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譲った婚約者の座
週に二回開催されるティアとクラウスの小さなお茶会。
いつもは城で行うそのお茶会だったが、今回だけは違った。
「エミル。どっちのドレスがいい?」
ティアが赤いドレスと黄色いドレスを手にエミルへと尋ねる。
「迷うけど……赤! 派手だし、何より派手だしっ! けど、こんなに綺麗で美しい私が着たら霞んじゃうかもね」
「そうね、じゃあ水色にしましょう」
「ちょっと、お姉ちゃん。私の話聞いてたかな!?」
手にも取っていなかった水色のドレスをティアが選べば、エミルは声を上げて椅子から立ち上がる。
エミルのヘアセットをしていたメイドが「動かないで下さいと何度言えば分かるんですか!?」と声を荒らげた。
今日のお茶会はお城では無く、公爵邸での開催を提案した所、クラウスは快く引き受けてくれた。何なら心底嬉しそうだったくらいだ。
嬉しそうに笑うクラウスを見た時、ティアは誓ったのだ。
素敵なお茶会を催してやろうじゃない…!
と。
婚約者の前で妹の名前を連呼するデリカシーの無いクラウスではあるが、妹を深く愛する心はしっかりとティアにも伝わってくる。
そんな妹エミルは、婚約者が欲しいと嘆いている。ならば、ティアが行うべき事はただ一つだ。
大量のドレスや髪飾り、そして靴を前にティアは頭を悩ませる。
ティアが行うべきこと。
それは、二人の恋のサポートである。
だからこうして現在、ティアはエミルにどのドレスを着せようか頭を悩ませている。
そして現在、エミルの部屋には多くのメイド達の姿があり、エミルの支度の準備を行っている。
その間、ティアにはエミルの衣服の担当と動き回らない様にと話し相手係に任命されていたのだが……
「髪飾りは……この帽子なんてどうかしら?」
「お姉ちゃんほんと趣味悪い! このリボンでしょ普通。派手だしっ!」
「「「お嬢様、動かないでくださいっ!!」」」
逆にティアが居ることで一向に準備が終わらない事をメイド達は気付かずに、予定よりも一時間オーバーでエミルの支度が漸くの整った。
淡い水色のドレスに身を包み、髪型は毛先にウェーブをかけ、頭にはエミルご所望のリボンを着けている。
黙っていれば人形みたいだな、とティアはお思いつつ、こんな綺麗に着飾ったエミルを前にクラウスがどんな反応をするか楽しみで仕方なかった。
それから数時間後。
遂にクラウスがやって来た。
自室から公爵邸へと入って来るクラウスの様子がいつにもましてご機嫌に見えた気がしたが、恐らくそれは正解である。
なにせ、公爵邸にはエミルが居るのだ。
毎週二回行われる小さなお茶会はお城で行われるので、勿論エミルは居ない訳だが、今回は違う。今回は一つ屋根の下でのお茶会だと、あちらは認識している筈だ。
ティアもまたお茶会に相応しい衣装に着替える。
灰色と紺色という、かなり地味目なドレスであるが、敢えてティアはこれを選んだのだ。
なにせ、今回のお茶会の主役は二人であってティアでは無いのだから。
◇▢◇▢▢▢▢▢▢◇◇◇
それからお茶会が始まて三十分が経過した。
しかし、主役の二人の様子がおかしい事にティアは気づく。
「二人とも顔色が悪くない?」
そんなティアの問いに、エミルが乾いた笑みを浮かべながら言う。
「……あの、ね。お姉ちゃん。私さ…婚約者を紹介して貰えるって聞いてたんだけど?」
「お、俺はお茶会だって聞いてたんですけど…?」
「だからさっき言ったじゃないですか。クラウス様はエミルの事が愛おしくて仕方ない様なので、私との婚約は破棄してエミルと婚約しては如何ですか? と」
ティアの言葉に二人は固まる。
そして顔を見合わせたかと思うと、何やら目で会話を始める。
(目で会話が出来るなんて…! 普通、あんな上級者向けの会話方法出来ない…。 やっぱりかなり気が合うのね)
ティアは二人を微笑ましく見つめた後、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
そして
「後は若い二人でお楽しみ下さい。邪魔者は失礼しますね」
上機嫌にそう言い残してティアが部屋を後にする。
そんなティアの後ろ姿を見送る事しか出来なかった二人は、更に顔色を真っ青にした。
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