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第一部 第五章 知者の王と雷神

69話 大型の未知のモンスター

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 三時間後、結束力が高まった第一班は美琴一人に任せるようなことはせず、連携を取って深層モンスターと渡り合った。

「モンスター、そっちに向かいました!」
「了解! 術師隊! 足止めよろしく!」
「まっかせなさい!」

 近接超特化の退魔師二人と美琴の雷速での殲滅速度。
 そこに班長の優れた状況把握能力に術師たちの支援が加われば、もはや敵なしだ。
 ただでさえ、揃って人外に足を突っ込んでいる女子高生が三人いて殲滅力が高いのに、高度な連携まで加わればその速度は段違いだ。

 下層以上に危険であるがゆえに、群れで行動していることが基本なようで、一体見つけたら大体三十体が芋づる式に見つかる。
 下層以上の怪物がこれだけいて危険だと言うのに、ここまでで第一班は最初の大百足戦以外で怪我人が一人もいない。

「ふむ、中々に優秀な班じゃな」
「班長の把握能力が高くて、とても助かるなあ」
「指示も的確ですし、あんな場所にいるのがもったいないくらいですよ」

 戦っていた最後の一体のモンスターを美桜が首を刎ねて倒し、崩壊していく体を尻目に納刀しながら、班員の優秀さを褒める。
 一人一人は突出した強さを持っているわけではないが、突出していないからこそ連携力に秀でている。

 個人が強いと一人で何でもできてしまうが、逆に平凡そのものであれば一人で無茶ができない。
 一人でできることにも限度が出てくるため、その限度を伸ばすためには他人との連携が必要だ。
 彼らはそれをとにかく鍛えたのだろう。そのおかげで、全員が怪我をしない立ち回りを取ることができていた。
 参加組も、最初はブラッククロスだからとまだ信用しきれていないような様子だったが、美琴達が率先して班長の指示に従い、その結果が的確であることを示したことで、信じてもいいと思ってくれたようだ。

「結構君達三人には、大分無茶な指示を出している気がするんだけど」
「妾は一等退魔師で、華奈樹は特等。あの程度の無茶は、地上ではよくあることじゃ。それ以上に、美琴は大体の指示はこなせるじゃろうな。その気になれば、この層にいる全てのモンスターを一人で殲滅できるのではないか?」
「やらないわよ。面倒だし」
「できないじゃなくて、やらないっていう辺り、美琴も……すごいですね」
「華奈樹、それフォローできていない」

 お互いに禁句や、できればあまり言ってほしくない言葉をよく分かっているので、それを言うまいとしてくれたようだが、却って酷い言われようになった気がする。

”ずっと腐れ十字の成員だからって信用してなかったけど、普通にいいやつやん班長”
”何ならあのアホマスターよりも優秀じゃね?”
”指示の内容が、JK三人組を除いて無茶はさせないけど全力を出せるような立ち回りができるものだったし、モンスター見っけて突撃させるようなアホとは根本からちげーわ”
”こんな優秀な指揮官を自分の手元に置いてないアホのところは、今どうなってんだろうなwww”
”今頃モンスターに追いかけまわされて、ヒィヒィ言いながら逃げ回って地獄を見てんじゃね?”
”あの中に残業を一年続けてる限界社畜OLみたいになってる金髪ボインなマラブがいると思うと、マジで同情するんだけど”
”発言と見た目からあれのせいで超苦労しているのが分かるのに、あれのせいでもっと酷い目に遭ってると思うと、救いの手を差し伸べたい”
”薄給な上に未払いもあるって言ってたし、お金出して美味しいものを好きなだけ食べさせたい”
”めっちゃいいベッド買って、プレゼントして寝かせたい”

 班長の優秀さが美琴の配信を通して、数が増えて百八十三万人にまで膨れ上がった視聴者に届けられ、その優秀さでどうしてあんなクランに甘んじているのかというコメントや、班長がいない他の班の現状を案ずる視聴者が出てくる。
 中には、自ら戦闘力なしと公言するマラブがどうなっているのか気になっている人もいるが、あまり触れてはいけなさそうな感じなコメントが多いので、目で読むだけで口には出さないようにする。

「ところで、琴峰さんの雷って、別にその薙刀の最上呪具で使っているわけじゃないんだよね?」
「え? どうしてそう思ったんですか?」
「なんかクラン内部の噂でさ、琴峰さんの雷は雷の名前が入っているその最上呪具の効力だって言うのが流れててさ。ぶっちゃけ、俺もそうなのかなって思ったんだけど、見た感じ薙刀じゃなくて君の体から雷が出ているから、どうなんだろうって」
「えぇ……。そんな噂が流れているんですか……?」

 一応、理解しようと思えば理解できなくもない。
 最上呪具となれば、それこそ天逆鉾あまのさかほこのような日本創成を成した神器や、天皇家に伝わる三種の神器のような、とてつもない力を発揮するものが出てくる。
 特定の条件を満たせば天候を支配とまではいかないが、味方に付けることができる呪具も探せばないこともないので、きっと雷薙もそうなのだと思ったのだろう。

 しかし、仮にそうだとしても絶対に不可能だとその噂を真っ向から否定できる材料を、美琴は持っている。
 最上に限らず全ての呪具は、例外を除いて所有者が触れていない限り、その効果が発揮されない。つまり、持ち主から離れた状態では、込められた効果を発揮できない。

