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私の話を聞いたユーリム様はしばらく黙って何か考えているようだった。私もそれを黙って待っていた。そしておもむろに口を開く
「そうだな…わしはまだ守り人として日が浅く、全てを知り得るわけではない。だから言えることは少ないが…」
そこでユーリム様は一旦言葉を切った。そしてまた思案気な様子になった。
「…世界には我々が存在しているこの空間だけでなく、多様な空間が存在しているときく。そしてそれは時に細く繋がり、また離れ、を繰り返しているそうだ。お前はその繋がりに迷いこんだのだろう」
「…迷いこんだ」
「そう。もともと幻獣はこの聖域の中でのみ暮らしている。だがお前は外にいた。それはお前がこの世界にとって異質な存在だということの証だろう」
異質、か。その言葉にツキンと胸が痛んだ。
「では…私はここにいるべきですか?外で生きていくべきではないのでしょうか…」
出した声が少し震えてしまった。
「わしはそれについて答えを持たない」
ユーリム様がゆっくりと言葉を選んで言った。
「だが…そうすべきなのではないかと思う。この世界の均衡を崩さないために」
私はゆっくりと目を閉じた。そう言われるのではないかと予想はしていたが、やはり言われてしまうと…
「幻獣は、なぜこの中からでないのですか?この森の中心から離れず…魔獣に囲まれて」
なぜ幻獣は聖域から出ないのか。この世界はとても広いのに。口には出さなかったけれど、ここまでの道のりから私にはまるで聖域は魔獣で出来た檻のように思えていた。
「それについても私は明確な答えを持たない。だが幻獣は皆、そもそもここから出る、というような考えを持たない。そこに疑問は生じない」
それはなぜなのだろう…ここが安全だから?暮らしやすいから?同じ仲間がたくさんいるから?この聖域の外には広い世界がある。シグさんたちのようないい人たちもたくさんいる。どんな理由があろうと、今のわたしにはそれがひどく虚しいことのように思えた。
「…この世界が始まったときから生きていると伝えられる伝説の幻獣がいるかもしれない。そのお方であれば、全てのこたえを知り得るのかもしれぬ」
「それは、その人はどこにいらっしゃるのですか!」
その言葉に私は食いついた。謎は深まるばかりで、それを解決することができるのはもうそこだけだと思った。
「この国に、世界で最も大きい聖域がある。そこにおられるのではないかと思う」
「わかりました。…私はそこへ行ってもいいでしょうか」
ユーリム様は1つため息をついた。
「…行くがよい。そこで真実を知れ、リツカ」
私は大きく頷いてみせた。私がこの世界に来た理由を、この世界の成り立ちを、知りたいんだ。
「すまない、わしは何も教えることができなかった…長い時間を経て、理由があったはずの行動は、理由を知らぬ慣わしに変わった。知識は口伝されるうちにその細部は零れ、やがて意味をなさなくなる…」
ユーリム様は諦観したように、寂しそうにそう言葉を継いだ。
「リツカ、全てを知ったらわしに教えに来てはくれないか」
「もちろんです。真実を持って必ず来ます」
そうユーリム様と約束した。私にとって約束は特別なものだ。この世界で私が生きていく理由になるから。
ユーリム様が呼んだ、ルルにまた案内してもらって私は入ってきた光の膜まで戻った。
「リツカ、行っちゃうの?」
「うん、ごめんね。また来るよ」
「待ってるー!」
ルルの笑顔に癒された。挨拶をして私は膜に向かって足を踏み出した。
真実を知るために。
…後、シグさんが待ってる。多分心配してくれていて、それゆえ死ぬほど怒って…
「そうだな…わしはまだ守り人として日が浅く、全てを知り得るわけではない。だから言えることは少ないが…」
そこでユーリム様は一旦言葉を切った。そしてまた思案気な様子になった。
「…世界には我々が存在しているこの空間だけでなく、多様な空間が存在しているときく。そしてそれは時に細く繋がり、また離れ、を繰り返しているそうだ。お前はその繋がりに迷いこんだのだろう」
「…迷いこんだ」
「そう。もともと幻獣はこの聖域の中でのみ暮らしている。だがお前は外にいた。それはお前がこの世界にとって異質な存在だということの証だろう」
異質、か。その言葉にツキンと胸が痛んだ。
「では…私はここにいるべきですか?外で生きていくべきではないのでしょうか…」
出した声が少し震えてしまった。
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私はゆっくりと目を閉じた。そう言われるのではないかと予想はしていたが、やはり言われてしまうと…
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なぜ幻獣は聖域から出ないのか。この世界はとても広いのに。口には出さなかったけれど、ここまでの道のりから私にはまるで聖域は魔獣で出来た檻のように思えていた。
「それについても私は明確な答えを持たない。だが幻獣は皆、そもそもここから出る、というような考えを持たない。そこに疑問は生じない」
それはなぜなのだろう…ここが安全だから?暮らしやすいから?同じ仲間がたくさんいるから?この聖域の外には広い世界がある。シグさんたちのようないい人たちもたくさんいる。どんな理由があろうと、今のわたしにはそれがひどく虚しいことのように思えた。
「…この世界が始まったときから生きていると伝えられる伝説の幻獣がいるかもしれない。そのお方であれば、全てのこたえを知り得るのかもしれぬ」
「それは、その人はどこにいらっしゃるのですか!」
その言葉に私は食いついた。謎は深まるばかりで、それを解決することができるのはもうそこだけだと思った。
「この国に、世界で最も大きい聖域がある。そこにおられるのではないかと思う」
「わかりました。…私はそこへ行ってもいいでしょうか」
ユーリム様は1つため息をついた。
「…行くがよい。そこで真実を知れ、リツカ」
私は大きく頷いてみせた。私がこの世界に来た理由を、この世界の成り立ちを、知りたいんだ。
「すまない、わしは何も教えることができなかった…長い時間を経て、理由があったはずの行動は、理由を知らぬ慣わしに変わった。知識は口伝されるうちにその細部は零れ、やがて意味をなさなくなる…」
ユーリム様は諦観したように、寂しそうにそう言葉を継いだ。
「リツカ、全てを知ったらわしに教えに来てはくれないか」
「もちろんです。真実を持って必ず来ます」
そうユーリム様と約束した。私にとって約束は特別なものだ。この世界で私が生きていく理由になるから。
ユーリム様が呼んだ、ルルにまた案内してもらって私は入ってきた光の膜まで戻った。
「リツカ、行っちゃうの?」
「うん、ごめんね。また来るよ」
「待ってるー!」
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真実を知るために。
…後、シグさんが待ってる。多分心配してくれていて、それゆえ死ぬほど怒って…
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