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第一部 第三章 一難去ってまた一難?

37話 浮き上がる黒い腐敗

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「元々、私が入っていたパーティーには別の人がいたんです。ルナ・エトルソスっていう女の子なんですけど、その子かなり特殊な魔術を使ってて、陰でパーティーメンバー全員に強力なバフをかけたり回復をかけていたんです」
『ルナ・エトルソス様で検索をかけました。配信者として先月活動を開始しています。登録者はお嬢様のようにバズり散らかしていませんが、十三万人となっています。収益化も審査が通っており、収益も安定しているようですね。初回配信で、お嬢様の影響を受けて始めたと発言しております』
「私を参考にしちゃダメじゃない?」
『紛いなりにも現人神ですからね。到底真似できることではありませんが、ルナ様もまた人外染みた力を持っているようです。今は中層で止めているそうですが、実力的に下層に潜っても問題ないでしょう』

 随分とすごい逸材がいるものだなと思い、話を遮ってしまったので続きを話してほしいと目くばせする。

「でも何を思ったのか、そのパーティーが一等探索者パーティーに昇格したその日に、ルナさんを追い出したんです。パーティーは配信活動もしていて、それなりに登録者と視聴者もいるんですけど、最近伸び悩んでいる原因を一方的にその人に押し付けたんです」
『……事実のようです。一年ほど前から活動を行っていますが、ここ半年は伸び悩んでいるようです』

 アイリに目線で調べてほしいと伝えると、すぐに調べて結果を教えてくれる。
 配信活動に限らず、アワーチューブで活動していくなら伸び悩む時期だって出てくる。
 美琴はかなり特殊なケースで、熱が冷める前に燃料を投下するかの如く再燃している状態であるため、一気にバズった後に伸び悩むという現象はまだ起きていない。

 そもそも配信活動自体がかなりのレッドオーシャンなのだし、似たり寄ったりな活動をしているだけでは、だったら他の人気チャンネルに行った方がいいという話になって、結果自分のチャンネルの視聴者に繋がらない。
 そのパーティーのチャンネル名はまだ知らないのでどんな活動をしているかは分からないが、伸び悩んでいるということはどこかと被っているということだろう。

「ルナさんを追い出した後、すぐに新しいメンバーを募集して、私がそこに入ったんです。探索者ライセンスを取得したばかりの新人、特に未成年はパーティーに入ることを推奨されますから」
「あー……。そういえばそうだったわね……」

 探索者活動の最初期にメンバーを募集したのも、複数人でいたほうが効率的にもいいからと、ギルドの受付の人にパーティーを組んだ方が安全だからと説明されたからだ。
 結局一回目でやばい男性たちを引き当ててしまい、一人のほうが安全だと思ってソロ活動をしたら一人のほうが思い切りやれて効率がいいという結論に至り、ここまで来たわけだが。

「最初はすごく嫌がっていたんですけど、苗字を知った途端に態度を変えてきて。お姉ちゃんから炎魔術の手ほどきを受けているので、炎の魔術は得意なんです。でも、あの人達は炎の魔術ではなく炎の魔法に期待していたみたいで」
「血縁者だったら、どうにかして魔法を使えるようにとかはならないの?」

 やはり知られていないのか、彩音が首を傾げながら不思議そうに聞く。

「え、知らないんですか? 魔法使いになれるのは一人だけで、それを他人に分け与えることは不可能なんですよ」

 すると驚いたような表情をして灯里ができないと否定する。

「そうなの!?」
「そうですよ。この話って意外と知られていないんですね」

 美琴はなんだかんだで両親側からの繋がりで色んな人とコネクションができているため、地味にそういった情報を知っていたりする。

”へー、魔法使いってそういう感じなんだ”
”まあでも納得”
”同じ魔法を他人も使えたら恐ろしくてしゃーないわwww”
”つかこの子の話だとさ、さっき逃げてった奴らは魔法が使えると思ってパーティーに入れたってことでしょ? バカなの?”
”魔法使いは原則ダンジョンには潜れない。つまりライセンスの取得はできないってことだからね”
”ライセンス取得したばかりの新人の時点で、魔法はどうあがいても使えないって気付けやまじで”
”それで結果的に、灯里ちゃんをダンジョン下層に置いてったの!? 登録したての新人を!?”
”こりゃトラウマもんですわ”
”それ以前にルナって女の子を追い出した理由がクズ過ぎて救えない”

「それで魔法が使えないって知ったらまた手のひらを返して。この一か月ずっと、無能とか雑魚って言われ続けてて……。私だって、頑張って魔術、でモンスター倒したり……サポートしているのに……」

 話しているうちにまた辛くなってきたのか、じわりと涙を浮かばせてぎゅっと強く拳を握る。

「そもそも、ルナさんを追い出したのがいけないんです……! あの人がいたから無茶な戦い方ができていただけなのに、それを自分の実力だと勘違いして……! 調子に乗って財産の八割を使って最上呪具を購入しても、使い手が未熟すぎてその性能を発揮しきれていないし! それでルナさんが抜けてから上手く戦えないのは、自分の無能っぷりを棚に上げて全部私のせいにして怒鳴り散らして! 下層なんてまだ早いから私には無理だって言っても『魔法使いの妹だから』って無理やり連れて行くし、妖鎧武者だって強化種でも何でもないただの通常種なのに、勝てないからって変な妄想走らせて、囮役は新人の役割だって言って突き放して……! もう……誰も信じられなくなりそうです……」

