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パン屋がやってきた編
64 パン屋の様子
しおりを挟む一旦ミレイ達と別れ、私はユウさんの経営するパン屋へと足を急がせた。
するとだんだん香ばしい香りがしてきたかと思えばパン屋の前には沢山の人盛りが出来ていた。
「エデン! いい所に来た!」
「ロキさん! これは一体……」
「見ての通り大盛況だ。人手が足りなかった所なんだ。手伝ってくれるか? ユウとアンドレはパン作りで大忙しなんだ」
「もちろん。お手伝いさせて頂きます!」
私はそう言うとロキさんからエプロンを受けとり、身に付けて店内へと入る。
店内にもまた沢山のお客さんが居た。
皆ユウさんの作ったパンを真剣に見詰めている。
どのパンを美味しそうだから悩んでいるみたい。
「あ、店員さん? ちょっといいかな?」
「はい!」
そんな時声をかけられ思わず声が上ずる私。
女性二人組のお客さんはニコニコと微笑む。
「オススメとかある? 迷っちゃってさー」
「オススメ……ですか? でしたらカスタードパンなんてどうでしょう? 生地はモチモチで中のあまーいカスタードとピッタリなんですよ」
「カスタードパンね! ありがとう」
初めての接客でドキドキしたけど……上手く接客出来たのかな……?
少し心配だけど私は引き続き頑張ってみることにした。
迷っているお客様には声を掛けオススメしてみたり、パンの在庫を聞かれたりした時は焦ったけど何とか対処出来た。
店内には二十人程度の人が座れるテーブル席がある。そこはもう既にいっぱいで外で食べるお客さんも沢山居た。そして何より皆笑顔で美味しそうにパンを食べるその姿に私は目を奪われていた。
その後一段落ついた後、私は工房へと足を運んだ。
そこにはユウさんの姿があった。
すると私に気づいたユウさんがいつもの笑顔を私に向けた。
「エデンさん。お疲れ様です。それと手伝って下さりありがとうございます。本当に助かりました」
「いえ。お役にたてたようで良かったです。あの、アンくんは?」
「アンドレ君なら外の風を浴びてくるって行って裏口から外へ行きましたよ。後で沢山褒めて上げてください。作業中もエデンさんのことばかり話してました。しかも、とても楽しそうに」
「そ、そうなんですか!? わ、分かりました!」
いつもはツンなアンくんがまさか私の居ない所ではデレているなんて……!
後でいっぱい褒めてあげよう。
そしてお疲れ様、ありがとうって言おう。
けどその前に……。
私はユウさんへと視線を向ける。
「……ユウさん。オープン初日、本当にお疲れ様でした。最初にユウさんがパン屋をオープンするっていう提案をしてくださった時からずっとドキドキしてました。失敗したら……とかそんな事ではなくただただ楽しみで仕方なかった。ユウさんがルゲル村へ来てくれたことを心から嬉しいと思ってます。本当にありがとうございました」
まだまだ伝えたい事はあった。
けど止まらなくなる気がして何とかまとめてみた。
伝わったかどうかは分からない。
だから私は恐る恐るとユウさんへと視線を投げた。
すると……
「俺もこうして成功出来たこと、本当に嬉しいです。それに……こうしてパン屋が無事にオープン出来たのもエデンさんやルゲル村の人達全員のおかげです。今日、一番売れたパン。エデンさんが俺が探し求めていた幻の食材を使ったパンでした」
「それって……」
「はい。エデンさんが取ってきてくれた魅惑の蜜です。この蜜を使ってハニートーストを作ってみました。一番最初にエデンさんに食べてもらいたかったんですが中々の時間が取れなくて……」
「そうだったんですか!? なら……今、食べてもいいですか? 実はお腹ぺこぺこで……」
お腹を擦る私。
実は夢中で働いていたせいでお昼を食べ損ねてしまっていた。
「はい! 直ぐに準備しますね」
「よろしくお願いします」
ハニートーストか……。
きっと甘くて美味しいんだろうなー……。
想像するだけでお腹が鳴りそうだった。
そして数分後、店内のテーブル席で待っているとユウさんが厨房から出てきた。そしてそれと同時に甘い香りが広がった。
「お待たせしました。どうぞ、お召し上がりください」
「ありがとうございます!」
私は目の前に現れたハニートーストを見るなり目を輝かせた。
丸いお皿の上にのったハニートースト。
見た感じ六枚ほどのトーストが使われている。
それには色とりどりのソースが添えられていて色鮮やかで可愛らしい。
「このソース。エデンさんとルカちゃんが取ってきてくれた木の実から作ったんです」
「ソースまで手作りなんですか!? す、すごい……」
唖然とする私にユウさんが笑う。
「ありがとうございます。あ、どうぞお召し上がりください」
「はい。では早速……」
私はハニートーストを口へと運んだ。
ふわふわしたトーストに魅惑の蜜が染み込んでいて一気に口へと甘い味が広がった。
他にもソースを付けて食べてみたらどれも相性バッチリで思わず拍手してしまいそうになった。
「とても美味しかったです! ありがとうございました」
「お口にあったようで良かったです」
「あの、パンに必要な食材があれば言ってください! 私は冒険者です。森から洞窟、海底にだって取りに行きますから!」
私は胸を張り、言った。
私に出来ることはきっとこれくらいしか無いだろうからね。
すると、入口の扉が開いた。
アンくんかな? と思い、扉へと視線を向ければそこに居たのは町長さんだった。
「エデンさん……それにユウ」
「……父さん」
え?
思わず私は目を見開く。
そして交互に二人を見詰めた。
聞き間違いじゃなければ確かにユウさんは今町長さんのことを「父さん」と言った。そう言えば町長さんには息子が居て……それがユウさんってこと?
あまりの急展開に私の頭は混乱しきっていた。
「やっぱりお前だったのかユウ……」
「あぁ……」
どんよりとした空気が漂い始めた。
さっきまでは甘くて香ばしい香りが漂っていた筈なのに……。
この様子だと親子同士の問題だろう。
なら私が居たら邪魔だよね?
こっそり店から出ようとした時だった。
「エデンさん! 息子はパン屋が向いていると思いますか!?」
「え?」
急に町長さんに尋ねられ、私は焦りつつも頷く。
嘘は言ってない。
だってユウさんほどパンが好きな人は居ないと思うから。
私の答えに町長は唸った後、何かを決心したかのように大きく頷くと、ユウさんへと視線を投げる。
「父さんはお前はてっきり剣術一本で進むと思っていた。だからパン屋になると言われた時は驚いたさ。それに反対もした。だが……ユウが決めた道。親が口を挟むべきでは無かったな。それに……エデンさんが居るなら心配なさそうだ」
ん?
「エデンさん。これからもユウをよろしくお願いします!」
「あの、何か誤解してませんか?」
「誤解とは……?」
「決して私とユウさんは恋仲とかそういった関係では無いですよ?」
はっきりとそう私が言えば町長さんが大きく目を見開き、慌てて頭を下げ謝罪を始めた。どうやら本当に勘違いしていたらしい。
でも、まさか恋仲の関係に見られていたとは……。
ほんのり頬が熱くなるのを感じた。
「でも……俺はエデンさんと一緒にパン屋を経営するってのも良いなと思ってましたよ」
「え……!?」
耳元でそんな事を言われ、思わず私は弾かれたように振り返る。
するとそこにはニコリと微笑むユウさんが居た。
「か、からかわないでください!」
店内には私の声が響き渡った。
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