ラブミーノイジー

せんりお

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ふと人の気配を感じて俺の意識は浮上した。どうやら本格的に眠ってしまっていたようだ。
ぱっと目を開けると俺の側に立っていた人物が驚いたように身動ぎするのが視界の端に映った。

「うわっ!びっくりした」

びっくりしたのはこっちだ。無言で人の寝顔を見てるなんて悪趣味。
そこにいる人物に目を向ける。
それにも驚いたように身動きして、ふわりとしたダークブラウンの髪が揺れた。 
寝起きのぼんやりした頭が、目の前の女に混乱を起こす。
あれ、ここは男子校のはずじゃなかったか…?
じっと見つめたまま何も言わない俺に目の前の人物は訝しげに眉を寄せた。
あ、そうか。なんか言わないと…
ベッドサイドに置いたスマホを手にとって俺は文章を作成した。

『なんで女…?』

「俺は男だよ!」

目の前の女、もとい男が憤慨したように言う。
覚醒してきた頭で改めて見る。あー、確かに男だ。茶色のふわふわした髪に、長い睫毛。くりくりした大きなたれ目に女かと思ったが体つきは華奢なもののちゃんと男だった。

『あー、ごめん』

「いいよ、慣れてるから!」

目の前の男は唇を尖らせながらも許してくれたようだ。っていうかやっぱりよく間違われてるのか。

「なんでスマホ?」

スマホで筆談する俺に不思議そうに問う。
そう、俺の会話手段は筆談だ。なぜなら

『声が出せないんだ』

俺は声を出すことができない。だから筆談するしか会話は出来ないんだ。
そう伝えると彼は、はっと目を見開いた。だけどそれは一瞬のことで、すぐに笑顔になった。

「そっか。だからそんなに文字入力速いんだ!」

お、おう。いや、反応それかよ。
でも変に同情した様子を見せてこないこの人物を俺は好ましく思った。

「あ、俺は三咲悠真だよ。君がこの部屋の人ならきっと同室者になる人かな!」

『俺は木南灯李。今日からよろしく』

「よろしくね、木南!」

三咲悠真と名乗った人物は、俺の同室者らしい。明るく名乗った彼に安心する。さっきの反応といい良い人そうだ。馴れ馴れしさを感じないのはこのあっけらかんとした態度のせいか。

『あ、俺勝手にこっちの部屋使っちゃってたけど大丈夫?』

「全然いいよ!こだわりないし」

三咲が言いながら寝室を出るのに続いて俺も居間に戻る。居間に足を踏み入れて驚いた。そこには寝る前にはなかったいくつもの段ボールが積まれていた。
その量に驚いた俺の顔を見て三咲が慌て出す。

「あ、ごめんね!すぐ片付けるから」

三咲が言いつつ段ボールを開け始めた。なるほど、三咲の引っ越し荷物か。にしてもすごい量だ。大きいサイズの段ボール箱が6つもある。

『手伝おうか?』

この分じゃ明日までに終わらなさそうだ。自分の荷物はまだ届かないし三咲を手伝おうと声をかける。

「え、いいの?お願い!」

目を輝かせた三咲に頷く。

『どれ開けても大丈夫?』

「うん大丈夫だよー」

作業をしていても俺が文字を打ち出すとこっちを気にしてくれて完成するとさっと読んでくれる。わざわざ差し出さなくても気づいてくれる彼はきっととても気が利くのだろう。

「っていうか木南の荷物は?もしかしてまだ引っ越し作業終わってないの?」

適当に手近にあった箱を開け始めると三咲が突然はっと顔をあげた。
俺の手伝ってちゃダメじゃん!とこちらを見るので俺は首をふった。

『明日届く』

「明日?」

首を傾げる三咲にはっと気づく。あ、俺が外部生だって知らないのか。

『俺、編入だから。今日は挨拶とかあったから持ってきてない。明日届けてもらう』
 
そう言うと三咲は驚いた顔をした。

「え、木南って編入なの!?編入試験ってすっごく厳しいって話だよ?」

確かに試験はとても難しかった。
にやっと笑ってみせると三咲はひぇーと目をぱちぱちさせた。

「木南すごいんだねー。俺勉強苦手だから教えてもらおーっと」

三咲はそう言うものの、この学園にいるということは頭は決して悪くないだろう。ここには今の日本を動かしている政治家や財閥の坊っちゃんたちが多数在籍する。だがこの学園は無条件にエスカレーターで上がれるほど甘くない。中等部に入学するには厳しい試験があるし、高等部に進学するのにも厳しいボーダーラインがあると聞いた。ここにいるのは正真正銘、未来のエリートたちのはずだ。



段ボールを全て開けて、物を整理し終わった時にはとっくに日が暮れていた。
曲げていた腰をぐーっと伸ばして立ち上がる。視線を動かすと同じように伸びをしていた三咲と目があってお互い笑顔になった。

「んーっ、疲れたー!手伝ってくれてありがとね、木南。助かった」

いいよ、と口パクで言いながら頷いた。
それを読み取ってくれた三咲がまた笑う。

「ね、食堂いかない?本当なら作ってもいいんだけど今日は食材もないし」

それにまた頷く。今から作るのは大変だ、というか俺は料理がからっきしなのだ。
特待生特権で1日2食分は食堂で無料で食べることが出来るので俺は毎日そこを利用するつもり。特待生様々だ。






三咲と連れだって廊下を歩く。寮の廊下だとは思えないほど綺麗で、まるで高級ホテルみたいだ。

「この寮すごいよねー」

きょろきょろしている俺を見て三咲がふふっと笑う。

「俺、寮って初めてなんだけどこんな感じだと思ってなかったよー」

いや、一般的な寮はこんなんじゃないと思うけどな。三咲の言葉に内心突っ込みを入れつつ、疑問に思ったことをスマホに打ち込んだ。

『初めて?中等部は寮じゃなかったのか?』

「ん?あぁそっか、中等部は寮がないんだよ。だから寮はみんな初めてなんじゃないかなー。」

そうだったのか。三咲に示すようにふんふんと頷く。

「ダイナミクスのこともあるしねー。自分のことをある程度は管理出来るようになってからじゃないとお互い困るしね」

『なるほどな』

何気ない世間話のように言う三咲と対称的に俺は苦く笑った。




この世には男女の性別と同時にダイナミクスと呼ばれる第二性が存在する。それがDom/Subだ。それぞれに性質が違い、Domは支配したいという欲求を持つ。お仕置きしたい、褒めてあげたい、守ってあげたいなど人によってどんな欲求が強いかは様々だが、変わらないのはそれがSubによってしか満たされないということ。
SubというのはDomと対になる性のことでDomに支配されたいという欲求を持つ。お仕置きされたい、守られたい、褒められたい。これもDomでしか満たすことが出来ない。
DomとSubはお互いに必要不可欠な存在なのだ。
だが誰もがDom/Subのどちらかであるとは言っても人によってその衝動の強さは違う。欲求を全く感じず日常生活にもほとんど影響がないタイプもいれば、敏感にDomやSubを感じ、欲求に悩まされるタイプもいる。命令したい、されたい。自分ではどうしようもない衝動に突き動かされる。
これによってSubが性的暴行に巻き込まれてしまうという事件も後を絶たない。

寮生活をするにあたって、この学園ではDom/Subについての教育プログラムや、起こり得るかもしれない性的暴行についての措置もしっかりとられている。俺がこの学園を選んだ理由の1つだ。
部屋はもちろんSub同士、Dom同士で組まれる。

そして俺はSubだ。支配を望む性。

―――――だから俺は自分が大嫌いだ。



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