28 / 41
28 シグside
しおりを挟む
真っ白な姿が突然走り出す。その小さな姿は瞬く間に遠くなり、木々に隠れて見えなくなりそうだ。
「おい、リツカ!?リツカ!」
念話を使うことも忘れて、俺はその名前を必死で呼んだ。魔の森の中だというのに大声を出して。レオンも突然森の奥へと駆け出したリツカをみて呆然としている。
咄嗟に追いかけようとしたが、人の足では猫の速さには追い付けず、馬では小回りがきかない。
そうしているうちにすぐに白い姿は見えなくなってしまった。
足を止めて呆然する。
「なんなんだ…?」
リツカの行動がまったく理解できずに俺はそこに立ち尽くすしかなかった。
「リツカ、どうしたの?」
レオンの疑問に俺は答えることが出来ない。
今まで俺の傍を離れることはなかったあいつが突然どうして…俺が何かしてしまったのか?思考は悪い方向にどんどん回っていく。
「…グ、シグ!」
レオンの声に、はっと意識を引き戻された。
「リツカを追っかけなくていいの?」
その言葉に少し迷う。俺が追いかけてもいいのか…でも
「いや、追いかける。行くぞ」
どんな結果にしろこのまま放っておくのは俺の性に合わない。
俺は馬を駆って、リツカが走っていった方向、森の奥へと足を進めた。
しばらく進むと木々の間からちらちらと光りが漏れてくることに気づいた。
「シグ、あれ…」
レオンも気づいたようだ。
そのまま進むとそこには…光の壁があった。
「壁?いや、膜…?」
「ドームみたいになっているのか?」
円形にぐるりと広範囲を覆っているように見える。ただその全ては大きすぎて見えない。
「ねぇシグ、これって…聖域?」
「あぁ。俺もそう思う。こんな風になってたんだな」
初めて見たその姿に圧倒される。
「これ、結界だろ?こんなに大きいのは初めて見る」
「うん、これは…人の力ではできない代物だね…」
魔の森の中心には聖域がある、ということは誰でも知っていることだ。だがその姿を見たものはいないのではないだろうか。森の魔獣たちに阻まれて、人間では辿り着くことが難しい。俺たちが今回ここに来れたのは奇跡に近い。
「これ、触ってもいいのかな」
レオンがそうっと手を伸ばして指先でつつこうとしている。その指が触れた瞬間、
「うわぁっ!!」
レオンが弾き飛ばされた。
「レオンっ!?大丈夫か!」
近くにあった木に激突したレオンはふらふらと身を起こした。
「いてて、なんとかね、大丈夫…」
大事に至る負傷は無さそうなことに安堵する。それにしても
「これは人避けの結界か?」
「どうだろう。人、だけでなく外からのもの全てってことも有り得るね」
「…幻獣たちの楽園ってことか」
リツカはこの中にいるのだろうか。あいつはこの結界からすると“外からのもの”なのだろうか。それとも、幻獣だから入れるのだろうか。もし入っていたとしたら、俺にこれ以上探す術はない。
いや、それでいいのか…?あいつは元々幻獣だ。ここにいるのが自然だろう。そう考えると、胸が軋んだように痛みを感じた。
考え込む俺にレオンが声をかけた。
「とりあえず、日没までまだ時間はあるし、少しここで待たない?」
その言葉に甘えて俺は少し離れた木にもたれて腰をおろした。
一時間と少したっただろうか。レオンは少し様子を見てくると言って、結界に沿って歩いていった。静かになったその場所で俺は1人周りの気配に意識を集中させていた。
と、目の前の結界が揺らいだ。そこをじーっと見つめていると。その揺らぎの中から、リツカが出てきた。
「っ、リツカ!」
キョロキョロと辺りを見回していた白い姿が俺の声に反応してこちらを見て目を丸くした。
『シグさんっ』
そのままこちらに走ってくるので、手を広げるとそこに飛びついてきた。
「お前、勝手に動くなって言ってあったろ!!俺がどれだけっ」
感情のままに怒ると俺の腕の中で身を縮めた。
『ごめんなさい、どうしても行かないとって思って…心配させたよね?本当にごめんなさい』
「当たり前だ!」
まだ怒りは収まらないが、腕の中の温かさに安堵する自分がいるのに気づく。
こいつがもう帰ってこないかもしれないと思うと胸が痛かった。こいつがいることに安心する。出会って間もないのに俺はこいつがいることを当たり前のように感じていたんだと改めて気づく。同時にそれを失いたくない、と思っていることにも…
「なんでいなくなったか説明はしてくれるんだろうな」
『当たり前!』
だからもう怒らないでと目で訴えてくるリツカの頭をぐりっと強めに撫でて、俺は帰るためにレオンを呼んだ。
「おい、リツカ!?リツカ!」
念話を使うことも忘れて、俺はその名前を必死で呼んだ。魔の森の中だというのに大声を出して。レオンも突然森の奥へと駆け出したリツカをみて呆然としている。
咄嗟に追いかけようとしたが、人の足では猫の速さには追い付けず、馬では小回りがきかない。
