上 下
11 / 22

絆創膏

しおりを挟む
「……痛い」
「慣れないことをするからだ」

キッチンで、私の指にできた小さな切り傷に、消毒液を含んだ脱脂綿を押し当てる彼。
容赦なく傷をこする彼を私は少し怨みがましい目で見た。

「染みるんだけど」
「悪いのはお前だろう」
「だって……」

明け方、何故か早く目が覚めた私は、お腹が空いたから早めに朝食をとろうとキッチンに立った、のだが。
サラダを作ろうときゅうりを切っている途中で、思いきり指を切ってしまったのだった。
あーやっちゃった、と、血の流れる指を眺めていたところを彼に見つかって、この状況。

「だいたい、何故出来もしないのに自分でやろうとする。腹が減ったなら俺を起こせばいいだろう」
「だって朝早かったし。迷惑かな、と」
「朝からこんな手間をかけさせておいて、今更か?」
「ぅ……別に……こんな小さな傷、舐めとけば治ったのに」
「……ほぅ」

彼はカタンとピンセットを置くと、私の指を自分の顔に近づけた。

「ちょっ⁈」
「舐めれば治るのか?」

ぺろりと出された赤い舌。
顔が赤くなるのが分かる。
私は慌てて手を引いたが、彼に掴まれたその手はびくともしない。

「ご、ごめんなさい! 普通に治療して!」
「最初からそう言えばいいものを」

彼はふんと鼻で笑うと、ぺたりと絆創膏を貼りつけた。

「次からは怪我をする前に起こせ。いいな」
「……意地悪……ありがと」


『絆創膏』


指に巻かれた、貴方の、不器用な優しさ。
しおりを挟む

処理中です...