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第一部 五・五章 番外編 雷神がいない魔術師の話
番外編 82話 雷神のいない魔術師の話 1
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美琴がブラッククロスと共に深層攻略作戦に挑む日の午前中。
朝起きた時にはすでに、美琴はダンジョンに潜ってすさまじい速度で下層まで進んでおり、下層のボスを軒並みワンパンしていったのを見た時は、あまりのすさまじさに思わず胸がときめいてしまった。
そこから深層に突入し、大百足との戦いを大丈夫かとドキドキしながら観ていたが、被害者を出すことなく切り抜けることに成功してほっと安堵した。
午前中から濃密な配信をしてくれているなと思いながら、学校の宿題をやってしまおうと机に嚙り付き、一段落終えたところでクラスメイトの友達から遊びに行こうと声がかかった。
両親は仕事で家におらず、自炊はできるが面倒だと感じたので、遊びに行くついでに外食で済ませてしまおうとその誘いを受ける。
一応、美琴からは戻ってくるまでの間は護衛が付くと教えられているが、あまりあからさまな護衛は付けないと言っていたので、もしかしたら遠くから見守ってくれているのかもしれない。
そんなことを考えながら部屋着からお洒落着に着替えて、バッグと財布を持って家を出る。
「ねえねえ、灯里ちゃん。灯里ちゃんは美琴様のことをどう思っているの?」
「へっ!? きゅ、急に何?」
待ち合わせ場所にしていた時計屋の前でクラスメイトの女の子、藍沢凛と合流し、早速遊びに行こうと歩きだした瞬間に、そんなことを聞かれて驚く。
どう思っていると言われても、それはもちろん憧れと尊敬、そして助けてくれたことに対する恩と好意だ。
「どうって言われても、美琴さんのことは好きとしか言えないけど……」
「それってライクの意味で? それともラブ?」
「ら、ライクに決まってるでしょ!?」
そういえば、凛は女の子同士のカップリングが何よりも好きだと、猛烈な熱量で語るオタクであることを失念していた。
美琴の配信でも、彼女の方から頭を撫でたり可愛がってくれたりすると、凛と似たようなリアクションをして、最初はよく理解できていなかったが、理解するためにネットで調べてみたら思わず悶え死にそうだった。
「えー、つまんないー。そこは嘘でもラブって言ってよー」
「どうして凛ちゃんって、こう、変わった趣味をしているんだろう……」
「変わっているとは失礼な。あたしは愛が三度のご飯より好きなの。男女のカップルも大好物だけど、それ以上に可愛い女の子同士の恋愛が大好きなの。灯里ちゃんはみんなが認める美少女で、美琴様は誰もが振り返る超美人な年上のお姉さん。この世にはおねロリっていうジャンルがあって、灯里ちゃんと美琴様はそれに当てはまるくらいいい雰囲気があるのよ」
「こっちは真剣にダンジョンに潜って鍛錬付けてもらっているのに、そんな目で観ないでよぉ……」
「そ・れ・は・無・理」
今のやり取りで、もう何度目になるのか分からないが、この友達は美琴の配信の視聴者とものすごく気が合うのだろうなと感じた。
普段は明るくて友達が多くて、みんなのムードメーカー的な存在なのに、彼女の趣味が絡むと速攻で誰も止められないくらいに暴走するのは勘弁してほしい。
確かに、今の世の中愛に年齢や性別は関係ないと言うが、灯里は女の子同士ではなく男女の異性間の恋愛が普通だと考えているため、あまり凛の趣味に共感はできないでいる。
「というかさ、そんなこと言ってるけど、灯里ちゃんって結構美琴様のことを熱っぽい目で見てるけど?」
「嘘!?」
「マジ。え、自覚なし?」
全くない。
もしかして、コメント欄があのように盛り上がっていたりしていたのは、灯里自身が凛の言う熱っぽい目を美琴に向けていたからなのだろうか。
そう思うと少し不安になってきたので、家に帰ったらすぐにこの二週間のアーカイブを可能な範囲で見返すことにしてみる。
「そんなことより、どこ遊びに行く? 勢いで遊びに行きたいって思って勢いに任せて家出てきたから、何も決めてないんだよね」
「ちょっとくらいは考えてから出てこようよ、凛ちゃん。そうだねえ……。新しいお洋服とかほしいから、デパートとか行く?」
「行く」
