が障害者になってしまったことに対して、他人がいないと生きていけない可哀想な人間になってしまった事に対して、酷く落胆してしまった。
両親の自慢の娘だった。それが私の自慢でもあった。
今だって、時々夢に見る。部活で駆け回った体育館を。足底から伝わってくる衝撃を。
いくら夢に見たところで、願ったところで、現実は変わらない。前に進む足を失ってしまった私には、現実を変える術なんてありはしない。
絶望しきってしまうのに大して時間は要らなかった。噂を聞き付けて、足繁くここに通ってくれる友人はもう居ない。みんな現実を見て、前に進んで行ってしまった。
なんで、私なんだ。悔しくて、何度も憤りその度に虚しかった。私より劣った人間なんて腐るほど居るのに、善行を積んできたいい子なのに。何故、こんな目に合わないといけないのか。何故奪われないといけなかったのか。
だから。彼がのうのうと私の前に現れた時は、腸が煮えくり返りそうな怒りを覚えた。
中学で虐められていた彼、冴えてなんていなくて、しかも礼儀すら知らない。そんな奴が他人を助けるボランティアで、慕ってくれている後輩を連れて人助け。良いご身分になったものだ。
変わり続けて行く彼を見て、私は心底羨ましかった。
彼は話しかけてきたが、喋る気になんてなれなかった。なにより、終始向けてくる哀れんで来る目を私は許せかった。
「そんな目で見るんだったら、その足くれる?」
同情なんて要らない。された所で何も解決しないのだから。不快になるだけの哀れみなんて、無い方がマシだった。
だから、私は彼を拒絶した。 2度会いたくなかった、順風満帆な人間なんて見たくなかった。そんな人間に、何も出来なくなった私を見ないで欲しかった。
しかし彼は何度も会いに来る。
何不自由ない体で、生活の中で。日々の起伏を楽しみその余暇でここに、そのご立派な足を運んでくれる。
皮肉か、当て付けか。噛み締める唇が、そろそろ切れて血が滲む。立場が逆転された上に、彼との差がこれ以上広がっていくことが簡単に予想できるのが、心底悔しかった。彼は成長し続けるだろう、その健全な不自由の無い体で。私の体は二度と戻ることは無いのだ、私は一生この無くした両足に縛られ、他人と比べて「足りない人間」として生きていくしか無い。
だから彼の足を引っ張りたいと思った。私の手に入れれなかった物を簡単に手に入れて、見せびらかすように話す彼を、ぶっ壊してしまいたかった。
別に、もう落ちる所まで落ちたんだ。今更他人を傷つけるくらい、神様なんてのが居たら許してくれるだろう。私は神様なんて許す気は無いのだけど。
彼をどうやって苦しめてやろうか。それを考えながら床に就く。久しぶりによく頭を使いぐっすりと夢に浸かった。
つづく
「転落」私の人生を形容するに相応しく、なんとも憎たらしいその言葉。皮肉がない訳では無い、但し膨張も無い。他人目にみて、公平に正しく客観視すればする程、その陰惨さは露骨に溢れてくる。
しかしどうやったって現実は変わらない、無くした両足も、疎遠になった友達も、そしてあるはずだった青春も、「黒咲栞」にとっては、もはや雲の上のその向こうにしか存在しえない。
私はとても良い両親の元で育った。性格も容姿も家族関係も生活も、特別裕福という訳では無かったけれど、それでも人並みの生活と人並みの幸せが家庭にはあって、団欒とした暖かい家族だった。
育て方が良かったのだと思う。反抗期というものは実感がわかないくらい。両親は私を束縛なく自由に、しかし後々苦労しないように駄目であれば強く叱り、私と正面から向き合ってくれた。
だから私は両親のようになりたいと思ったし、そう努力出来たのだと思う。才色兼備に、慈悲深く、それでいて自らを大切に出来るような自分に成ろうとした。
