そんなに妹が良いのなら婚約者の座は妹に譲ります

流雲青人

文字の大きさ
2 / 7

譲った婚約者の座



 週に二回開催されるティアとクラウスの小さなお茶会。
 いつもは城で行うそのお茶会だったが、今回だけは違った。


 「エミル。どっちのドレスがいい?」


 ティアが赤いドレスと黄色いドレスを手にエミルへと尋ねる。


 「迷うけど……赤! 派手だし、何より派手だしっ! けど、こんなに綺麗で美しい私が着たら霞んじゃうかもね」
 「そうね、じゃあ水色にしましょう」
 「ちょっと、お姉ちゃん。私の話聞いてたかな!?」


 手にも取っていなかった水色のドレスをティアが選べば、エミルは声を上げて椅子から立ち上がる。
 エミルのヘアセットをしていたメイドが「動かないで下さいと何度言えば分かるんですか!?」と声を荒らげた。


 今日のお茶会はお城では無く、公爵邸での開催を提案した所、クラウスは快く引き受けてくれた。何なら心底嬉しそうだったくらいだ。
 嬉しそうに笑うクラウスを見た時、ティアは誓ったのだ。


 素敵なお茶会を催してやろうじゃない…!
と。


 婚約者の前で妹の名前を連呼するデリカシーの無いクラウスではあるが、妹を深く愛する心はしっかりとティアにも伝わってくる。
 そんな妹エミルは、婚約者が欲しいと嘆いている。ならば、ティアが行うべき事はただ一つだ。


 大量のドレスや髪飾り、そして靴を前にティアは頭を悩ませる。

 ティアが行うべきこと。
 それは、二人の恋のサポートである。
 だからこうして現在、ティアはエミルにどのドレスを着せようか頭を悩ませている。

 そして現在、エミルの部屋には多くのメイド達の姿があり、エミルの支度の準備を行っている。
 その間、ティアにはエミルの衣服の担当と動き回らない様にと話し相手係に任命されていたのだが……


 「髪飾りは……この帽子なんてどうかしら?」
 「お姉ちゃんほんと趣味悪い! このリボンでしょ普通。派手だしっ!」
 「「「お嬢様、動かないでくださいっ!!」」」


 逆にティアが居ることで一向に準備が終わらない事をメイド達は気付かずに、予定よりも一時間オーバーでエミルの支度が漸くの整った。

 淡い水色のドレスに身を包み、髪型は毛先にウェーブをかけ、頭にはエミルご所望のリボンを着けている。
 黙っていれば人形みたいだな、とティアはお思いつつ、こんな綺麗に着飾ったエミルを前にクラウスがどんな反応をするか楽しみで仕方なかった。


 それから数時間後。
 遂にクラウスがやって来た。
 自室から公爵邸へと入って来るクラウスの様子がいつにもましてご機嫌に見えた気がしたが、恐らくそれは正解である。
 なにせ、公爵邸にはエミルが居るのだ。

 毎週二回行われる小さなお茶会はお城で行われるので、勿論エミルは居ない訳だが、今回は違う。今回は一つ屋根の下でのお茶会だと、あちらは認識している筈だ。

 ティアもまたお茶会に相応しい衣装に着替える。
 灰色と紺色という、かなり地味目なドレスであるが、敢えてティアはこれを選んだのだ。
 なにせ、今回のお茶会の主役は二人であってティアでは無いのだから。

 

 ◇▢◇▢▢▢▢▢▢◇◇◇



 それからお茶会が始まて三十分が経過した。
 しかし、主役の二人の様子がおかしい事にティアは気づく。


 「二人とも顔色が悪くない?」


 そんなティアの問いに、エミルが乾いた笑みを浮かべながら言う。


 「……あの、ね。お姉ちゃん。私さ…婚約者を紹介して貰えるって聞いてたんだけど?」
 「お、俺はお茶会だって聞いてたんですけど…?」
 「だからさっき言ったじゃないですか。クラウス様はエミルの事が愛おしくて仕方ない様なので、私との婚約は破棄してエミルと婚約しては如何ですか? と」


 ティアの言葉に二人は固まる。
 そして顔を見合わせたかと思うと、何やら目で会話を始める。


 (目で会話が出来るなんて…! 普通、あんな上級者向けの会話方法出来ない…。 やっぱりかなり気が合うのね)


