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「今日は手伝ってくれてありがとう。すごく助かったよ」
そう言って採取した薬草の入ったカゴを机に置くリヒト。
笑みを浮かべているものの、それは到底笑っているようにはプレセアには感じられなかった。
恐らくだが、先程の生徒達の言葉を気にしているのだろう。
プレセアはよし、と拳を握るとリヒトへと声をかける。
「リヒト先輩のお力になれたのなら良かったです。助けられてばかりだったので」
「全然気にしなくていいのに。……いや、気にするべきだったのは僕の方だ。プレセアさんにまで影響が及んでしまったら大変だから」
「影響、ですか?」
「うん。さっき貴方も聞いていたでしょ? 僕、あまり評判が良くなくてね。プレセアさんの優しさに甘えてつい手伝いを頼んでしまった。貴方にまで悪い評判がついてしまうかもしれないのに……」
申し訳なさそうに項垂れるリヒト。
これから彼の口から紡がれる言葉が容易に想像できてしまい、鼓動がはやくなるのを感じる。
「だからもう僕とはもう……」
「確かに私はリヒト先輩のことを全然知らないかもしれない。さっき、言ってましたよね。どんな研究をしてるのかも知らないのに……って。確かに知りません! けど……リヒト先輩は困っている人を見過ごせない、心優しい人だっていう事はよく知っています。だから私は、此処にいます。優しい貴方にきちんと御礼をしたいから」
真っ直ぐリヒトの瞳を見つめて、プレセアは言った。
その言葉に……一瞬、リヒトの瞳に光が宿った。
虚ろな瞳が生を宿し、瞬く。
それから少しの沈黙が続いたあと、リヒトが口を開いた。
「……プレセアさんは僕が周囲から何て言われてるか知ってる?」
「ごめんなさい。分かりません……」
「謝る必要なんてないよ。一年生は四年生と関わりなんて全然ないし。けど……寧ろ安心した。一年生には知れ渡っていないみたいで。僕、国王の愛人の子どもだとか、実は隠し子だとかあること無いこと言われてるんだよ。どうやら僕が国王陛下と繋がりがあるって何処かで聞きつけた生徒がいてね」
うんざりした様子でリヒトは続ける。
「まぁ、所詮噂だし気にしてなかったんだ。けど、こんな研究室にこもりきってるのもあってね。いろいろと厄介な奴らが湧き出してさ」
「森で会った様な人達ですか?」
「そうそう。まぁ、気にしたら負けだと思ってて相手にしてなかったんだけどさ。プレセアさんが僕と関わることで貴方にも悪い評判がついてしまうんじゃないかと心配になったんだ」
もう酷い言葉を浴びせられるのも、蔑ろにされる事にも慣れきってしまっているのだろう。
寧ろ開き直り、全てを受け入れたのだろう。
しかし、プレセアが自分と同じ様な扱いを受けるかもしれない……。
それだけは、リヒトはどうしても受け入れられなかった。
幼い頃から出生のこともあり、全てを諦めて、受け入れるしか方法のない現実だけを見て生きてきた。
このまま国の手足として、奴隷のように尽くす日々だと思っていた。
……あの日、雨に打たれながら涙を流すプレセアに出会うまでは。
「ごめん、そんな顔させたくてこんな話した訳じゃないのに」
リヒトが心配そうにプレセアの顔を覗き込む。
プレセアは首を横に震る。
そして大丈夫だと、そう答える。
きっとプレセアが想像する以上に辛い経験をしてきたのだろうと分かった。
それに共感し、思いを馳せるだけで胸が苦しくなった。
「……プレセアさん。顔を上げて」
「え? ……っ! 」
促され、顔をあげる。
そうすれば部屋一面に美しい星々が輝いていた。
否、ここは部屋ではない。
夜空だ。
室内にいた筈なのに気づけばプレセアは満天の星が輝く夜空の下にいた。
一体どういう事なのか検討がつかない。
けれどそれは一瞬だった。
なぜか頭の中に【魔法】という言葉が現れ、そして疑問も抱かずにいとも簡単に存在を受け入れてしまったのだ。
「綺麗……」
だが、そんな星空はあっという間に消えた。
瞬間、先程までいた研究室へと戻り、プレセアは瞳を瞬かせた。
「魔法は万能じゃないからね。魔法の解除条件を満たせば消えてしまう。この星空の魔法だと、時間が条件なんだ」
「そうなんですね。けど、綺麗な星空でした。……魔法って素敵ですね」
「気に入ってくれて良かった。それと……漸く笑ってくれたね」
安堵した様子で微笑むリヒト。
どうやらプレセアを励ます為に魔法を使ったようだ。
「あの……! またお手伝いしに来てもいいですか?」
プレセアは恐る恐ると尋ねた。
そうすれば、リヒトが穏やかな笑みを浮かべながら答えた。
「……うん。プレセアさんがよければお願いしてもいいかな。えっと、実はかなり追い込まれてるんだよね」
こうしてプレセアの長期休暇は、リヒトと共に研究へと明け暮れる日々となることが決定した。
