貴方の理想の女の子を演じるのは、もう疲れました

流雲青人

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 ディウスには腹違いの弟がいた。
 何でも、公爵と愛人との間にできた子どもだという。

 けれど、その関係性が夫人にばれた時、公爵はその愛人を切り捨てた。結果、まだ生まれたばかりだったレオは、父親の顔を知らぬまま、小さな村で母親と二人で暮らしていた。

 村の人達がこそこそと噂をしていたから、自分の父親が誰なのか。母親がどのような行いをしたのか……何となくだが幼いなりに理解していたつもりだった。

 父親譲りの瞳を母親は時に寂しそうに……愛おしそうに見つめていた。
 捨てられたというのに、それでも尚、父親の事を好いている母親の感情は到底理解し難いものだった。
 なにせ、母親の心優しい性格を一番よく知っているのはレオだ。だからこそ、どんな理由があろうとも母親を切り捨てた父親を良く思うことは出来なかった。


 そんな母親が病に伏せて倒れたのはレオが十歳の誕生日を迎えた頃だった。
 だんだん弱っていく母親の姿をただ見ていることしか出来ない自分を、レオはとても情けなく感じた。
 そして同時に……否、それ以上に母親に同情した。あれだけ酷い扱いをされても尚、彼女が最期に残した言葉は、父親に対しての愛の言葉だったのだから。


 そんな母親が亡くなって数日が経った頃、レオの家に父親が訪れた。そして父親は、レオに言ったのだ。「公爵家に来い。拒否権はない」と。

 本当にどこまでも勝手な男だと思った。
 だが、まだ幼いレオに言葉通り拒否権など無かったのだ。


「でも、驚いたな。兄さんがグーミリアさん以上の人を見つけるなんて。貴方程完璧な理想の女性は居ないと思ってた」

「私は演じてただけだから。元々の気質で彼の理想の女性に当てはまる人に勝てる筈ないよ」

「……そーいう所は元からなんだ」

「え?」


 レオの言葉に思わずグーミリアは作業の手を止め、顔を上げる。そうすれば、灰色の瞳と目が合った。


「ずっと人に対して謙虚な姿勢。それはグーミリアさんの根本的な正確なんだな、って」

「……確かに、そうかも?」

「かもじゃない。そうだよ。俺が保証する」


 保証する。そう言われても、グーミリアとレオの関係性はほとんどない。
 なのに……何故だろう。自分を肯定された事が嬉しかった。

 ディウスの理想を演じる、それは言わば本来の気質を否定されているのと同じだ。今思えば、それが苦しくて仕方なかったのかもしれない。


「話、聞いてくれてありがとう」

「なんか、吹っ切れた様な顔してますね」

「うん。レオのおかげで気づけたから」

「お役に立てたようで何よりです」


 そう言って笑うレオにつられ、グーミリアも微笑む。
 彼とこうして話すのは随分久しい気がするが、相変わらずの人懐っこさは変わらないようでどこか安心感を覚えた。

 レオが公爵家でどのような立場にいるのか。それはディウスから少しだけ聞いたことがある。とにかくディオスはレオを毛嫌いし、弟だとは認めていない様だった。だからこそ、グーミリアにレオとは関わるな、と強く言っていた程だ。


「久々に話せたのに、こんな話になってしまったのは残念」

 そう素直に本音を伝えると

「だったらこれから沢山話せばいいんじゃない? ここの教室、放課後はほぼ空いてるんだし」

 レオはそう言うとグーミリアの顔を覗き込む。
 ディウスと同じ、灰色の瞳。
 けれどその瞳の宿す輝きは、全く似ていない様に思う。

「楽しそうな提案だね。そのお誘い、受けても?」

「俺の方こそ。ありがとう、グーミリアさん」


 こうして二人だけの秘密の密会がきまった。

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