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第一部 六章 月の魔術師。そして太陽の、
88話 テストの後の息抜きゲリラ配信
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「……ねえ、美琴さあ」
「んー?」
「配信やら案件やらで忙しくしてたのに、どうしてそんなに勉強できるのさ」
二学期の期末考査を終えてから数日。貼り出された順位表を見上げながら、昌がとても渋い顔をしながら言う。
昌の成績は決して悪いわけではなく、むしろ二十位台とかなり好成績だ。
ただ、美琴は配信者としてかなり忙しく活動するようになり、以前より勉強に割ける時間が減っている。
それでもできる時はきっちりと勉強をしているため、雷電美琴の名前は一位の座に君臨している。
「どうしてって言われても……。忙しくなっているのは事実だけど、忙しいならその合間に勉強すればいいだけだし。最近はダンジョンには行かないで机に嚙り付いていたし、さぼらないように勉強配信とかもしてたから」
「これが根っからの優等生の実力か」
「そういう昌だって成績いいじゃないの。晶子さんも喜ぶんじゃない?」
「母さんは確かにそれで喜んでくれるだろうけど、それとこれとは話が別。どんな勉強法してるのか気になって配信覗いたけど、普通に勉強してただけでなんの収穫もなかったし」
「授業をしっかり聞いて、ワークとか過去問とかやっていれば点数取れるわよ」
そもそも美琴は、自分で教科書を読みこんだりしているので、授業内容を先取りしている。
それもあって、授業は美琴にとっては先取りした範囲を復習する時間であり、先取りしているから混乱することなくついて行けている。
昌もそのことは知っているので、真似して授業内容の先取りを試みたそうだが、まだ習っていない部分の理解が難しいようで諦めている。
「あれだけ忙しそうにしてるのに一位を取るだなんて、流石は雷電さんだな」
「本当、運動も勉強もできて学校でも世間でも人気者で、何でもこなせて羨ましいなー」
「俺らとは出来が違うんだな。そこは流石にお嬢様だからかな」
順位も見たことだし、教室に戻ろうかと踵を返すと、そんな会話が聞こえてくる。
努力している姿はそうそう人に見せたりしていないので、そのように思われても仕方がないとは思っている。
しかし、それをまだ本人が近くにいる時に話すだろうかと、むっとしてしまう。
「ちょっと、そこの男子。美琴は確かに私達とは出来は違うけど、陰で努力しまくってんのよ。その努力を『出来がいいから』の七文字で否定しないで」
何か言ったところでどうにもならないだろうと、少しため息を吐いて戻ろうとすると昌が食って掛かったので、驚いて振り返る。
「え、わ、わりぃ……」
「謝るなら私じゃなくて美琴に、」
「昌、いいからっ。そこまで気にしてないから、もう勘弁してっ」
ものすごい注目の視線が向けられて、恥ずかしさで頬に朱を咲かせながら昌を引っ張る。
それでもまだ何か言いたそうにしていたが、これ以上何か変なことを発言して余計に注目されたらたまったものじゃないので、ぐいぐいと引っ張りながら教室に早足に戻る。
「もう! 気に食わないのは分かるけど、あんなに人がいる中で言わなくたっていいじゃない!」
「悪いことをしたとは思うけど、それでも言わずにはいられなかったのよ。あんたがどれだけ努力しているのか知っているから、なおさら」
「その気持ちはありがたいけど、本当に勘弁してってば。ただでさえ色んな事があってすっごい注目されてるんだから、これ以上は目立ちたくないの」