即答だった。
うだうだ言わず、すぐに物事を決めたり、包み隠さずにすぱっと物事を言う彼女の性格は非常に好ましいし、一緒にいて疲れないし性格の相性もいいので親友認定しているが、本当に彼女の趣味が玉に瑕だ。
一体何がきっかけでそのような趣味に目覚めたのか知りたいと思いつつも、聞いたらそのままそちら側の底なし沼に引きずり込まれそうなので、それは怖いので聞かないでおく。
灯里と凛は手を繋いでデパートまで歩く。
そこまでの道の途中で、すれ違う人から名前を呼ばれたり驚いたような顔をされたりしたが、それはもうだいぶ慣れてきた。
美琴とデュオパーティーを組んでから、灯里という存在がどれだけ大きくなったのか、自分が一番よく理解できている。
探索者の世界は完全に実力主義の世界。強ければ強いだけ生き残れるし、その分だけ権力を持つことができる。
灯里の魔術師としての実力は、一般の魔術師と比較しても抜きんでているのは自覚している。
それはひとえに、雅火という眩しすぎる憧れである姉に少しでも追い付き、褒めてもらいたかったから努力した結果だ。
その結果、美琴とトライアドちゃんねるの三人とのコラボ配信を経て、灯里という魔術師の価値が爆発的に高まり、大分面倒なことになってしまった。
美琴と共に配信活動をして、電子面でのサポートをするアイリの複製体であるアイリⅢが、灯里のスマホとパソコンの中に入り込んでいて、持っているツウィーターのアカウントに大量に舞い込んでくる勧誘のメッセージを全て捌いてくれている。
どんなものがあるのか聞いてみたが、どれも名前も知らないような小さな事務所やクラン、企業からの勧誘ばかりで、強力な魔術師を獲得するついでに、人類最強格と雷神との強固なパイプが欲しいと企んでいるのが見え見えだった。
最近では学校でも、美琴を紹介してほしいとお願いしてくる男子も出てきて、正直うんざりしている。
そもそも、美琴に近付きたいのははっと息を吞むほどの美人で、モデルのように背が高くスタイルが抜群だからなのはバレバレだ。
休み時間とかに、男子が教室の一角に集まってそのような下世話な話をしているのを耳にするし、その中でよく美琴の名前が挙がっているのも聞く。
健全な男子中学生が、あのように胸の谷間がばっちり見えるような恰好をしている美琴が気になるのは、理解できないわけではない。
ただ、知り合いだからと紹介してほしいとお願いしてくるのは別だろうと、心の中で怒りの言葉を投げつけておく。
「今頃、美琴様達は深層でやばいモンスターと戦っているのかな」
「そうだね。凛ちゃんから電話がかかってくる前まで、配信を観ながら宿題やってたんだけど、結構とんでもないモンスターとばかり戦ってた。最初に大百足と戦ってたし」
「うへぇ……。大百足って、十年前の深層攻略作戦の時に、一体で壊滅寸前まで追い込んだ化け物じゃん。それが深層一発目のモンスターって、鬼畜難易度すぎない?」
「でも美琴さんと、あと他二人の退魔師の三人だけで倒してたよ」
「美琴様は分かるけど、その退魔師二人は何者」
「えっと、華奈樹さんと美桜さんって言ってた」
「唯一の特等退魔師と、始原の退魔師の末裔まで参加してるの? 豪華にもほどがあるって」
刀崎家の長女の刀崎華奈樹と、十六夜家現当主の十六夜美桜の名前くらいは、流石に知っている。
剣術だけに限定すれば、無双の武人でもある朱鳥霊華に自分以上だと言わしめるほどの実力を持つ華奈樹は、退魔師として唯一特等まで上り詰めた才女だ。
美桜は華奈樹ほど目立ってはいないが、かなり若くして一等退魔師まで上り詰めており、こちらもまた才能に溢れている剣士だ。
この三人の戦いを見て、次元が違うと感じた。
純粋な剣技一つで、深層の怪物を相手にして有利に立ち回っていた。
どれだけの研鑽を積んだのか、年齢が二つしか違わないのに種類は違えど、あの三人は一つの頂点に到達しているようにすら感じた。
「探索者には憧れるけど、ぶっちゃけあんな怖い場所にはいきたくないわね。そう思うと、灯里ちゃんはよく行くよねあんな場所」
「美琴さんに憧れて勢いでいったから」
「やっぱり勢いって大事なんだね。じゃあその勢いついでに言うけど、曲がる場所間違えてるわよ」
「そういうのはもっと早く言ってくれない?」
言われて、確かに曲がる場所を間違えたようで、デパートに行く時に見えるケーキの専門店が見えない。
