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41 完
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春の気配を含んだ風が頬をさすっていく。
卒業式を終えた校内には、浮ついた空気が流れていた。
先輩方を見送るために、在校生たちが校門の方に流れていく。その流れに逆らって俺は図書室に足を向けた。
静かに扉を開けると、奥の棚の前に人が立っているのが見えて驚く。その人がこちらを振り返って爽やかに笑った。
「遅かったな」
「……いや、なんでいるんですか」
「なんでとは酷いな」
くくっと喉の奥で笑う。真貴さんの癖だ。
さっきまで講堂を出た辺りで風紀委員の後輩たちに囲まれていたと思ったのに。
「卒業おめでとうございます」
「ん、ありがとう」
「あーあ、卒業しちゃうんですね。寂しくなるなぁ」
今まで口に出してこなかった本音を冗談混じりに口に出して笑ってみせると、真貴さんは穏やかに目を細めた。
「寂しくなったらいつでも言え。いつでも会いに来てやるよ」
「……言質取りましたからね」
「ふはっ、むしろ一週間に一回は言えってルール設けとくか」
じゃないとお前言わないだろ、と続けられて苦笑する。見抜かれている。きっと俺は真貴さんを求めても、会いに来てとは言わない。我ながら可愛くないSubだ。でも会えなくても真貴さんと繋がっているのはわかっているし、そもそも今までみたいに頻繁に会えなくなるだけで、遠距離恋愛になるわけでもない。
「俺を強いSubにしたのは真貴さんだから、真貴さんのせいですね」
「それでこそお前って感じだけどな、ほんとに寂しくなったら言えよ」
優しいし念押しに顔が綻ぶ。そんな俺を咎めるように、真貴さんは身を屈めて唇にキスを落とした。
「さて、行くか」
手に持っていた本を棚に戻す。それはあの夏の日、俺が勧めた本だった。
「……あの時はDomもSubもいなくなってしまえ、なんて思ってましたけど。今はちょっと変わりました。真貴さんのおかげですね」
「お互い様だな」
何がとは言わない、唐突かつ曖昧な俺の言葉を真貴さんは汲み取ってくれた。ふっと笑って俺の髪をくしゃっとかき混ぜた。
校舎の外からは賑やかな声が響いてくる。
真貴さんは静かに図書室の扉を閉めた。
「お前春休みはどうするんだ?」
「んー、今の所なんにも決まってないですね。何日かは家に帰るつもりはしてますけど」
「なら俺の家に来い」
にやっと笑った真貴さんが、何かを指の間に挟んでひらひらと振った。反射的に手のひらを上にして出すと、それを乗せられる。
「カード?」
「鍵だよ。一人暮らしするって言ったろ?」
「こんなのもらっちゃったら入り浸りますよ?」
「そのつもりで渡したんだが?」
その声が甘くて、気恥ずかしさにそうっと目をそらすとまた笑われた。真貴さんはいつも上手だ。
「合鍵渡すのは恋愛小説の基本だろ。カードキーってのが味気ないけどな」
「確かに……カードキーってちょっと…」
「おい」
平べったいカードキーはひどく事務的で現実的だ。でもその現実感が妙に嬉しい。
傷つけないようにそっと学生証を入れてあるパスケースに仕舞った。
その間に真貴さんは少し先を歩いていて、俺が遅れているのに気づくと歩調を緩めて振り返ってくれた。その動作一つに真貴さんが好きだという気持ちが積み重なる。
笑って駆け寄ると、真貴さんが不思議そうに首を傾げた。
「明日のデート、三咲が張り切ってますよ」
「あいつほんとテーマパーク好きだよな」
「あ、俺明日はメリーゴーランド乗りたいです」
「なんでまた」
「真貴さんがリアル白馬の王子様になるの見たい」
「お前が乗りたいんじゃなくて俺か」
「ふはっ、騒ぎになりますよ。イケメンが馬に乗ってる!って」
「お前も他人事じゃないからな、それ」
いいんだ。視線が集まったらこれは俺のDomだと、俺だけのものなんだと自慢するから。それで満たされるSubというものはやっぱり歪なんだろう。でも幸せだからいいじゃないか。
真貴さんと明日の、またその先の話をしながら、もう二人で歩くことのない廊下を進む。
そっと手をのばすと、真貴さんが当たり前のように手を取って繋いでくれる。