だから、他人の気持ちをまず考えて行動していたし、いじめられているような子が居れば率先して声をかけていたし、悪い噂を流されたとしても毅然として振る舞い続けた。
いい子だったと思う。とても、正しくて潔く、いい人間だった。少なくとも、他の同級生とは一線引くような、優秀さがあった。
戻りたいと、何度思ったかは分からない。そのまま成長出来ていたなら、両親のような人間になれていたかもしれない。沢山の友人に囲まれ、甘酸っぱい青春を送り、そしてまた新しく前に進めていたはずだった。
私の両足が、交通事故で失われてさえいなければ。
今では顔の醜く曲がった人間や、手がまともに動かせない人間、そんな人達と共に障害者の高校に通っている。
人は平等であると、諳んじることが出来た健全少女はもう存在しないのだ。
ここへ来て、私は自分が心のどこかで、下に見ていた人間がいた事を知った。可哀想だと、生きていて辛そうだと、彼等の人生を露ほどにもらない癖に、そう決めつけて疑わない自分がいた。
そして何より私が、自分自身が障害者になってしまったことに対して、他人がいないと生きていけない可哀想な人間になってしまった事に対して、酷く落胆してしまった。
両親の自慢の娘だった。それが私の自慢でもあった。
今だって、時々夢に見る。部活で駆け回った体育館を。足底から伝わってくる衝撃を。
いくら夢に見たところで、願ったところで、現実は変わらない。前に進む足を失ってしまった私には、現実を変える術なんてありはしない。
絶望しきってしまうのに大して時間は要らなかった。噂を聞き付けて、足繁くここに通ってくれる友人はもう居ない。みんな現実を見て、前に進んで行ってしまった。
なんで、私なんだ。悔しくて、何度も憤りその度に虚しかった。私より劣った人間なんて腐るほど居るのに、善行を積んできたいい子なのに。何故、こんな目に合わないといけないのか。何故奪われないといけなかったのか。
だから。彼がのうのうと私の前に現れた時は、腸が煮えくり返りそうな怒りを覚えた。
中学で虐められていた彼、冴えてなんていなくて、しかも礼儀すら知らない。そんな奴が他人を助けるボランティアで、慕ってくれている後輩を連れて人助け。良いご身分になったものだ。
変わり続けて行く彼を見て、私は心底羨ましかった。
彼は話しかけてきたが、喋る気になんてなれなかった。なにより、終始向けてくる哀れんで来る目を私は許せかった。
「そんな目で見るんだったら、その足くれる?」
同情なんて要らない。された所で何も解決しないのだから。不快になるだけの哀れみなんて、無い方がマシだった。
だから、私は彼を拒絶した。 2度会いたくなかった、順風満帆な人間なんて見たくなかった。そんな人間に、何も出来なくなった私を見ないで欲しかった。
しかし彼は何度も会いに来る。
何不自由ない体で、生活の中で。日々の起伏を楽しみその余暇でここに、そのご立派な足を運んでくれる。
皮肉か、当て付けか。噛み締める唇が、そろそろ切れて血が滲む。立場が逆転された上に、彼との差がこれ以上広がっていくことが簡単に予想できるのが、心底悔しかった。彼は成長し続けるだろう、その健全な不自由の無い体で。私の体は二度と戻ることは無いのだ、私は一生この無くした両足に縛られ、他人と比べて「足りない人間」として生きていくしか無い。
だから彼の足を引っ張りたいと思った。私の手に入れれなかった物を簡単に手に入れて、見せびらかすように話す彼を、ぶっ壊してしまいたかった。
別に、もう落ちる所まで落ちたんだ。今更他人を傷つけるくらい、神様なんてのが居たら許してくれるだろう。私は神様なんて許す気は無いのだけど。
彼をどうやって苦しめてやろうか。それを考えながら床に就く。久しぶりによく頭を使いぐっすりと夢に浸かった。
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