 ティアは二人を微笑ましく見つめた後、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
 そして


 「後は若い二人でお楽しみ下さい。邪魔者は失礼しますね」


 上機嫌にそう言い残してティアが部屋を後にする。
 そんなティアの後ろ姿を見送る事しか出来なかった二人は、更に顔色を真っ青にした。


あなたにおすすめの小説

あなたのことを忘れない日はなかった。

仏白目
恋愛
ノウス子爵家には2人の娘がいる しっかり者の20歳の長女サエラが入婿をとり子爵家を継いだ、 相手はトーリー伯爵家の三男、ウィルテル20歳 学園では同級生だつた とはいえ恋愛結婚ではなく、立派な政略結婚お互いに恋心はまだ存在していないが、お互いに夫婦として仲良くやって行けると思っていた。 結婚するまでは・・・ ノウス子爵家で一緒に生活する様になると ウィルテルはサエラの妹のリリアンに気があるようで・・・ *作者ご都合主義の世界観でのフィクションでございます。

【完結済み】妹の婚約者に、恋をした

鈴蘭
恋愛
妹を溺愛する母親と、仕事ばかりしている父親。 刺繍やレース編みが好きなマーガレットは、両親にプレゼントしようとするが、何時も妹に横取りされてしまう。 可愛がって貰えず、愛情に飢えていたマーガレットは、気遣ってくれた妹の婚約者に恋をしてしまった。 無事完結しました。

私の婚約者様には恋人がいるようです?

鳴哉
恋愛
自称潔い性格の子爵令嬢 と 勧められて彼女と婚約した伯爵    の話 短いのでサクッと読んでいただけると思います。 読みやすいように、5話に分けました。 毎日一話、予約投稿します。

〈完結〉姉と母の本当の思いを知った時、私達は父を捨てて旅に出ることを決めました。

江戸川ばた散歩
恋愛
「私」男爵令嬢ベリンダには三人のきょうだいがいる。だが母は年の離れた一番上の姉ローズにだけ冷たい。 幼いながらもそれに気付いていた私は、誕生日の晩、両親の言い争いを聞く。 しばらくして、ローズは誕生日によばれた菓子職人と駆け落ちしてしまう。 それから全寮制の学校に通うこともあり、家族はあまり集わなくなる。 母は離れで暮らす様になり、気鬱にもなる。 そしてローズが出ていった歳にベリンダがなった頃、突然ローズから手紙が来る。 そこにはベリンダがずっと持っていた疑問の答えがあった。

【完結】義家族に婚約者も、家も奪われたけれど幸せになります〜義妹達は華麗に笑う

鏑木 うりこ
恋愛
お姉様、お姉様の婚約者、私にくださらない?地味なお姉様より私の方がお似合いですもの! お姉様、お姉様のお家。私にくださらない?お姉様に伯爵家の当主なんて務まらないわ  お母様が亡くなって喪も明けないうちにやってきた新しいお義母様には私より一つしか違わない双子の姉妹を連れて来られました。  とても美しい姉妹ですが、私はお義母様と義妹達に辛く当たられてしまうのです。  この話は特殊な形で進んで行きます。表(ベアトリス視点が多い)と裏(義母・義妹視点が多い)が入り乱れますので、混乱したら申し訳ないですが、書いていてとても楽しかったです。

嫌われ令嬢とダンスを

鳴哉
恋愛
悪い噂のある令嬢(妹)と 夜会の警備担当をしている騎士 の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、4話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。 姉の話もこの後に続けて後日アップする予定です。 2024.10.22追記 明日から姉の話「腹黒令嬢は愛などいらないと思っていました」を5話に分けて、毎日1回、予約投稿します。 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 妹の話を読んでからお読みいただきたいです。

(完結)お姉様の恋人をとってもいいでしょう?(全6話)

青空一夏
恋愛
私と姉はオマール男爵家の長女と次女で、姉は屋敷から出て、仕事をして暮していた。姉は昔から頭が良くて、お金を稼ぐことが上手い。今は会社を経営していて、羽振りが良かった。 オマール家で、お兄様が結婚して家督を継ぐと、私は実家に居づらくなった。だから、私は姉の家に転がりこんだのよ。 私は姉が羨ましかった。美人で仕事ができてお金が稼げる・・・姉の恋人を奪えば・・・ コメディタッチの、オチがあるお話です。※現代日本によく似た部分のある西洋風の爵位がある不思議異世界もの。現代機器あり。

虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~

***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」 妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。 「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」 元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。 両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません! あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。 他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては! 「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか? あなたにはもう関係のない話ですが? 妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!! ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね? 私、いろいろ調べさせていただいたんですよ? あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか? ・・・××しますよ?