慌てて凛の手を引っ張って大通りに戻り、少し戻ってから本来の道を曲がって、目的地のデパートを目指して少し速足で歩いて行った。
朝起きた時にはすでに、美琴はダンジョンに潜ってすさまじい速度で下層まで進んでおり、下層のボスを軒並みワンパンしていったのを見た時は、あまりのすさまじさに思わず胸がときめいてしまった。
そこから深層に突入し、大百足との戦いを大丈夫かとドキドキしながら観ていたが、被害者を出すことなく切り抜けることに成功してほっと安堵した。
午前中から濃密な配信をしてくれているなと思いながら、学校の宿題をやってしまおうと机に嚙り付き、一段落終えたところでクラスメイトの友達から遊びに行こうと声がかかった。
両親は仕事で家におらず、自炊はできるが面倒だと感じたので、遊びに行くついでに外食で済ませてしまおうとその誘いを受ける。
一応、美琴からは戻ってくるまでの間は護衛が付くと教えられているが、あまりあからさまな護衛は付けないと言っていたので、もしかしたら遠くから見守ってくれているのかもしれない。
そんなことを考えながら部屋着からお洒落着に着替えて、バッグと財布を持って家を出る。
「ねえねえ、灯里ちゃん。灯里ちゃんは美琴様のことをどう思っているの?」
「へっ!? きゅ、急に何?」
待ち合わせ場所にしていた時計屋の前でクラスメイトの女の子、藍沢凛と合流し、早速遊びに行こうと歩きだした瞬間に、そんなことを聞かれて驚く。
どう思っていると言われても、それはもちろん憧れと尊敬、そして助けてくれたことに対する恩と好意だ。
「どうって言われても、美琴さんのことは好きとしか言えないけど……」
「それってライクの意味で? それともラブ?」
「ら、ライクに決まってるでしょ!?」
そういえば、凛は女の子同士のカップリングが何よりも好きだと、猛烈な熱量で語るオタクであることを失念していた。
美琴の配信でも、彼女の方から頭を撫でたり可愛がってくれたりすると、凛と似たようなリアクションをして、最初はよく理解できていなかったが、理解するためにネットで調べてみたら思わず悶え死にそうだった。
「えー、つまんないー。そこは嘘でもラブって言ってよー」
「どうして凛ちゃんって、こう、変わった趣味をしているんだろう……」
「変わっているとは失礼な。あたしは愛が三度のご飯より好きなの。男女のカップルも大好物だけど、それ以上に可愛い女の子同士の恋愛が大好きなの。灯里ちゃんはみんなが認める美少女で、美琴様は誰もが振り返る超美人な年上のお姉さん。この世にはおねロリっていうジャンルがあって、灯里ちゃんと美琴様はそれに当てはまるくらいいい雰囲気があるのよ」
「こっちは真剣にダンジョンに潜って鍛錬付けてもらっているのに、そんな目で観ないでよぉ……」
「そ・れ・は・無・理」
今のやり取りで、もう何度目になるのか分からないが、この友達は美琴の配信の視聴者とものすごく気が合うのだろうなと感じた。
普段は明るくて友達が多くて、みんなのムードメーカー的な存在なのに、彼女の趣味が絡むと速攻で誰も止められないくらいに暴走するのは勘弁してほしい。
確かに、今の世の中愛に年齢や性別は関係ないと言うが、灯里は女の子同士ではなく男女の異性間の恋愛が普通だと考えているため、あまり凛の趣味に共感はできないでいる。
「というかさ、そんなこと言ってるけど、灯里ちゃんって結構美琴様のことを熱っぽい目で見てるけど?」
「嘘!?」
「マジ。え、自覚なし?」
全くない。
もしかして、コメント欄があのように盛り上がっていたりしていたのは、灯里自身が凛の言う熱っぽい目を美琴に向けていたからなのだろうか。
そう思うと少し不安になってきたので、家に帰ったらすぐにこの二週間のアーカイブを可能な範囲で見返すことにしてみる。
「そんなことより、どこ遊びに行く? 勢いで遊びに行きたいって思って勢いに任せて家出てきたから、何も決めてないんだよね」
「ちょっとくらいは考えてから出てこようよ、凛ちゃん。そうだねえ……。新しいお洋服とかほしいから、デパートとか行く?」
「行く」
即答だった。
うだうだ言わず、すぐに物事を決めたり、包み隠さずにすぱっと物事を言う彼女の性格は非常に好ましいし、一緒にいて疲れないし性格の相性もいいので親友認定しているが、本当に彼女の趣味が玉に瑕だ。
