白い猫と白い騎士

せんりお

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『あ、じゃあ、地図を見せてくれませんか?』

ずっと見たいと思っていた。ここはやはり元の世界とは地形まで違うのだろうか。

「あぁ。ちょっと待ってろ」

快く言ってシグさんは地図を持ってきて見せてくれた。

え、なにこれ…大陸がない…?
地図には大きな陸地がなく、最大はオーストラリアくらいだ。それくらいのものが他に3、4つくらいあって、後は小さなな島が数多く点在している。どうやら1つの島に一国ずつあるようで全て海洋国家だ。

「俺達がいる国はこれだ」

シグさんが指し示したのは地図のちょうど真ん中から右斜め下のほう。オーストラリアもどきほどではないがそれを覗けば1番目くらいには大きいんじゃないだろうか。
私が余りにも驚愕しているのでシグさんは怪訝そうな顔をしている。
シグさんの顔を見上げると、世界地図の上にもう一枚新しい地図を広げてくれた。

「これはこの国の地図だ」

そういや国名を知らなかったと地図上部を確かめると「ハルク」と読めた。

「俺達が今いるのは海沿いのここ。王都はここだ」

教えてくれたところを見る。
と、地図のなかにいくつもの中心部に空き地がある大きな森があるのが目立つのがわかった。

『シグさん、この森は何?』

シグさんは私が聞きたいことを短い言葉で察してくれたようですぐ説明してくれる。

「それは魔の森だ。魔獣の住み処。お前と遭遇したのもそこだ」

『魔の森…この全部真ん中が空き地なのはなんでですか?』

「それは聖域だ。多くの幻獣はそこで暮らすと言われている。まあ伝承レベルでしかないが。お前を見つけたのもその近くだ。…本当は聖域にもどすべきだったのかもしれないな」

シグさんのその言葉に私は暗闇へ突き落とされたような気持ちになった。それは私がいらないってこと…?
胸がぎゅっと引き絞られるように苦しくて私は目を閉じた。

「…でも、なぜかお前を連れてきたかった。世話してやりたいと思ったんだよな。すまない。それも俺のところに勝手に」

『そ、そんなことないです!私はシグさんが居場所をくれて本当に嬉しかったんです!シグさんじゃないと嫌です!』

シグさんがぽつりと続けた言葉に私は勢いよく反応した。シグさんが私を自分の意思で連れてきてくれたのなら本当に嬉しい。
勢いよく言った私にシグさんは一瞬目を見開いてから、今まで見たことないような優しい顔で微笑んだ。

「…そうか。ならここにいろ。ここにいてくれ」

私はその言葉に熱いものが込み上げてくるのを感じた。
自分がここにいてもいいという肯定の言葉。

『ほんとに?ここにいてもいいんですか?』

すがるように問う。こうなって初めて、自分が異世界に来て不安だったことを知った。自分はこの世界にとって異常な存在だと思っていた。その事が意外に自分の中で重石になっていた。

結局どこでも私はそういう存在なんだ、と。

「何言ってんだ。まだお前の謎も解けてないし。それにやっと話せたばっかだろ。ここにいろよ。おまえにいてほしいから」

涙がこぼれた。猫でも泣けるんだ、とどこか客観的に思っている自分がいる。

救われた、と思った。過去の全てから救われたと。

あぁ、この人は…。出会って間もないこの人は、たった一言で私を助けてくれたんだ。
私はしばらく静かに涙を流し続けた。そんな私をシグさんは黙って見守ってくれていた。






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