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第一部 第一章 異変

第21話 Side 轤弱?鬲皮・槭い繝「繝ウ

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「ふーん、こんなことやってるんだ、繝舌い繝ォ繧シ繝悶Νは」

 深層最深域のとある一角で、手ごろな大きさの岩に腰を掛けて真紅の髪の少女は手に持ったスマホをぶらぶらと揺らしながら、そこに表示されている映像を興味深そうに見ている。
 いや、映像というよりスマホそのものに興味を持っているように見える。

「それにしても、これ面白いね。どんな原理? 暗闇でも光って、触れるだけで簡単に操作できる。こんなに小さくて薄いのに、音もしっかりある。ねえ、これどういう原理で動いているの?」

 岩の近くに目を向けながら訪ねる。そこには、炎の縄で体を縛られて悲鳴を上げ続けている若い女性がいた。
 少女の持つスマホはその女性のもので、衣服や装備品を捕らえた後に物色している時に見つけて、適当にいじいじと触っていたらよく分からないものが開いて、そこに今話題沸騰中の美琴の動画が上がってきたのだ。

「あ、ぐぅ……!」
「ねえ、質問してるんだけど。これ、どういう原理で動いているの」
「ああああああああああああああああ!?」

 質問すれど、返ってくるのは悲鳴と苦悶の声。
 欲しい答えが返ってこず、舌打ちをして炎の縄を操って首を強く締め上げて宙吊りにする。

「死にたくないんでしょ? だったら私の質問に答えなさい。それとも、ここで生きたまま回復かけられ続けながら焼かれたい?」

 感情のこもっていない目を向けながら言うと、女性は顔を青くさせて涙目になりながら頭を振る。

「じゃあ答えて。どういう原理でこの光る板は動いているの。ここに繝舌い繝ォ繧シ繝悶Νはいないのに、どうしてこんな小さな板の中には繝舌い繝ォ繧シ繝悶Νの姿が映っているの」

 炎の縄を首から外し、地面に投げ捨てる。
 あえぐように激しくせき込み、女性はか細く震えた声で話し始める。

「あ、あたし、も、詳しい原理までは知らないの……」
「あっそ。じゃあ死んで」
「ま、待って! 作った人より詳しくないだけで、ちゃんと説明できるから!」

 詳しくは知らないと言った途端、少女は壁に立てかけてある斧槍を持ち上げて、処刑人のように振りかざす。
 それを見た女性は大慌てで、制作者ほど詳しくはなくともある程度は説明できることを叫ぶように言い、少女を止める。

「せ、静電気を利用したタッチパネルで、パネルの中には縦と横にたくさんの行列があって、その表面に静電気があるの……! ゆ、指で触れるとその静電気を指が吸い取って、センサーがどこの静電気を吸い取られたか読み取って、触れた場所を特定して操作が実行されるの……!」
「ふぅん、静電気、ねえ。じゃあ、この小さな板の中に繝舌い繝ォ繧シ繝悶Νがいる理由は?」
「か、カメラで撮影した映像をインターネットに公開しているから……。映像で記録として残されているから、そこにいなくてもその時の状況を見ることができて、繰り返し見ることができるの……!」

 説明を受けながらいじいじとスマホをいじり、操作に慣れていく少女。
 変わらず左手には巨大な斧槍が握られており、女性はそれがいつ振り下ろされるのかと体をがたがたと震わせる。

「じゃあこれは繝舌い繝ォ繧シ繝悶Νをこの中に閉じ込めているんじゃなくて、過去の出来事を記録として保管しているってわけね。随分と面白いものね、気に入ったわ。これ、もらっていくわね」
「は、はい……!」
「それで、この下の方についている小さい穴は何?」
「じゅ、充電器を差し込む場所で、スマホは充電しないと動かなくなっちゃうんです……」
「充電器……あなた持ってる?」
「あ、あります! こ、これが充電器です! 魔力があればどこでも充電できる優れものです!」