 鬱憤を晴らす様に大きな声で不満をぶちまけながらぼろぼろと涙をこぼし、最後にまた美琴に甘えるように抱き着いてきた。
 その話を聞いた美琴は、今までにないくらい腸が煮えくり返っていた。

『……お嬢様。お顔が人には見せられないくらい怒りに満ちておりますよ』
「これで怒らない人なんていると思うわけ?」
『私はAIなので人の感情についてはやや理解しがたい部分はありますが……今まで集めた情報から演算するに、これは世間でいう悪行に当たります。許されざる行為であることくらいは分かります』

 アイリに人の感情を理解しろとは言わないが、今回ばかりは少しでもいいから美琴の怒りを理解してほしい。

「これは……本当に酷いね」
「黒十字がそもそもクランマスターが頭のイカれたクソ野郎ってことは有名だけど、クランメンバーすらこれかよ」
「クラマスの息子の数々の犯罪すれすれの悪行も全部金でもみ消しているって話だし、入ったばかりの新人を奴隷のようにこき使ってるって噂もあるけど、あれって氷山の一角だったんだな。おれ、あのクランに入らなくて正解だったわ」

”聞けば聞くほど吐き気がする”
”十四歳の女の子になんてことやってんじゃあいつら”
”なんでこの子は一か月もあのクソクランのクソパーティーに加入し続けていたんだよ”
”女の子を囮にする時点で殴り殺しに行きたいのに、そんな灯里ちゃんが十四歳だとしってクランそのものを滅ぼしたい”
”いつもにこにこしてて優しい美琴ちゃんでさえ、マジギレするくらいだしな”
”もう一人で突撃して全員ぶちのめしてきそうな雰囲気がある”

 コメント欄も灯里の口から説明された数々の悪事に機嫌が悪くなっているのか、口々にブラッククロスと灯里のいたパーティーに対しての悪口を書き始める。
 同接数はいつの間にか激増して百万人とかいう意味の分からない数字になっている。
 百万人が一斉にコメントを次々と送っているものだからコメント欄はカク付いており、コメントを一つ拾おうにも一瞬で埋もれていくため拾えない。

「辛いことを思い出させちゃったわね。ごめんなさい。ひとまず、地上に戻りましょう。いつまでもここにいるのは危険だし」
「うん……」

 抱き着いたまま小さく頷く灯里。

「ごめんなさい、彩音先輩。せっかく先輩からコラボのお誘いをいただいたのに……」

 二度目のコラボ配信で、二度目の大事件に巻き込まれて二度目のコラボ配信中止となってしまった。
 今回はアモンの時のような大勢を巻き込みかねない超大規模な戦いではないが、噂で耳にする以上の凄惨な真っ黒な闇を経験者本人の口から聞いてしまい、放っておけなくなってしまった。

「いいのいいの。こんな話を聞いて呑気にコラボ配信とかしている場合じゃないしね。すぐに地上に戻って、ギルドに報告しましょう。慎司くんと和弘くんもそれでいい?」
「いいに決まってんだろ。話を聞いた以上、俺も彩音と同じ気持ちだ」
「活動場所同じだしな。コラボなんていつでもできる」

”俺達も気にしないぜ”
”あ、でも配信はそのままにしたほうがいいんじゃない? いい証拠になる”
”こうした証拠を突き付けたところで、あの真っ黒腐敗クランはしらばっくれると思うけど……”
”相手は祓魔十家序列二位の雷電家当主の美琴ちゃんだぞ? 一介のクランがシラを切れる相手じゃないでしょ”
”しかもそこに美琴ちゃんのご両親も付いてくるしな”
”発言力鬼強三銃士が揃ってる”
”そしてそこにトライアドちゃんねるも追加”
”ツウィータートレンドに『ゴミクランブラッククロス』が入っとる”
”美琴ちゃんの配信で一部クランメンバーのブラックさが浮き彫りになって、そこから黒十字が超特大大炎上してて超気持ちいい”
”見てきたら匿名で内部告発大祭開催してて大草原”

「本当にすみません。……灯里ちゃん、もう立てそう?」
「うん……」

 優しく頭を撫でながら立てるかを聞き、小さい声で頷きながらゆっくりと立ち上がる。
 ぐしぐしと少し乱雑に涙を拭くのを見て、ハンカチを取り出してそれを渡す。
 ハンカチを受け取った灯里はそれで涙を拭くが、その間左手はずっと美琴の着物の裾を掴んでいた。

「それじゃあ戻りましょう。安心して、私達がいるから」

 裾を掴んでいる左手をそっと離させてから雷薙をしまって手を繋ぎ、周囲に稲魂を複数を生成して待機させる。
 雷撃でモンスターを倒してもいいが、あれはしっかりと落雷の轟音が鳴り響くので灯里を怯えさせてしまうと思い使わないようにする。

 二度目のトライアドちゃんねるとのコラボ配信は、前回のような魔神乱入ではないが今回の件が日本三大ブラッククランの筆頭であるブラッククロスが関わっているため、二度目の中断となってしまった。
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