5 / 5
第五話
しおりを挟む作・孤独堂
ある期末テスト期間中の放課後、いつも通り部活に軽く顔を出しては彼女の元へと向かうつもりだった僕にアクシデントが襲った。
部室には壁にホワイトボードがあり、普段はそこに美冬先生からのその日の予定が書かれていて、それによって僕らは学校周辺のボランティア活動を行ったりしているのだが、当然書かれていない日も幾らでもある。
そんな日はどうするかというと、実は自由行動となっていた。
だから部室のパソコン(一台きり)で色々福祉について調べたり、関連図書を読んだり、屋外に個人的なボランティアを行いに出かけても良かったし、最悪帰っても問題はなかった。
そして現在はテスト期間中、当然美冬先生からのボランティア活動の話もこの期間はないので、ここ数日と同じく僕は、放課後は自主的なボランティア活動として彼女の元へ向かう予定だったのだ。
軽く挨拶だけするつもりで開けた部室のドアの先を見るまでは。
「あれ?」
思わず僕は声をあげた。
「あ、来た来た」
それに合わせて奥からはテーブルを囲む様に並ぶ椅子の一つに座る美冬先生の声。
更には見渡すと二年の男子が一人と女子が三人。一年の男子二人と女子四人もテーブルを囲む様になかばぎちぎちに椅子に座っていた。
(何事だろうか?)
今や三年の僕はかなり要なしに近い状態だ。その上三年でこの部室に今も顔を出しているのは男の僕だけと来れば、これは二年を主体とした新たな活動に向けての会議か何かでもあろうか。
そんな風に思ったから僕は、握っていたドアノブを離す事もなく
「あ、会議でした? 失礼しました」
と、なるべく無関心を装いながらそのドアを閉めようとした。
「あ、違うんです。先輩に用があるんです!」
しかしそれを拒む様に放たれた素っ頓狂な声。
それは二年の女子、池上恭子が慌てて叫んだ声だった。
「僕に?」
何事だろうか?
池上さんは現副部長という肩書きを持っている。そして現部長は一応僕。
そこから察するにもしかするとはこれは引退勧告かも知れないと僕は瞬時に判断した。
だとしたらこれはかえって都合が良い。
部活が無くなれば今よりもスムーズに且つ頻度も多く彼女の面倒を見に行く事が出来る。
だから僕はその言葉に多分ニコニコした笑顔で閉じかけたドアを再び開けると中に入って行ったのだと思う。
部室は本校舎と渡り廊下で繋がる木造の文化系部室棟の中にあり、それらはかつてのこの高校の旧校舎を使用したものだった。
だから入り口を入ると片方に寄せて廊下があり、その脇にはズラリと教室だった部屋が並んでいる。そしてそれらの前後にある入り口を利用して、真ん中から仕切ったのが部室となっていた。
中はおよそ十畳あたり。
その中心にはどの学校でも良く見かけるパイプ足の長テーブルが二列並べられており、周りには現在先生を含めた十一人が座っていた。
それはちょっとした壮観で、かつてこれだけの部員が全員この部室に集まった事はあっただろうかと思わず僕はその密度に眺めていると、先程の池上さんがまたもや僕に言葉を発した。
「座らないんですか」
「え、この中に」
思わず僕は本音を漏らす。
だって一体何処をどう掻き分けて座れというのだろうか。
そんな僕の表情に気づいたのだろう。
奥で一番場所を取る様にスリット入りのスカートから細い足を出しては椅子の上で足を組んでいる美冬先生が口を開いた。
「何もテーブルの前でなくてもいいのよ。椅子はあるからそこに座ったら。兎に角あなたが座らないと始まらないの。池上さんが話し合いたい事があるんですって。私もこの後用事があるから長くはいられないし」
そう言いながら先生は左手を掌の方を上にすると、手首に付けた時計を見る為か顔を下に向ける。
だから僕はその間にまだ幾つか壁際に積まれていた椅子から一つ取ると、その場でそれに座り、そして僕自身も口を開いたのだ。何故ならばこんな所で時間をかけてはいられないと思ったからだ。
「で、なんですか?」
話は簡単な事だった。
要は去年の社会福祉学園との懇親会以降、僕が個人的にそちらにボランティア活動に行っているという事についてだった。
「一年の鮫島さんに言われたの。『窪田先輩だけ一人で障害者施設に行ってるみたいですけど、いいんですか』って」
「ちょ、先輩! 私そんな風に言っていません!」