そう言って採取した薬草の入ったカゴを机に置くリヒト。
笑みを浮かべているものの、それは到底笑っているようにはプレセアには感じられなかった。
恐らくだが、先程の生徒達の言葉を気にしているのだろう。
プレセアはよし、と拳を握るとリヒトへと声をかける。
「リヒト先輩のお力になれたのなら良かったです。助けられてばかりだったので」
「全然気にしなくていいのに。……いや、気にするべきだったのは僕の方だ。プレセアさんにまで影響が及んでしまったら大変だから」
「影響、ですか?」
「うん。さっき貴方も聞いていたでしょ? 僕、あまり評判が良くなくてね。プレセアさんの優しさに甘えてつい手伝いを頼んでしまった。貴方にまで悪い評判がついてしまうかもしれないのに……」
申し訳なさそうに項垂れるリヒト。
これから彼の口から紡がれる言葉が容易に想像できてしまい、鼓動がはやくなるのを感じる。
「だからもう僕とはもう……」
「確かに私はリヒト先輩のことを全然知らないかもしれない。さっき、言ってましたよね。どんな研究をしてるのかも知らないのに……って。確かに知りません! けど……リヒト先輩は困っている人を見過ごせない、心優しい人だっていう事はよく知っています。だから私は、此処にいます。優しい貴方にきちんと御礼をしたいから」
真っ直ぐリヒトの瞳を見つめて、プレセアは言った。
その言葉に……一瞬、リヒトの瞳に光が宿った。
虚ろな瞳が生を宿し、瞬く。
それから少しの沈黙が続いたあと、リヒトが口を開いた。
「……プレセアさんは僕が周囲から何て言われてるか知ってる?」
「ごめんなさい。分かりません……」
「謝る必要なんてないよ。一年生は四年生と関わりなんて全然ないし。けど……寧ろ安心した。一年生には知れ渡っていないみたいで。僕、国王の愛人の子どもだとか、実は隠し子だとかあること無いこと言われてるんだよ。どうやら僕が国王陛下と繋がりがあるって何処かで聞きつけた生徒がいてね」
うんざりした様子でリヒトは続ける。
「まぁ、所詮噂だし気にしてなかったんだ。けど、こんな研究室にこもりきってるのもあってね。いろいろと厄介な奴らが湧き出してさ」
「森で会った様な人達ですか?」
「そうそう。まぁ、気にしたら負けだと思ってて相手にしてなかったんだけどさ。プレセアさんが僕と関わることで貴方にも悪い評判がついてしまうんじゃないかと心配になったんだ」
もう酷い言葉を浴びせられるのも、蔑ろにされる事にも慣れきってしまっているのだろう。
寧ろ開き直り、全てを受け入れたのだろう。
しかし、プレセアが自分と同じ様な扱いを受けるかもしれない……。
それだけは、リヒトはどうしても受け入れられなかった。
幼い頃から出生のこともあり、全てを諦めて、受け入れるしか方法のない現実だけを見て生きてきた。
このまま国の手足として、奴隷のように尽くす日々だと思っていた。
……あの日、雨に打たれながら涙を流すプレセアに出会うまでは。
「ごめん、そんな顔させたくてこんな話した訳じゃないのに」
リヒトが心配そうにプレセアの顔を覗き込む。
プレセアは首を横に震る。
そして大丈夫だと、そう答える。
きっとプレセアが想像する以上に辛い経験をしてきたのだろうと分かった。
それに共感し、思いを馳せるだけで胸が苦しくなった。
「……プレセアさん。顔を上げて」
「え? ……っ! 」
促され、顔をあげる。
そうすれば部屋一面に美しい星々が輝いていた。
否、ここは部屋ではない。
夜空だ。
室内にいた筈なのに気づけばプレセアは満天の星が輝く夜空の下にいた。
一体どういう事なのか検討がつかない。
けれどそれは一瞬だった。
なぜか頭の中に【魔法】という言葉が現れ、そして疑問も抱かずにいとも簡単に存在を受け入れてしまったのだ。
「綺麗……」
だが、そんな星空はあっという間に消えた。
瞬間、先程までいた研究室へと戻り、プレセアは瞳を瞬かせた。
「魔法は万能じゃないからね。魔法の解除条件を満たせば消えてしまう。この星空の魔法だと、時間が条件なんだ」
「そうなんですね。けど、綺麗な星空でした。……魔法って素敵ですね」
「気に入ってくれて良かった。それと……漸く笑ってくれたね」
安堵した様子で微笑むリヒト。
どうやらプレセアを励ます為に魔法を使ったようだ。
「あの……! またお手伝いしに来てもいいですか?」
プレセアは恐る恐ると尋ねた。
そうすれば、リヒトが穏やかな笑みを浮かべながら答えた。
「……うん。プレセアさんがよければお願いしてもいいかな。えっと、実はかなり追い込まれてるんだよね」
こうしてプレセアの長期休暇は、リヒトと共に研究へと明け暮れる日々となることが決定した。
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