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41 真実
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「お前は入れるのか?」
シグさんに言われてちょんちょんと前足で膜をつついてみる。触れた足先がするっと中に入り込んで、慌てて引き抜いた。
『入れるみたいだね。シグさんは?』
「…やってみるしかないか」
この前に聖域に来たときはシグさんとレオンさんは入れなかったと聞いたっけ。触れると激しく弾かれたようで、今回もそうなってしまうかもしれない。シグさんがそぅっと手を伸ばして指先で膜に触れようとしたその時、
『これはこれは珍しいお客様だ』
声が聞こえた。
『シグさん待って!』
咄嗟に叫ぶとシグさんの指先は膜に触れる寸前で止まった。
「なんだ?」
『声が聞こえる。きっとこの中から』
「声?」
そうだ、前回は妖精たちに呼ばれて聖域に近づいたんだ。中にいる聖獣たちは外からの気配を感じられるのかもしれない。念話で話しかけられたその声はシグさんには聞こえていないようだし、これは私に向けて言われたものだろう。
『私たち、二人でこの中に入りたいんです。入れてくれませんか?』
声をかけてきたのが何者かも分からないし、そんなことが出来るのかどうかも知らない。でも賭けてみるしかない。
『帰還者と青の民、この二人が共にここまで来るとは。…これもまた運命か。いいだろう、入っておいで』
『ありがとうございます!』
帰還者、聞いたことのない単語だ。青の民はシグさんのことだろうから帰還者というのは私のことだろう。意味は分からないけれど招いてくれている以上行かない以外に選択肢はない。
『シグさん、入れるって!』
「は?なんでわかったんだ?」
『あ』
そういえばシグさんをほったらかしにしていたことに気づいて、慌てて説明した。
「なるほど。そういうことなら早く行くぞ」
『うん!』
二人で光の膜に向き合う。シグさんは1つ深呼吸をして、足を踏み出した。私も同じようにすぅっと息を吸ってから光の中に足を踏み入れた。とぷんと何かを通った感覚がして、視界が急に開ける。眩しさに一瞬目が眩んだ。
「…すごいな、ここは」
シグさんがぽつりと呟いた。その声には純粋な感嘆が籠っている。
膜の中に広がっているのは前に入った聖域と同じような景色。でもきっと何度見てもこの光景には鳴れることはないだろう。花が咲き誇り木々が青々とした葉を揺らす。現実味のない美しすぎる世界だ。
目を凝らせばルルたちのような妖精たちがふわふわと花の間を飛び交っているのが見えた。その下にはフワッと大きなあくびをしている三股の尻尾の猫や、銀色に輝くヘビなんかもいる。あれはみんな幻獣たちなんだろう。
急に入ってきた私たちを警戒することもなく、興味を示さないものや、逆に興味津々なものもいる。
「中はこんなに広いのか」
『うん。見た目とは違うよね。きっと魔法的な力が働いてるんだと思うけど』
「あぁ。でもこんなに広い空間を保てるほどの魔法は見たことがない。やっぱり幻獣はすごいな…」
ふわふわと寄ってきた妖精たちにシグさんが恐る恐る手を伸ばしている。妖精たちはそんなシグさんの手のひらをつついてみたり、そこに座ってみたり怖がる様子はやっぱりない。
『客人たちよ、こっちへおいで』
さっきの声が聞こえてきてはっと顔をあげた。声が聞こえてきた方向を見るとそこは花が咲き乱れる丘だった。丘の上には見たこともないような大きな木が立っている。
なんとなくあれがこの聖域の核の木だと感じた。
『シグさん、私たち呼ばれてる。あの木までおいでって』
妖精たちと戯れているシグさんに声をかける。
「わかった。行こう」
即答してシグさんは木に向かって歩き始めた。妖精たちもその回りを飛び回りながら着いてくる。やけにシグさんの回りに集まっているけどどうしてなんだろう。
しばらく歩いてたどり着いた木の下。
清浄な魔力が満ちていて、その密度の濃さにどこかぴりっとする。でも居心地が悪いわけじゃなくて、むしろずっとここにいたいと思うほど。