 美琴は過去何回か、雷薙をしまった状態で雷を使っている。それこそ直近だと、ほぼ一週間弓矢だけで灯里と一緒にダンジョンに潜っていた。
 そして最も知られているものは、やはり未だに語られているアモン戦だろう。
 あの時は最初から陰打ちを抜刀していて、雷薙はしまった状態だ。その状態で雷を扱っていたため、雷薙の効果による雷操作ではないと証明できる。

「やっぱ薙刀じゃなくて、琴峰さん自身の能力なんだ。そりゃまあ、魔神との戦いを見ればそうだけど」
「そもそも、天候を支配する呪具なんて存在しないんだし、ちょっと考えれば分かることなのにね」
「その噂の出どころ、うちのマスターなんじゃないかって言われてるっぽい」

”仮にそんなレベルの呪具を持っているとしても、天候のないダンジョンの中に持ち込まんでしょ”
”雷を発生させる呪具なら確かにあるけど、発動させるのにえらい時間かかるって話”
”自然の雷と同じで、静電気を蓄積していって電荷分離させてマイナスとプラスを分けないといけないんだっけ”
”最上呪具だから、めっちゃ癖強いやつだったはず”
”確かその呪具って、使えるようになるまで時間はかかるけど威力えぐいから、国が管理保管してなかったっけ”
”美琴ちゃんの雷薙は、名前に雷入っているから勘違いされたんじゃね?”
”でもその呪具って、美琴ちゃんの雷と美琴ちゃん自身を強化する呪具じゃなかったっけ”
”「雷を薙ぐ」呪具なのか、「雷のように敵を薙ぐ」呪具なのか。どっちとも取れるのいいな”
”美琴ちゃんの考える時の仕草カワイッ”
”美少女の考える姿、最高ですっ”
”スクショスクショスクショスクショスクショおおおおおおおおおおおおおおお!!!!”

 雷薙なしで雷を使っているところなんてここのところ見せているのに、一体どう考えたら雷薙の能力なのだと思ったのだろうと、不思議に思って顎に指を当てて考える。
 悪い意味で知恵が働くし、なんだかんだでこうしてブラッククロスを大きくさせているので、頭が絶望的に悪いなんてことはないはずだ。

「うみゃ!?」
『お嬢様。そんなくだらないことを考えるよりも、少しでも深層のことを解明したほうが有益です。時は金なり、ですよ』
「もうちょっと別の方法とかなかったわけ……?」

 頭の上に移動してきたアイリが、そのまま一瞬だけ浮く力だけを解除したのか、脳天に落下してぶつかった。
 完全に意識の外からだったのでものすごく変な声が出てしまい、浮遊カメラがぶつかった頭をさすりながら、恥ずかしさで顔を赤くする。
 もっとマシな方法で考え事を止めさせることができただろうに、絶対に分かっててやっているなこのAIと思っていると、重い足音と何かを破壊するような音が聞こえてきた。

 これはまたモンスター側からの熱いアプローチだなと雷薙を構えると、美琴の正面三十メートルほど先にある建物が破壊され、そこから異常なまでに歪なモンスターが姿を見せる。

「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 ビリビリと大気が震えるような特大の咆哮は、そのモンスターの周辺数メートルの地面と建物を粉砕する。
 全身が赤黒い鱗で覆われており、翼と一緒になっている前腕には鋼鉄すら豆腐のように切り裂きそうなほど鋭利な爪があり、後脚と長い尻尾の先にも同じような爪がある。
 全体を捉えてみると、大百足級の大きさをしたドラゴンのような見た目をしているように見えなくはないが、とても発達した後脚以外あちこちの筋肉か何かが肥大している。
 何より一番特徴的なのは、翼と一緒になっている前腕だ。

 後脚も発達してかなり太く大きいのだが、それの倍以上前腕が大きい。
 モンスターである以上、発生条件は怪異と同じ恐怖し信じることだ。つまりは、こういう怪物がいるかもしれないと地上で信じる人がいると言うことだ。
 時として人間のそういう信じる力というのは、こうした厄介な怪物を発生させるのだなと、周りを咆哮で吹っ飛ばしながらすさまじい速度で突進してくるモンスターを見て思った。

 あの咆哮も、この突進も危険極まりないので、まずはそれをどうにかしないといけないなと一つ巴紋を二つ出し、二鳴を開放する。
 大百足は蓄積優先で強化をかけなかったが、今回は変質した本質をそのままに開放した。
 つまりは、常時七鳴神状態から更に大幅な強化をかけている状態だ。

 体から雷が溢れて周りに被害が出ないように抑えつつ、それを体と雷薙にまとわせてから地面を蹴って駆け、少し班から離れてから雷鳴と共に踏み込んで突きを繰り出し、モンスターを押し返す。

「戦闘準備! 未知のドラゴン型モンスターですので、飛行されないことと、ブレス攻撃に注意してください! 咆哮自体にも破壊力があるので、下手に近付かないように!」
「りょ、了解!」

 ここまで大きなドラゴン型のモンスターと遭遇するとは思わず、班長が若干呆けた顔をしていたが、美琴が指示を出すことで我を取り戻して、全員に指示を出し始める。
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