女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人

文字の大きさ
12 / 33

10

しおりを挟む
「失礼します」

「うん、どーぞ」

リヒトに連れられやって来たの第二研究室だ。
いつも使用している研究室は第一研究室のため、初めて入る教室だ。

教室の中は、正直お世辞でも綺麗とは言えなかった。
幸い足の踏み場があることが救いだろうか。
机に乱雑に置かれた本の山と紙の束。
禍々しい色の液体の入ったフラスコや見慣れない薬草の数々。
何か研究の依頼をされていると話していたから、それに関係するものなのだろう。
そして部屋の隅には毛布が乱雑に置かれていたりと、どことなく生活感を感じられた。

「もしかして寝泊まりされてるんですか?」

「うん。追い込みの時とか特にね。家でもいいんだけど、あっちは色々と面倒くさくて」

そう言って椅子に促され、プレセアは腰を下ろす。
一方のリヒトはグツグツとお湯を沸かし始めた。

「ごめんね。コップが無いからビーカーで代用するね。あ、実験とかには使ったことのないビーカーだから安心して」

「突然お仕掛けたのにお茶の用意までしてもらって....」

「気にしないで。研究室で話したいって言ったのは僕だし。おもてなしさせて欲しいな」

ニコリと優しい笑みを浮かべながらそう言われてしまえば、もう何も言うことは出来なかった。
暫くしてお湯が湧き、紅茶が出された。
フルーツの優しい香りのするフルーツティーだ。

「それで僕に聞きたいことって?」

「あ、実はこのノートのことをお聞きしたくて」

プレセアは鞄からノートを取り出しリヒトへと差し出した。
リヒトはノートを受け取るなり、了解を得てページを捲っていく。

「家族に尋ねてみようかとも思ったんですが、尋ねづらくて....。リヒト先輩なら何かご存知かなと思いまして」

「....そっか。プレセアさんはこのノートを見た時どう思った?」

思わぬ質問にプレセアは瞳を瞬かせた。
まるで何かを見定めているような....そんな視線に目を逸らしてしまいそうになる。
けれどリヒトの真剣な眼差しを受け、プレセアは正直に言葉を紡いでいく。

「..きっと誰かのために必死になって考えたんだと思いました。最初は、私の長期休暇のお出かけプランか何かとも考えましたが、絶対にこれは違うと断言できます。だって……あまりにも私の趣味ではありませんせでしたから。だから相手の好きなものを取り入れた計画をこの時の私はたてた。けど……これは正直、実行できたとしても相手を楽しませることは不可能だったと思いました」

「え?」

思わぬプレセアの言葉に今度はリヒトが瞳を瞬かせる番だった。

「だって相手の顔色ばかりを伺ったプランなんてつまらないじゃないですか。二人で出掛けるのなら私の好きな物も共有したいですから」

このノートを見た時、最初に思ったことは、どうしてこんなに必死になって自分はこんな事をノートに綴ったのか、だった。
そしてまるで自分の叫びを聞いている様な気分になって、心地が悪かった。

何のためにこんなことを綴ったのだろうか。
自分のため?
いや、それは絶対に違う。
だってこんなパワースポットなんて、プレセアは微塵も興味は無い。
だから、きつまと大切な人のためなのだと分かった。
けれど、その大切な人が一向に思い出せない。
否、思い出さなくて良い。
そう思ってしまった。
なぜか分からないが、それが正しい判断なのだと思ったのだ。

プレセアの言葉にリヒトは安堵した様に微笑む。
プレセアの導き出した答えから、ルイスとの関係をきちんと心の中で成立がついたのだと分かったからだ。

「……良かったよ。前に進めたみたいで」

「リヒト先輩?」

「うんうん、何でもないよ。にしても……何だかスッキリした顔してる」

「確かにそうですね。一人でどう片付けていいものかと悩んでいたので、リヒト先輩に尋ねて良かったです。ありがとうございます」

どこか心の縁に引っ掛かっていた疑問。
それが晴れたことでプレセアは嬉しそうに微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子とさようならしたら空気が美味しくなりました

きららののん
恋愛
「リリエル・フォン・ヴァレンシュタイン、婚約破棄を宣言する」 王太子の冷酷な一言 王宮が凍りついた——はずだった。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。

梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。 王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。 第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。 常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。 ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。 みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。 そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。 しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

『仕方がない』が口癖の婚約者

本見りん
恋愛
───『だって仕方がないだろう。僕は真実の愛を知ってしまったのだから』 突然両親を亡くしたユリアナを、そう言って8年間婚約者だったルードヴィヒは無慈悲に切り捨てた。

悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。

ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」  ぱんっ。  愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。  甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。  ──え?  打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

婚約者を借りパクされました

朝山みどり
恋愛
「今晩の夜会はマイケルにクリスティーンのエスコートを頼んだから、レイは一人で行ってね」とお母様がわたしに言った。 わたしは、レイチャル・ブラウン。ブラウン伯爵の次女。わたしの家族は父のウィリアム。母のマーガレット。 兄、ギルバード。姉、クリスティーン。弟、バージルの六人家族。 わたしは家族のなかで一番影が薄い。我慢するのはわたし。わたしが我慢すればうまくいく。だけど家族はわたしが我慢していることも気付かない。そんな存在だ。 家族も婚約者も大事にするのはクリスティーン。わたしの一つ上の姉だ。 そのうえ、わたしは、さえない留学生のお世話を押し付けられてしまった。

処理中です...