 女性は必死に殺されるのを先延ばしするように、何なら気に入られて殺されるのを回避するように、少女の要求に全て応えていく。
 スマホアプリについて問われれば使い方を説明し、ダンジョンの外では何が人間に好まれているのか。
 服装は何が一番自然か。言語は何か。とにかく聞かれたことを全て、できる限り答えていく。
 ついでに少女の服装だと目立つと考え、女性に命令して全ての衣服を脱がせて自分のものにする。一部が少しサイズが大きいのは気に食わないが、そこは目を瞑ることにする。

「ニホンゴ……ニホンゴか。あなたの言語もニホンゴ?」
「そ、そうです。あ、あたしも、日本人なので……」
「へえ。じゃあ一個上の階の一番広い部屋にいた時にやってきた人が使ってたのも、ニホンゴなんだ。そのニホンジンなら誰でも使えるわけね。繝舌い繝ォ繧シ繝悶Νも、今はニホンジンなわけだ。……あぁ、ダメだ。どうしても彼女の名前は元の言語で言っちゃうな。慣れておかないと」

 少女の容姿は外国人のもので一目で日本人ではないことは明らかだが、かなり自然に日本語を使う。
 少女が下層最深域のボス部屋にいた時、まだイノケンティウスを作り出す前に若い数名の男女がやってきた。
 若い男は一人でボス部屋に立っている少女に気さくな感じで声をかけてきたが、少し失敗したなと思っている。
 今はこうして炎の縄で縛っている女性から色々と教えてもらっているが、あの時の男女を殺さずに生かしておけば、数時間前に入ってきた美琴ともう少し話せたかもしれない。

「色々と教えてくれてありがとう。おかげで少しは知りたいことを知れたわ」

 助かった。
 女性はそう感じて、希望に満ちた表情を浮かべる。

「じゃ、じゃあ───」
「もう用済みだから、死んでいいよ」

 向けられたその言葉に、女性はその表情を張り付けたまま絶望の底に叩き落とされる。
 すっと掲げられた左手から炎が出て、それが女性を包み込む。

「ああああああああああああああああああああああああああ!?!? 熱い、熱いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?!? どうしてえええええええええええええええええええええええ!?!?」

全身を焼かれながら地面をのたうち回り、絶叫する。

「どうしてって、言ったでしょ。もう用済みなの。いらないものは、ごみ箱に捨てないとね」
「嫌だああああああああああああああああ!?!? 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない───」

 手にしたスマホと充電器を懐にしまい、少し上機嫌に軽い足取りでその場から立ち去る少女。
 その背後から死にたくないという絶叫が繰り返されたが、しばらくしてお母さんと一際大きな悲鳴が響いてからぱたりと止まった。

「はー、うるさかった。これだから弱いやつは嫌い。やっぱり私を満たしてくれるのは永遠のライバルの繝吶Μ繧「繝ォと、そして繝舌い繝ォ繧シ繝悶Ν、あなただけ」

 スマホの画面に映し出されている、イノケンティウスを消し飛ばし、ついでにあの部屋の大部分を破壊した動画を観て、ぞくぞくと体を震わせる。
 頬を赤らめて表情は恍惚としていて、幼さのある顔なのに色気が溢れている。

「あぁ、繝舌い繝ォ繧シ繝悶Ν。早くあなたと逢瀬を繰り広げたい。鉄と鉄のぶつかる音、飛び散る熱い血潮。命の削り愛を全身全霊で愉しみたい……!」

 女性の絶叫と焼ける臭いに釣られてきたのか、少女の背後から大量のモンスターが雄叫びを上げてやってくる。
 だが少女は一切振り向くことなく、さっと左手を埃を払うように小さく振るだけで、全てのモンスターを炎で包んで一切合切を灰塵と為す。

 モンスターの雄叫びが瞬く間に断末魔へと変わり、体を崩壊させて消滅し、炎が焼く音も消える。
 残されたのは炎で焼かれて溶岩と化した地面と、こつこつと少女が音を鳴らして歩く音だけだった。
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