白い猫と白い騎士

せんりお

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15 宝石の涙 シグside

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『ここにいていいんですか?』

すがるように問うてくるエメラルドグリーンの目に胸をつかれた。
その言葉を肯定してやるとリツカはそのエメラルドグリーンから静かに涙を流した。
こいつの存在は謎ばかりだ。だがこの反応を見る限り過去に何かあったのかもしれないと思う。
猫が泣いているのはなかなか珍しい光景だが、なぜかそれが少女が泣いているように思えて余計に平静を保てなかった。そう思ったのはなぜだろうか。頭に届くこいつの声が若い女のような声だったからだろうか。少なくとも俺の中ではリツカはただ、猫という存在だけではなくなりかけていた。

しばらく見守っていたが、ふと抱き上げて膝にのせた。なんとなくの行為だったがどうやらそれが嬉しかったらしく頭を押し付けるようにすり寄ってきた。それがひどく切なく思えて、俺は小さな体を抱き寄せて頭をゆっくりと撫でてやった。そうすれば次第に泣き止むリツカ。

しばらくお互いそのままでいた。



少したつと落ち着いたのか起き上がってリツカは膝からぴょんと飛び降りた。
大泣きして気まずいのかいつも合わせる目を少しそらしている。

「今日はもう寝るか?」

そう言うと

『そうします!』

と即答したのが少し可笑しかった。



ベッドの上の方でくるっと丸まってリツカはすぐに寝息をたて始めた。泣き疲れたのだろう。
それにしても、と思う。まさかものの数分で念話が出来るようになるとは思わなかった。普通どんなにセンスがあるやつでも念話が出来るようになるにはもう少し時間がかかる。それをリツカはいとも簡単にやってのけた。やはりリツカは幻獣なんだろう。幻獣は魔力の扱いに長ける。
…だが、こいつは知らないことが多すぎる。幻獣が人の国を知らないのはまだわかるが、魔力の仕組み、この世界の構造までも何もかも知らないようすだった。
ふぅー、とため息をつく。わからないことがどうにも多い。
まあ、せっかく会話が出来るようになったのだ。これからいろいろ聞いて、教えてしていけばいいかと思う。
魔法を教えてやってもいいかもしれない。こいつなら高位の魔法も使えるようになるだろう。
気持ち良さそうに眠るリツカを見る。
変化のない日常に突然現れた変化だが、それを嬉しく、これからを期待する自分がいた。

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