池上さんの話に反論する鮫島さん。
「私はただ『行ってるみたいですね』って言っただけです。それにこんな大袈裟な事になるなんて、困ります。私は関係ないですからね。大体池上先輩は私の名前を出したけれど、言ってるのは私だけじゃないし、他にも吉野君や斎藤さん、それに二年の先輩達は皆んな言っているじゃないですか」
女性同士の話というのは大概がこうなのだろうか。
何処か責任転嫁の応酬で、結局は元々は誰が言って騒いだのかは藪の中だ。
「ちょっとその前に。障害者施設って呼び方はやめてよ。社会福祉法人・夢が丘学園って名前があるんだ。れっきとした学校だよあそこは」
「そうね」
彼女たちの話に思わず口を出した僕に、ポツリとだが先生が同意する。
「それで、僕が個人的にそこに通う事の何が問題なの?」
先程の先生の同意に後押しされた訳ではないが、こんな話はさっさと切り上げたいという気持ちもあって、僕は続けて口を開いた。
「だからどうせ行くなら、皆んなに声をかけて一緒に行くとか。窪田先輩、実際のところあの時の、中学の同級生とかいう女の人に会いに行ってるんですよね」
「そうだよ」
きっと皆んなを代表して話しているのであろう池上さんの話を、僕は即答で答えた。
何もやましい気持ちはなかったからだ。
「それって彼女ですか?」
すると突然一年の男子から声があがった。
確か印旛沼君とか言う変わった名前の奴だ。
「違うよ。ただの同級生さ。一年の時同じクラスで、それ以降はクラスも違う。悪いか? そういう知り合いが事故で足を失って、それであーゆー学校に入って来た。それを気にかけて様子を見に行って悪いかよ」
「じゃあそれは、先輩の片思いって事ですか」
今度は先程の一年の鮫島さん。
なんだってこの子も人の事に一々興味を持ちたがる。
僕は少しイライラして来ていた。
どうせこの話になればそんな風に勘繰られるんだとは自分でも思っていたからだ。
「それも違う。そんな気持ちも持ってないよ」
それでもそんな感情は抑えて、僕はギリギリ冷静に答えようとしていたのだが、そんな僕の気持ちなど露知らず、先程の印旛沼君がとんでもない事を口にした。
「そりゃそうですよね。両足切断で車椅子なんて人と付き合ったら、逃げられなくなりそうだもん。よっぽど本気じゃないと、将来の面倒も見なきゃいけない訳だし、もう一生の話ですもんね。僕らまだ高校生だし」
「こっ」
『この野郎! 彼女だってまだ高校生だ!』そう叫んで立ち上がろうとした瞬間、僕の言葉を制する様に奥から声があがった。
「もういいでしょう。こんな話に先生まで呼んで。これじゃあちょっとした虐めじゃない。良い事をしている窪田君がなんで皆んなから色々質問されなきゃいけないのか分かんないわ。全く…窪田君も、一緒に行きたいって人がいたら連れて行くわよね」
「あ? ああ、はい」
突然割って入った先生の言葉に、僕は正直ちょっと面食らった感じで、その前の怒りから暫し放心状態の様に答える。
「じゃあいいじゃない。もうこんなバカな話は終わり。先生は用事があるから職員室に戻るわよ。それと窪田君も今日も行くならもう立って先生と一緒に出ましょう。あーバカバカしい」
そう言うと先生はそれまで組んでいた足を直すと立ち上がった。
それに呼応して立ち上がる僕と、その他数人。
先生の言葉で我にでも返ったのか、皆んな少し白けた表情をしている。
だから僕も、学校の様な集団生活の場ではこういう集団催眠の様な事は良くある事だと割り切り、前を歩く美冬先生のお尻を眺めながら忘れようと思った。
それは、あの桜の季節から少し経った五月のとある日の出来事で…
つづく
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる
えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。
一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。
しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。
皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる