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口癖は妹の名前
しおりを挟む私の名前はティア・フェリシア。
フェリシア公爵家の長女として生を受けた。
亜麻色の髪は母譲りで、淡い水色の瞳は父譲り。自分で言うのも何だが、かなり容姿は整っている方で、両親には感謝しか無い。
そしてそんな私には婚約者が居る。
婚約者の名は、クラウス・メルリア・ウィスタル。
私の住むウィスタル王国の第一王子である。
銀色の美しい髪色と宝石のような青い瞳を持つ彼はいかにも王子様と言った風貌だ。整った顔立ち、スラリとした背丈。そして何より爽やかな笑顔に、誰もが彼に心を奪われる。
また性格も穏やかで、気遣いの出来る方である。第一王子としての執務しっかりとこなし、国民達のことを常に考え、王国の更なる発展の為に日々学び、努力する姿は誰もが関心を寄せ、誰もが彼が次期国王として相応しいと口々に言った。
そんな彼の婚約者な訳だが…不満が一つあったりする。
それは┈┈┈┈┈┈
「そこでエミルがどうしたと思いますか?」
「あー、分かりません。教えて頂けますか?」
「 何とエミルはそこでバク転をしたんです! 凄いでしょう?」
えぇ、ほんと凄いと思いますよ。
バク転をする妹も、先程から妹の話ばかりする貴方もね。
興奮気味で話すクラウスを前に私は乾いた笑みを浮かべることしか出来ない。
私が婚約者に対して抱いている不満。
それは、彼の口癖が妹、エミルの名である事だ。
今日は週に二回あるクラウスとのお茶会なのだが……
「そう言えば昨日、剣術の稽古があったんです。けれど、やはり師匠には敵いませんね。エミルならば簡単に師匠を圧倒すんですけどね」
「あー、そうですね。あの子は剣術の上手ですからね」
それからもクラウスのエミル、エミル、エミル……とエミルの話が続き、今日もお茶会はエミルの話題ばかりのまま終わった。
婚約を交わした最初は、普通にた世間話や最近勉強した事等…至って普通の会話をしていたのだが、気付けばクラウスの話す内容はエミルの事ばかりとなっていた。
勿論、ティアも話題を変えようと何度も試みた。しかし、どう話題を切り変えても最終的にはエミルの話題へと向かってしまうのだ。
ほんと、あの人ってエミルの事が大好きよね。
何ならエミルと婚約した方が良いんじゃないかしら?
そうふと思った時、私はハッとした。
「エミルーーー!!」
そして気づいたら妹の名を叫んでいた。
屋敷の階段を駆け上がり、私はエミルの部屋の扉を勢いよく開けた。そうすれば、ベッドの上でブリッジをしていた妹が、勢いよくバランスを崩し、ベッドの下へと落ちる。
そのままエミルは床に頭をぶつけ、鈍い音が部屋に響く。
痛そうだけど、その痛みで少しは令嬢らしさを取り戻して欲しいところ。
「お姉ちゃん、入る前はノックしてよね!?」
「あ、ごめんね。それで相談があるの」
「私の話を聞く気無いな…。まぁ、相談ぐらい聞くけど。で、どうしたの?」
「エミル。貴方、婚約者が欲しいのよね?」
私がエミルの両肩を掴み、真っ直ぐ見つめれば、エミルが困惑した様に「え、何事? え?」と声を漏らす。
改めて見ると妹もかなりの美人だなぁ…と思う。
なのに何で婚約者が出来ないのだろうか。
まぁ、ベッドの上でブリッジをし、パーティ会場で逆立ちにバク転をする様なお淑やかさの欠片も無い妹だからだとは思うけど……。
「エミル、喜びなさい。貴方にいい人を見つけたわ」
「え、ほんと…?」
「えぇ。絶対に気が合うと思うし、大事にされると思うわから、安心して嫁に行きなさい」
「お姉ちゃん…! 私、初めてお姉ちゃんのこと本気で大好きって思った」
十六年生きてて初めてってどういう事よ。
そう思ったけど、頬を抓るだけで許してあげることにした。ほら私、優しいから。
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