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第三話 一・二話があって、三話目がある
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次の日の朝、元秋はいつもより十五分早く川原に着いた。
河川敷の昨日と同じ辺りに奈々は既にいた。
土手を下りて奈々の方へと向かう。
奈々は下を向いて足元の方を見ていた。元秋には気付いていないようだった。
「何見てるの?」
側に来て元秋が尋ねる。
「ワッ!ビックリしたー」
またも元秋の声に驚き、奈々は振り向いた。
「なんか、凄い羽の綺麗な蝶が死んでるんです。でも、大きいから鳥なのかな?」
そう言いながら奈々は自分の足元を指差した。
「ん、それ蛾だよ」
それは緑色の毛がフサフサした大きな蛾だった。
元秋が言った瞬間奈々は後ろに一メートル程飛んでバックした。
「えー、蝶じゃなくて蛾なんですか。ハハ、私西女だから、あんまり頭良くないから分んなかった」
照れ笑いしながら奈々が言った。
「あ、それ良くない」
元秋が言った。
「えっ」
つい反応して奈々の声が出る。
「昨日、友達に野沢さんに会った事話したんだ。そしたら悪いけど、西女って偏差値低いよね。って言う奴とかもいてさ、ちょっとその後考えたんだよね。友達になるのに偏差値関係あるかなって。俺、いや僕は陸上やってるんだけど、陸上大会の成績に偏差値は関係ないんだよね。何処の高校だろうが足の速い奴が上位なんだ。だから西女だって他校に負けない何かある筈だし、自分で自分の学校を卑下したりするのは、本当に馬鹿な人になってしまうと思う」
元秋がそう言っている間、奈々はずっとキョトンとしていた。
「あ、何言ってるか分んなかった?僕、上手く説明出来てない?」
奈々の様子に元秋は慌てて尋ねた。
「ハハ、ちょっとだけ。あ、でもこれは分りました。佐野さん昨日帰る時は私の事『奈々ちゃん』って呼んだのに、今はまた『野沢さん』に戻ってました」
少し自慢気に奈々は言った。
「あーそっちか。でも凄いじゃん記憶力」
「へへへ」
元秋に褒められたと思い、奈々は照れくさそうに言った。
「あのさー何て呼んだらいい?俺、いや、僕さ、あんまり女の子慣れしてないんだよね。別に女嫌いの男好きとかじゃなくて」
元秋が言った。
「奈々でいいですよ。それと無理して僕とか言わなくて良いです。俺で」
奈々はニコニコしながら続けた。
「私は佐野さん?佐野君?元秋さん?」
「佐野君で良いよ。皆そう呼んでるから」
元秋が言った。
「分りました。佐野君。何かさっきの学校の話、私と佐野君で、まるでロミオとジュリエットみたいですね」
「全然違うよ」
元秋が即座に答えた。
「それで、トランペットは鳴る様になったのかい?」
元秋が奈々の左手に持っているトランペットの方を見ながら言った。
「それが全然なんですよ。佐野君に会った時の一回だけなんです。音が出たの」
そう言うと奈々は吹く格好をして、吹いた。
ボォーー
船の汽笛の様な低い音が鳴った。
「出た」
思わず元秋が言った。
「あれ?」
奈々はトランペットを顔の前に出し眺めながら続けて言った。
「やっぱり佐野君は神様ですよ!佐野君の前でだけ音が出るもん」
奈々は凄い嬉しそうな顔をして、少し興奮している様だった。
「それは偶然だよ」
奈々の嬉しそうな顔を見て自分も嬉しくなって、ニコニコしながら元秋は言った。
その後、川原で数度トランペットを吹いたのも全て音が鳴った。
「もう大丈夫じゃない、トランペット。時間だから俺はそろそろ行くよ」
元秋はそう言い、その場駆け足をして、走る準備をした。
「はい。行ってらっしゃい」
と、奈々は言った。
元秋は奈々の元から走り出し、土手を上がる辺りである事を思い出して振り返って尋ねた。
「ねー、部活。吹奏楽部?」