「誰よりも目立つ体と顔をして何を言う」
「どこ見て言っているのよ!?」
じーっと視線が胸に集中するのを感じ、顔を赤くして両腕を胸の前で交差させる。
「……普段何食べたらそんなに育つわけ。それは遺伝だけによるものとか答えたら、くすぐりまくりの刑に処すけど」
「何その刑!? すっごく嫌なんですけど!?」
「いいから答えなさい。これは持たざる者からの命令よ」
じりじりとにじり寄ってくるので、ちょっとずつ後ろに下がりながら逃げるが、すぐに壁際まで追い詰められて逃げ場を失う。
昌の胸だって、小さいわけではない。むしろ、教室の中にいる女子と比べると比較的大きい方に入る。
それでもやはり、昌的にはもう少し育ってほしいらしい。
大きいと確かに、緩急メリハリがつくので女性らしさが際立つし、ウェストが細く見えたりと、メリットはある。
だがそれ以上に、必要以上に異性から視線を向けられるし、何より足元が見えづらくなるし肩が凝るというデメリットがある。
と言うと、確実に何かされそうなのでデメリットの部分は口が裂けても言えない。
「と、豆乳とかはよく飲んでたかな。あとは普通に栄養バランスの取れた食事と、質のいい睡眠、とか」
「豆乳に栄養バランス、睡眠ね。いいマットレスとかも教えてもらえると助かるんだけど」
「こればっかりは自分で確かめないと。肌触りとか弾力とか、そういうのは個人の好みだし」
「それもそうだね。土日の間に買いに行ってみることにするわ」
とりあえず乗り切れた。
ほっと安堵のため息を吐き、机に戻る。
今日は期末考査で一位を取ったのだから、自分に対するご褒美としてケーキくらいは食べてもいいだろう。
いつもお菓子すらも手作りしてしまうので、たまにはお店のものも食べてみようと、家の近くにあるパティスリーを検索しようとスマホを取り出してすいすいと操作する。
♢
帰宅後。
今日は特に配信をする予定はなかったのだが、課題もそこまで難しいものでもなく夕飯を作る時間には終わらせてしまい、暇な時間ができたのでゲリラライブをすることにした。
また琴音が変に張り切ってイラストレーターやクリエイターに頼み、配信用のサムネイルをいくつか作ってくれて、いきなりメールファイルに送られてきたファイルの中から、雑談用と書かれているものを選んで設定する。
夕飯はとっくに食べてしまったが、まだデザートは食べていないので、軽く雑談しながら学校帰りに勝ってきたケーキをゆっくり食べることにする。
「眷属の皆さん、こんばんわ! 琴峰美琴の雑談ゲリラ配信の時間だよー!」
”ゲリラとか珍しっ”
”今日もぎゃわいいいいいいいいい!!!”
”¥31500:どうしていつもそんなに可愛いんですか!”
”勉強配信じゃない配信てなんだか久々”
”部屋着美琴ちゃん超可愛い!”
”なんかもこもこしてるの着てて最高”
”大きな苺の乗ったショートケーキも映っとる”
”美少女×猫×苺ショートケーキ=神”
”もうこの瞬間に、数多くの絵描き達がスクショして絵を描き始めてるんだろうな。TLが潤って助かるぜ”
一緒に部屋までついてきたあーじを膝に乗せて配信を始めると、一分前に告知をしたにも関わらず一瞬で五万人が集まった。
普段が事前に告知をするのと、次の配信の予約をしていることもあって、雑談配信でも目を疑うような人が観に来るのがデフォルトとなっているが、一万人以上が集まるだけでも十分多いのだ。
「聞いてよみんな。今日期末考査の順位が貼り出されたんだけど、見事に一位を取りました! というわけで、頑張った自分にご褒美ということで、食後のデザートに苺ケーキを買ってきました」
”よく頑張った!”
”勉強できて偉い!”
