白い猫と白い騎士

せんりお

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10 隊員たちとシグさん

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翌日、朝食を食べ終わってからシグさんは仕事に行くと言って軍服を着こんだ。その間にシグさんの職業について聞いてみる。

「俺の仕事?あぁ、軍人だ。まあ警護とか魔獣狩りとかな。おれは主に対魔獣の任務だが」

昨日立てた私の推測は間違っていなかったことがわかった。
やっぱりここは軍隊だったのか。対魔獣ということはシグさんは強いのかな…

じゃあ、と部屋を出ていこうとしたシグさんに、置いていかれてもどうしようもないし、いろんなことを見てみたくて私は慌てて大きな声で何度も鳴く。シグさんはそんな私を振り返ってくれた。

「なんだ?」

私は表でシグさんに連れていって欲しいことを伝えてみた。

「あー、まあそれもそうだな。一緒に来てもいいが俺がいいって言うとき以外は側を絶対離れるなよ。後、言葉わかってるくらいなら多少はいいが、文字は読めないふりしとけ」

「にゃー」

いい子の返事をしてしっぽも一度振っておく。
するとシグさんは私をひょいと拾い上げて自分の肩に乗せた。危ういバランスににゃあにゃあ抗議をする。

「うるせぇ。お前と俺じゃ歩幅が違いすぎるんだよ。猫ならバランスくらいとって掴まってろ」

と、理不尽に言われる。
そんなこというなら軍服に爪立てるからね‼



シグさんはうるさい私を完全に無視して部屋を出て、相変わらず私にとっては迷路のような廊下をずんずん歩いていく。

しばらく歩くと大きな扉の前についた。シグさんがドアを開けると、中にはたくさんの白い軍服をきた人がいた。

「あ、隊長。おはようございます」

「あれ、その猫どうしたんですか?」

「かっわいー!真っ白だ!」

何人もの人がシグさんに声をかける。私を見てみんな目を丸くしている。

「おはよう」
「昨日拾った」

など、シグさんも一言ずつ返している。そんなやり取りをしつつ部屋の一番奥までたどり着いたシグさんはパン!と1度手を打った。

「朝議を始める」

その言葉に中にいた人たちはみな静かになってシグさんの回りに集まった。

「報告とか連絡、何かあるやつ?」

「はい。昨日の魔獣討伐依頼の件ですが、昨夜は魔獣が出ることもなく、討伐は終了してよさそうです。」

「了解。次は?」

「はい。こちらは新たな案件です。王都の近くの村から討伐の依頼です。ここから帰る際にその依頼を片付けてこいとカーター様からのお達しです」

「またか。人使いの荒い人だな。わかった。次!」

「はい。昨日の討伐の件について詳しく報告に来るようにと。黒団の基地長からです」

「ちっ、めんどくせぇ。誰か行ってくれ」

「隊長をご指名です」

「…了解。他は?」

「あ、今日こちらの基地長がお帰りになられる予定です」

「予定より速いな、了解。他はないか?…よし、なさそうだな。じゃあ解散」

てきぱきと報告されることを片付けて、シグさんは解散を宣言した。飛び交う発言や部屋の中が物珍しく、私はじっと肩の上で大人しくしていた。

「ねこちゃーん!元気?」

昨日のレオンさんが近づいてきて声をかけてきた。レオンさんの耳にピアスがそれぞれ3つずつついているのに気がついた。どれもキラキラしていてレオンさんにぴったりだ。

「にゃーん」

と返事をしておく。いい子ー、と頭を撫でられて私は目を細めた。

「それにしてもこの子、こんなに真っ白だったんだねー。すっごくきれいじゃん!」

「あぁ。俺も驚いた」

シグさんもレオンさんに応じている。

「この子、シグが飼うの?」

「あぁ。そのつもりだ」

シグさんがはっきり言ってくれて、嬉しくて頭をシグさんにすりすりする。

「かっわいいねー」

それを見てレオンさんがそう言ってくれて、それも嬉しくて、レオンさんが撫でてくれる手にもすりすりしておく。

「シグ、この子の名前は?決めたの?」

「リツカだ」

「リツカ?変わった名前だね。なんでまた?」

「なんとなくだ」

シグさんと目が合って、シグさんはにやっと口角をあげた。二人しか知らない秘密の共有感がなんだか楽しくて嬉しかった。

「さあ、俺は報告に行ってくる。ちょっとこいつを頼む」

シグさんはそう言って私の首根っこを掴んで持ち上げた。
ちょ、その持ち方止めてよ!猫みたいじゃん!猫だけどさ!
そうしてレオンさんに渡す。

「いってらっしゃーい」

レオンさんが言うのに合わせて、私もその腕の中からにゃーんと鳴いて挨拶の代わりにした。




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