奈々はニコニコしながら大きな声で答えた。
「違いますよー」
「えっ」
元秋の足が止まった。
つづく
河川敷の昨日と同じ辺りに奈々は既にいた。
土手を下りて奈々の方へと向かう。
奈々は下を向いて足元の方を見ていた。元秋には気付いていないようだった。
「何見てるの?」
側に来て元秋が尋ねる。
「ワッ!ビックリしたー」
またも元秋の声に驚き、奈々は振り向いた。
「なんか、凄い羽の綺麗な蝶が死んでるんです。でも、大きいから鳥なのかな?」
そう言いながら奈々は自分の足元を指差した。
「ん、それ蛾だよ」
それは緑色の毛がフサフサした大きな蛾だった。
元秋が言った瞬間奈々は後ろに一メートル程飛んでバックした。
「えー、蝶じゃなくて蛾なんですか。ハハ、私西女だから、あんまり頭良くないから分んなかった」
照れ笑いしながら奈々が言った。
「あ、それ良くない」
元秋が言った。
「えっ」
つい反応して奈々の声が出る。
「昨日、友達に野沢さんに会った事話したんだ。そしたら悪いけど、西女って偏差値低いよね。って言う奴とかもいてさ、ちょっとその後考えたんだよね。友達になるのに偏差値関係あるかなって。俺、いや僕は陸上やってるんだけど、陸上大会の成績に偏差値は関係ないんだよね。何処の高校だろうが足の速い奴が上位なんだ。だから西女だって他校に負けない何かある筈だし、自分で自分の学校を卑下したりするのは、本当に馬鹿な人になってしまうと思う」
元秋がそう言っている間、奈々はずっとキョトンとしていた。
「あ、何言ってるか分んなかった?僕、上手く説明出来てない?」
奈々の様子に元秋は慌てて尋ねた。
「ハハ、ちょっとだけ。あ、でもこれは分りました。佐野さん昨日帰る時は私の事『奈々ちゃん』って呼んだのに、今はまた『野沢さん』に戻ってました」
少し自慢気に奈々は言った。
「あーそっちか。でも凄いじゃん記憶力」
「へへへ」
元秋に褒められたと思い、奈々は照れくさそうに言った。
「あのさー何て呼んだらいい?俺、いや、僕さ、あんまり女の子慣れしてないんだよね。別に女嫌いの男好きとかじゃなくて」
元秋が言った。
「奈々でいいですよ。それと無理して僕とか言わなくて良いです。俺で」
奈々はニコニコしながら続けた。
「私は佐野さん?佐野君?元秋さん?」
「佐野君で良いよ。皆そう呼んでるから」
元秋が言った。
「分りました。佐野君。何かさっきの学校の話、私と佐野君で、まるでロミオとジュリエットみたいですね」
「全然違うよ」
元秋が即座に答えた。
「それで、トランペットは鳴る様になったのかい?」
元秋が奈々の左手に持っているトランペットの方を見ながら言った。
「それが全然なんですよ。佐野君に会った時の一回だけなんです。音が出たの」
そう言うと奈々は吹く格好をして、吹いた。
ボォーー
船の汽笛の様な低い音が鳴った。
「出た」
思わず元秋が言った。
「あれ?」
奈々はトランペットを顔の前に出し眺めながら続けて言った。
「やっぱり佐野君は神様ですよ!佐野君の前でだけ音が出るもん」
奈々は凄い嬉しそうな顔をして、少し興奮している様だった。
「それは偶然だよ」
奈々の嬉しそうな顔を見て自分も嬉しくなって、ニコニコしながら元秋は言った。
その後、川原で数度トランペットを吹いたのも全て音が鳴った。
「もう大丈夫じゃない、トランペット。時間だから俺はそろそろ行くよ」
元秋はそう言い、その場駆け足をして、走る準備をした。
「はい。行ってらっしゃい」
と、奈々は言った。
元秋は奈々の元から走り出し、土手を上がる辺りである事を思い出して振り返って尋ねた。
「ねー、部活。吹奏楽部?」
奈々はニコニコしながら大きな声で答えた。
「違いますよー」
「えっ」
元秋の足が止まった。
つづく
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