変わることもあるけれど、変わらないこともある。
季節は止まることなく続いていく。
卒業式を終えた校内には、浮ついた空気が流れていた。
先輩方を見送るために、在校生たちが校門の方に流れていく。その流れに逆らって俺は図書室に足を向けた。
静かに扉を開けると、奥の棚の前に人が立っているのが見えて驚く。その人がこちらを振り返って爽やかに笑った。
「遅かったな」
「……いや、なんでいるんですか」
「なんでとは酷いな」
くくっと喉の奥で笑う。真貴さんの癖だ。
さっきまで講堂を出た辺りで風紀委員の後輩たちに囲まれていたと思ったのに。
「卒業おめでとうございます」
「ん、ありがとう」
「あーあ、卒業しちゃうんですね。寂しくなるなぁ」
今まで口に出してこなかった本音を冗談混じりに口に出して笑ってみせると、真貴さんは穏やかに目を細めた。
「寂しくなったらいつでも言え。いつでも会いに来てやるよ」
「……言質取りましたからね」
「ふはっ、むしろ一週間に一回は言えってルール設けとくか」
じゃないとお前言わないだろ、と続けられて苦笑する。見抜かれている。きっと俺は真貴さんを求めても、会いに来てとは言わない。我ながら可愛くないSubだ。でも会えなくても真貴さんと繋がっているのはわかっているし、そもそも今までみたいに頻繁に会えなくなるだけで、遠距離恋愛になるわけでもない。
「俺を強いSubにしたのは真貴さんだから、真貴さんのせいですね」
「それでこそお前って感じだけどな、ほんとに寂しくなったら言えよ」
優しいし念押しに顔が綻ぶ。そんな俺を咎めるように、真貴さんは身を屈めて唇にキスを落とした。
「さて、行くか」
手に持っていた本を棚に戻す。それはあの夏の日、俺が勧めた本だった。
「……あの時はDomもSubもいなくなってしまえ、なんて思ってましたけど。今はちょっと変わりました。真貴さんのおかげですね」
「お互い様だな」
何がとは言わない、唐突かつ曖昧な俺の言葉を真貴さんは汲み取ってくれた。ふっと笑って俺の髪をくしゃっとかき混ぜた。
校舎の外からは賑やかな声が響いてくる。
真貴さんは静かに図書室の扉を閉めた。
「お前春休みはどうするんだ?」
「んー、今の所なんにも決まってないですね。何日かは家に帰るつもりはしてますけど」
「なら俺の家に来い」
にやっと笑った真貴さんが、何かを指の間に挟んでひらひらと振った。反射的に手のひらを上にして出すと、それを乗せられる。
「カード?」
「鍵だよ。一人暮らしするって言ったろ?」
「こんなのもらっちゃったら入り浸りますよ?」
「そのつもりで渡したんだが?」
その声が甘くて、気恥ずかしさにそうっと目をそらすとまた笑われた。真貴さんはいつも上手だ。
「合鍵渡すのは恋愛小説の基本だろ。カードキーってのが味気ないけどな」
「確かに……カードキーってちょっと…」
「おい」
平べったいカードキーはひどく事務的で現実的だ。でもその現実感が妙に嬉しい。
傷つけないようにそっと学生証を入れてあるパスケースに仕舞った。
その間に真貴さんは少し先を歩いていて、俺が遅れているのに気づくと歩調を緩めて振り返ってくれた。その動作一つに真貴さんが好きだという気持ちが積み重なる。
笑って駆け寄ると、真貴さんが不思議そうに首を傾げた。
「明日のデート、三咲が張り切ってますよ」
「あいつほんとテーマパーク好きだよな」
「あ、俺明日はメリーゴーランド乗りたいです」
「なんでまた」
「真貴さんがリアル白馬の王子様になるの見たい」
「お前が乗りたいんじゃなくて俺か」
「ふはっ、騒ぎになりますよ。イケメンが馬に乗ってる!って」
「お前も他人事じゃないからな、それ」
いいんだ。視線が集まったらこれは俺のDomだと、俺だけのものなんだと自慢するから。それで満たされるSubというものはやっぱり歪なんだろう。でも幸せだからいいじゃないか。
真貴さんと明日の、またその先の話をしながら、もう二人で歩くことのない廊下を進む。
そっと手をのばすと、真貴さんが当たり前のように手を取って繋いでくれる。
変わることもあるけれど、変わらないこともある。
季節は止まることなく続いていく。
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