そうしているうちにすぐに白い姿は見えなくなってしまった。
足を止めて呆然する。
「なんなんだ…?」
リツカの行動がまったく理解できずに俺はそこに立ち尽くすしかなかった。
「リツカ、どうしたの?」
レオンの疑問に俺は答えることが出来ない。
今まで俺の傍を離れることはなかったあいつが突然どうして…俺が何かしてしまったのか?思考は悪い方向にどんどん回っていく。
「…グ、シグ!」
レオンの声に、はっと意識を引き戻された。
「リツカを追っかけなくていいの?」
その言葉に少し迷う。俺が追いかけてもいいのか…でも
「いや、追いかける。行くぞ」
どんな結果にしろこのまま放っておくのは俺の性に合わない。
俺は馬を駆って、リツカが走っていった方向、森の奥へと足を進めた。
しばらく進むと木々の間からちらちらと光りが漏れてくることに気づいた。
「シグ、あれ…」
レオンも気づいたようだ。
そのまま進むとそこには…光の壁があった。
「壁?いや、膜…?」
「ドームみたいになっているのか?」
円形にぐるりと広範囲を覆っているように見える。ただその全ては大きすぎて見えない。
「ねぇシグ、これって…聖域?」
「あぁ。俺もそう思う。こんな風になってたんだな」
初めて見たその姿に圧倒される。
「これ、結界だろ?こんなに大きいのは初めて見る」
「うん、これは…人の力ではできない代物だね…」
魔の森の中心には聖域がある、ということは誰でも知っていることだ。だがその姿を見たものはいないのではないだろうか。森の魔獣たちに阻まれて、人間では辿り着くことが難しい。俺たちが今回ここに来れたのは奇跡に近い。
「これ、触ってもいいのかな」
レオンがそうっと手を伸ばして指先でつつこうとしている。その指が触れた瞬間、
「うわぁっ!!」
レオンが弾き飛ばされた。
「レオンっ!?大丈夫か!」
近くにあった木に激突したレオンはふらふらと身を起こした。
「いてて、なんとかね、大丈夫…」
大事に至る負傷は無さそうなことに安堵する。それにしても
「これは人避けの結界か?」
「どうだろう。人、だけでなく外からのもの全てってことも有り得るね」
「…幻獣たちの楽園ってことか」
リツカはこの中にいるのだろうか。あいつはこの結界からすると“外からのもの”なのだろうか。それとも、幻獣だから入れるのだろうか。もし入っていたとしたら、俺にこれ以上探す術はない。
いや、それでいいのか…?あいつは元々幻獣だ。ここにいるのが自然だろう。そう考えると、胸が軋んだように痛みを感じた。
考え込む俺にレオンが声をかけた。
「とりあえず、日没までまだ時間はあるし、少しここで待たない?」
その言葉に甘えて俺は少し離れた木にもたれて腰をおろした。
一時間と少したっただろうか。レオンは少し様子を見てくると言って、結界に沿って歩いていった。静かになったその場所で俺は1人周りの気配に意識を集中させていた。
と、目の前の結界が揺らいだ。そこをじーっと見つめていると。その揺らぎの中から、リツカが出てきた。
「っ、リツカ!」
キョロキョロと辺りを見回していた白い姿が俺の声に反応してこちらを見て目を丸くした。
『シグさんっ』
そのままこちらに走ってくるので、手を広げるとそこに飛びついてきた。
「お前、勝手に動くなって言ってあったろ!!俺がどれだけっ」
感情のままに怒ると俺の腕の中で身を縮めた。
『ごめんなさい、どうしても行かないとって思って…心配させたよね?本当にごめんなさい』
「当たり前だ!」
まだ怒りは収まらないが、腕の中の温かさに安堵する自分がいるのに気づく。
こいつがもう帰ってこないかもしれないと思うと胸が痛かった。こいつがいることに安心する。出会って間もないのに俺はこいつがいることを当たり前のように感じていたんだと改めて気づく。同時にそれを失いたくない、と思っていることにも…
「なんでいなくなったか説明はしてくれるんだろうな」
『当たり前!』
だからもう怒らないでと目で訴えてくるリツカの頭をぐりっと強めに撫でて、俺は帰るためにレオンを呼んだ。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
心配するな、俺の本命は別にいる——冷酷王太子と籠の花嫁
柴田はつみ
恋愛
王国の公爵令嬢セレーネは、家を守るために王太子レオニスとの政略結婚を命じられる。
婚約の儀の日、彼が告げた冷酷な一言——「心配するな。俺の好きな人は別にいる」。
その言葉はセレーネの心を深く傷つけ、王宮での新たな生活は噂と誤解に満ちていく。
好きな人が別にいるはずの彼が、なぜか自分にだけ独占欲を見せる。
嫉妬、疑念、陰謀が渦巻くなかで明らかになる「真実」。
契約から始まった婚約は、やがて運命を変える愛の物語へと変わっていく——。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる