白い猫と白い騎士

せんりお

文字の大きさ
26 / 41

26 聖域

しおりを挟む
前をふわふわと飛ぶルルについていくと、大きな木が見えてきた。青々とした葉をつけた枝を広げたその木は、大人が5人で手を繋いでやっと一回り程の幹の太さだ。見上げるとまるで天まで届きそうにそびえ立つそれに私は圧倒された。
見上げすぎてふらふら歩いている私をルルが楽しそうに笑った。

「リツカ、危ないよ」

「うん」

上の空で返事を返す。

「大きいね、この木」

呟いた私にまたルルが笑う。

「当たり前じゃん!核の木なんだから!」

「核、の木?」

核ってどういうことだろう。またわからないことができた。ルルに問い返す。と、

「核の木とは幻獣を、この世界を守るものだ」

どこからか声が聞こえてきた。はっと視線を前に戻すと、そこには真っ白な

「キツネ!?」

思わず叫んだ私にそのキツネは目を細めた。っていうかもともと細いからほとんどわからないんだけど。気がする、程度だ。

「いかにも。わしはキツネだ。して、お前は何者だ?」

「私は…」

自分は何者か。その問いに答えが詰まった。なんと答えていいのかわからない。答えかけてぐっと止まった私にキツネは尻尾をゆるりと振った。

「リツカ!この人がユーリム様だよ!ユーリム様、これはリツカ!」

ルルに突然紹介されて慌てて頭を下げる。
ユーリム様と呼ばれたそのキツネは私を一瞥して

「…まあいい。ルル、案内ご苦労」

「うん!リツカ、またね!」

ルルは、ばいばーいと元気に去っていった。残されたのは私とユーリム様。

「リツカ、ついてこい」

そう言ってユーリム様は核の木と呼ばれた大きな木に向かって歩きだした。前を歩くユーリム様をじっと観察する。私と同じ白色の毛並みは、色こそ白と言えるが、私よりもふわふわと毛足が長く、光を反射して銀色にも見えた。




木の根元に辿り着くと、そこの空気が他よりも澄んでいると感じた。…なんだろう、すごく落ち着く。ここは安心する場所だ。

「…核の木は文字通り、聖域の核だ。この木が清浄な魔力を放つ。それによって聖域は守られている」

「核の木が、守る…」

おもむろに口を開いたユーリム様が説明してくれた。

「わしは核の木の守り人だ。それぞれの聖域1人いる」

木を見上げていたユーリム様が、つと視線を私に向けた。

「と、これくらいは幻獣にとって常識だ。それを知らないお前はいったいどこから来た?」

「私は…」

私はこれまでのことを全てユーリム様に話すことにした。違う世界で生きていたこと、死んだと思ったらこの世界にいて、この姿になっていたこと。私がわかることはとても少ない。でもそれを全て話した。少しでも何かわかればいい。私がこの姿になった理由が。ユーリム様は黙って私の話を聞いてくれている。
木漏れ日がユーリム様の白い毛を照らしてキラキラと光っていた。それがとても幻想的で、この綺麗な場所にぴったりだと思った。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

心配するな、俺の本命は別にいる——冷酷王太子と籠の花嫁

柴田はつみ
恋愛
王国の公爵令嬢セレーネは、家を守るために王太子レオニスとの政略結婚を命じられる。 婚約の儀の日、彼が告げた冷酷な一言——「心配するな。俺の好きな人は別にいる」。 その言葉はセレーネの心を深く傷つけ、王宮での新たな生活は噂と誤解に満ちていく。 好きな人が別にいるはずの彼が、なぜか自分にだけ独占欲を見せる。 嫉妬、疑念、陰謀が渦巻くなかで明らかになる「真実」。 契約から始まった婚約は、やがて運命を変える愛の物語へと変わっていく——。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

処理中です...