一体何がきっかけでそのような趣味に目覚めたのか知りたいと思いつつも、聞いたらそのままそちら側の底なし沼に引きずり込まれそうなので、それは怖いので聞かないでおく。
灯里と凛は手を繋いでデパートまで歩く。
そこまでの道の途中で、すれ違う人から名前を呼ばれたり驚いたような顔をされたりしたが、それはもうだいぶ慣れてきた。
美琴とデュオパーティーを組んでから、灯里という存在がどれだけ大きくなったのか、自分が一番よく理解できている。
探索者の世界は完全に実力主義の世界。強ければ強いだけ生き残れるし、その分だけ権力を持つことができる。
灯里の魔術師としての実力は、一般の魔術師と比較しても抜きんでているのは自覚している。
それはひとえに、雅火という眩しすぎる憧れである姉に少しでも追い付き、褒めてもらいたかったから努力した結果だ。
その結果、美琴とトライアドちゃんねるの三人とのコラボ配信を経て、灯里という魔術師の価値が爆発的に高まり、大分面倒なことになってしまった。
美琴と共に配信活動をして、電子面でのサポートをするアイリの複製体であるアイリⅢが、灯里のスマホとパソコンの中に入り込んでいて、持っているツウィーターのアカウントに大量に舞い込んでくる勧誘のメッセージを全て捌いてくれている。
どんなものがあるのか聞いてみたが、どれも名前も知らないような小さな事務所やクラン、企業からの勧誘ばかりで、強力な魔術師を獲得するついでに、人類最強格と雷神との強固なパイプが欲しいと企んでいるのが見え見えだった。
最近では学校でも、美琴を紹介してほしいとお願いしてくる男子も出てきて、正直うんざりしている。
そもそも、美琴に近付きたいのははっと息を吞むほどの美人で、モデルのように背が高くスタイルが抜群だからなのはバレバレだ。
休み時間とかに、男子が教室の一角に集まってそのような下世話な話をしているのを耳にするし、その中でよく美琴の名前が挙がっているのも聞く。
健全な男子中学生が、あのように胸の谷間がばっちり見えるような恰好をしている美琴が気になるのは、理解できないわけではない。
ただ、知り合いだからと紹介してほしいとお願いしてくるのは別だろうと、心の中で怒りの言葉を投げつけておく。
「今頃、美琴様達は深層でやばいモンスターと戦っているのかな」
「そうだね。凛ちゃんから電話がかかってくる前まで、配信を観ながら宿題やってたんだけど、結構とんでもないモンスターとばかり戦ってた。最初に大百足と戦ってたし」
「うへぇ……。大百足って、十年前の深層攻略作戦の時に、一体で壊滅寸前まで追い込んだ化け物じゃん。それが深層一発目のモンスターって、鬼畜難易度すぎない?」
「でも美琴さんと、あと他二人の退魔師の三人だけで倒してたよ」
「美琴様は分かるけど、その退魔師二人は何者」
「えっと、華奈樹さんと美桜さんって言ってた」
「唯一の特等退魔師と、始原の退魔師の末裔まで参加してるの? 豪華にもほどがあるって」
刀崎家の長女の刀崎華奈樹と、十六夜家現当主の十六夜美桜の名前くらいは、流石に知っている。
剣術だけに限定すれば、無双の武人でもある朱鳥霊華に自分以上だと言わしめるほどの実力を持つ華奈樹は、退魔師として唯一特等まで上り詰めた才女だ。
美桜は華奈樹ほど目立ってはいないが、かなり若くして一等退魔師まで上り詰めており、こちらもまた才能に溢れている剣士だ。
この三人の戦いを見て、次元が違うと感じた。
純粋な剣技一つで、深層の怪物を相手にして有利に立ち回っていた。
どれだけの研鑽を積んだのか、年齢が二つしか違わないのに種類は違えど、あの三人は一つの頂点に到達しているようにすら感じた。
「探索者には憧れるけど、ぶっちゃけあんな怖い場所にはいきたくないわね。そう思うと、灯里ちゃんはよく行くよねあんな場所」
「美琴さんに憧れて勢いでいったから」
「やっぱり勢いって大事なんだね。じゃあその勢いついでに言うけど、曲がる場所間違えてるわよ」
「そういうのはもっと早く言ってくれない?」
言われて、確かに曲がる場所を間違えたようで、デパートに行く時に見えるケーキの専門店が見えない。
慌てて凛の手を引っ張って大通りに戻り、少し戻ってから本来の道を曲がって、目的地のデパートを目指して少し速足で歩いて行った。
応援ありがとうございます!
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