白い猫と白い騎士

せんりお

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28 シグside

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真っ白な姿が突然走り出す。その小さな姿は瞬く間に遠くなり、木々に隠れて見えなくなりそうだ。

「おい、リツカ!?リツカ!」

念話を使うことも忘れて、俺はその名前を必死で呼んだ。魔の森の中だというのに大声を出して。レオンも突然森の奥へと駆け出したリツカをみて呆然としている。
咄嗟に追いかけようとしたが、人の足では猫の速さには追い付けず、馬では小回りがきかない。
そうしているうちにすぐに白い姿は見えなくなってしまった。
足を止めて呆然する。

「なんなんだ…?」

リツカの行動がまったく理解できずに俺はそこに立ち尽くすしかなかった。

「リツカ、どうしたの?」

レオンの疑問に俺は答えることが出来ない。 
今まで俺の傍を離れることはなかったあいつが突然どうして…俺が何かしてしまったのか?思考は悪い方向にどんどん回っていく。

「…グ、シグ!」

レオンの声に、はっと意識を引き戻された。

「リツカを追っかけなくていいの?」

その言葉に少し迷う。俺が追いかけてもいいのか…でも

「いや、追いかける。行くぞ」

どんな結果にしろこのまま放っておくのは俺の性に合わない。
俺は馬を駆って、リツカが走っていった方向、森の奥へと足を進めた。






しばらく進むと木々の間からちらちらと光りが漏れてくることに気づいた。

「シグ、あれ…」

レオンも気づいたようだ。
そのまま進むとそこには…光の壁があった。

「壁?いや、膜…?」

「ドームみたいになっているのか?」

円形にぐるりと広範囲を覆っているように見える。ただその全ては大きすぎて見えない。

「ねぇシグ、これって…聖域?」

「あぁ。俺もそう思う。こんな風になってたんだな」

初めて見たその姿に圧倒される。

「これ、結界だろ?こんなに大きいのは初めて見る」

「うん、これは…人の力ではできない代物だね…」

魔の森の中心には聖域がある、ということは誰でも知っていることだ。だがその姿を見たものはいないのではないだろうか。森の魔獣たちに阻まれて、人間では辿り着くことが難しい。俺たちが今回ここに来れたのは奇跡に近い。

「これ、触ってもいいのかな」

レオンがそうっと手を伸ばして指先でつつこうとしている。その指が触れた瞬間、

「うわぁっ!!」

レオンが弾き飛ばされた。

「レオンっ!?大丈夫か!」

近くにあった木に激突したレオンはふらふらと身を起こした。

「いてて、なんとかね、大丈夫…」

大事に至る負傷は無さそうなことに安堵する。それにしても

「これは人避けの結界か?」

「どうだろう。人、だけでなく外からのもの全てってことも有り得るね」

「…幻獣たちの楽園ってことか」

リツカはこの中にいるのだろうか。あいつはこの結界からすると“外からのもの”なのだろうか。それとも、幻獣だから入れるのだろうか。もし入っていたとしたら、俺にこれ以上探す術はない。
いや、それでいいのか…?あいつは元々幻獣だ。ここにいるのが自然だろう。そう考えると、胸が軋んだように痛みを感じた。
考え込む俺にレオンが声をかけた。

「とりあえず、日没までまだ時間はあるし、少しここで待たない?」

その言葉に甘えて俺は少し離れた木にもたれて腰をおろした。










一時間と少したっただろうか。レオンは少し様子を見てくると言って、結界に沿って歩いていった。静かになったその場所で俺は1人周りの気配に意識を集中させていた。
と、目の前の結界が揺らいだ。そこをじーっと見つめていると。その揺らぎの中から、リツカが出てきた。

「っ、リツカ!」

キョロキョロと辺りを見回していた白い姿が俺の声に反応してこちらを見て目を丸くした。

『シグさんっ』

そのままこちらに走ってくるので、手を広げるとそこに飛びついてきた。


「お前、勝手に動くなって言ってあったろ!!俺がどれだけっ」

感情のままに怒ると俺の腕の中で身を縮めた。

『ごめんなさい、どうしても行かないとって思って…心配させたよね?本当にごめんなさい』

「当たり前だ!」

まだ怒りは収まらないが、腕の中の温かさに安堵する自分がいるのに気づく。
こいつがもう帰ってこないかもしれないと思うと胸が痛かった。こいつがいることに安心する。出会って間もないのに俺はこいつがいることを当たり前のように感じていたんだと改めて気づく。同時にそれを失いたくない、と思っていることにも…

「なんでいなくなったか説明はしてくれるんだろうな」

『当たり前!』

だからもう怒らないでと目で訴えてくるリツカの頭をぐりっと強めに撫でて、俺は帰るためにレオンを呼んだ。


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