何メートルあるのか想像もつかないような太い幹。その中ほどに生えた枝には金色の鳥が止まっていた。
シグさんに言われてちょんちょんと前足で膜をつついてみる。触れた足先がするっと中に入り込んで、慌てて引き抜いた。
『入れるみたいだね。シグさんは?』
「…やってみるしかないか」
この前に聖域に来たときはシグさんとレオンさんは入れなかったと聞いたっけ。触れると激しく弾かれたようで、今回もそうなってしまうかもしれない。シグさんがそぅっと手を伸ばして指先で膜に触れようとしたその時、
『これはこれは珍しいお客様だ』
声が聞こえた。
『シグさん待って!』
咄嗟に叫ぶとシグさんの指先は膜に触れる寸前で止まった。
「なんだ?」
『声が聞こえる。きっとこの中から』
「声?」
そうだ、前回は妖精たちに呼ばれて聖域に近づいたんだ。中にいる聖獣たちは外からの気配を感じられるのかもしれない。念話で話しかけられたその声はシグさんには聞こえていないようだし、これは私に向けて言われたものだろう。
『私たち、二人でこの中に入りたいんです。入れてくれませんか?』
声をかけてきたのが何者かも分からないし、そんなことが出来るのかどうかも知らない。でも賭けてみるしかない。
『帰還者と青の民、この二人が共にここまで来るとは。…これもまた運命か。いいだろう、入っておいで』
『ありがとうございます!』
帰還者、聞いたことのない単語だ。青の民はシグさんのことだろうから帰還者というのは私のことだろう。意味は分からないけれど招いてくれている以上行かない以外に選択肢はない。
『シグさん、入れるって!』
「は?なんでわかったんだ?」
『あ』
そういえばシグさんをほったらかしにしていたことに気づいて、慌てて説明した。
「なるほど。そういうことなら早く行くぞ」
『うん!』
二人で光の膜に向き合う。シグさんは1つ深呼吸をして、足を踏み出した。私も同じようにすぅっと息を吸ってから光の中に足を踏み入れた。とぷんと何かを通った感覚がして、視界が急に開ける。眩しさに一瞬目が眩んだ。
「…すごいな、ここは」
シグさんがぽつりと呟いた。その声には純粋な感嘆が籠っている。
膜の中に広がっているのは前に入った聖域と同じような景色。でもきっと何度見てもこの光景には鳴れることはないだろう。花が咲き誇り木々が青々とした葉を揺らす。現実味のない美しすぎる世界だ。
目を凝らせばルルたちのような妖精たちがふわふわと花の間を飛び交っているのが見えた。その下にはフワッと大きなあくびをしている三股の尻尾の猫や、銀色に輝くヘビなんかもいる。あれはみんな幻獣たちなんだろう。
急に入ってきた私たちを警戒することもなく、興味を示さないものや、逆に興味津々なものもいる。
「中はこんなに広いのか」
『うん。見た目とは違うよね。きっと魔法的な力が働いてるんだと思うけど』
「あぁ。でもこんなに広い空間を保てるほどの魔法は見たことがない。やっぱり幻獣はすごいな…」
ふわふわと寄ってきた妖精たちにシグさんが恐る恐る手を伸ばしている。妖精たちはそんなシグさんの手のひらをつついてみたり、そこに座ってみたり怖がる様子はやっぱりない。
『客人たちよ、こっちへおいで』
さっきの声が聞こえてきてはっと顔をあげた。声が聞こえてきた方向を見るとそこは花が咲き乱れる丘だった。丘の上には見たこともないような大きな木が立っている。
なんとなくあれがこの聖域の核の木だと感じた。
『シグさん、私たち呼ばれてる。あの木までおいでって』
妖精たちと戯れているシグさんに声をかける。
「わかった。行こう」
即答してシグさんは木に向かって歩き始めた。妖精たちもその回りを飛び回りながら着いてくる。やけにシグさんの回りに集まっているけどどうしてなんだろう。
しばらく歩いてたどり着いた木の下。
清浄な魔力が満ちていて、その密度の濃さにどこかぴりっとする。でも居心地が悪いわけじゃなくて、むしろずっとここにいたいと思うほど。
何メートルあるのか想像もつかないような太い幹。その中ほどに生えた枝には金色の鳥が止まっていた。
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