”しれっと一位取ってきたって言ってて、やっぱり頭いいんだなって”
”勉強面ではぽんこつじゃなかったのか……”
”ケーキを買う理由が微笑ましい”
”¥50000:頑張ったご褒美に、お財布があったかくなるプレゼントだよ”
”¥50000:一位獲得記念スパチャ”
”¥35100:今日も可愛いお姿を拝見することができたことを感謝します”
”おい誰だよwww 今お賽銭スパチャ投げたやつwww”
「あの、あまりそんな投げられると本当に反応に困るんですけど……」
収益化が解放されてからというもの、美琴が雷神バレしていることもあってか配信を神社と呼び、スパチャをお賽銭と言って投げてくる視聴者が増えた。
そりゃもちろん、自分の配信を観に来てくれてコメントを残してくれるだけでなく、スパチャまで投げてくれるのは非常に嬉しい。
嬉しいのだが、赤スパチャという一万円以上のお金が風に巻き上げられた砂くらい飛んでくるので、本当に反応に困る。
「でも今回の試験、結構難しい問題がたくさんあったから、普段通りに解けたけどちょっと不安だったんだよね」
『昌様から伺いましたが、珍しく悩んでいる瞬間があったそうですね』
「数学の問題ね。あれ高校生に解かせるようなものじゃないのがいくつか混じってたんですけど」
『お嬢様の成績がいいから、意地悪をしたくなったのでしょうね』
「先生がそれやっちゃダメでしょ……」
すいーっと、アイリが搭載されている浮遊カメラが顔の横までやってくる。
テスト期間中は、アイリによるカンニングができないようにと、ピアスを外して登校していた。
おかげで一人で登校している時は、話し相手がいなくてつまらなくはあったが、いい具合に気持ちが引き締まった。
ちなみに、美琴が勉強が忙しくて配信の頻度が落ちている間、アイリが自分でチャンネルを開設した上に、イラストスタジオというイラストを描くことに特化しているソフトをインストールして、自分でイラストを描き上げていた。
そのイラストを更に動けるように色々作業をしてアバターを作り上げ、アイリ自身でバーチャルアワーチューバーとしてデビューしていた。
もうすでに登録者数は九十万人を超えており、収益化ラインも突破しているが、AIであることをアイリが公言していることもあって収益化はしないそうだ。
世界初のAIのアワーチューバーということもあって、ツウィーターでは連日トレンド入りを果たした上、ネットニュースに留まらず現実のテレビ番組にも取り上げられる事態になった。
アイリのアバターは黒髪ショートヘアのメイドらしい。
これはアイリがツウィーターで意見を募集して、それを意見を基にしたとのこと。
『そんな中でも一位を取ったのですから、誇るべきですよ。努力した甲斐がありましたね』
「頑張った分だけ結果が付いてくると、いつもやっていることではあるけど嬉しいものね。あとは何点取ったのか、返却時までの楽しみだ。……あ、甘さ控えめで美味しい」
フォークで一口取って食べると、ふわふわなスポンジとホイップクリームの美琴好みの控えめな甘さが口に広がる。
そこに苺の甘酸っぱさも加わり、これは当たりだと頬を緩ませる。
”それどこのお店の?”
”美琴ちゃんが食べてるってだけで美味そう”
”気になるー”
”教えてくれ”
「うーん、美味しいものはできるだけ共有したいんだけど、身バレしているとはいえどあまり私の家の特定に繋がるようなことはしたくないのよね。だから教えられないかな」
『これだけの情報ですら特定する危険人物もおりますので、これ以上は話すのをよしましょう』
「そんな人いるの?」
『世の中には、車のボンネットの上にある葉っぱの写真を投稿するだけで、その投稿主の住所を割り出す変態もおりますから。気を付けるに越したことはありません」
「そんな人いるんだ……」
ネットに蔓延る特定厨は変態ばかりだと、龍博からも琴音からも教えられているが、まさかアイリからも同じようなことを聞くとは思わなかった。
「ところで、今観に来てくれている眷属のみんなの中に、同じ学生だよって人いる?」
”はい!”
”高一です”
”中学一年の十三歳です”
”来年社会人の大学生っす”
”美琴ちゃんと同い年!”
”一個下です”
”ここにいます!”
同じ学生が今どれくらいいるのかふと知りたくなったので、試しに問いかけてみるとかなりの数、学生だと明かすコメントが流れる。
「おー、結構いるんだ。みんなも試験とかあった? まだこれからとかまだ期間中とかなら、配信を観ていないで勉強しなさい」
期末考査は一夜漬けとかでどうにかなるものではない。
毎日きちんと、コツコツ勉強を続けることが、いい点数を取る近道なのだ。
美琴のように、とっくに終わっているならともかく、まだ終わっていないなら配信を閉じて勉強しろと、カメラに向かって人差し指をぴっと指しながら言う。
”はい! ごめんなさい!”
”勉強してきまーす”
”配信をラジオみたいに流して、美琴ちゃんの清楚ボイスを聞きながら勉強してきます”
”テストでいい点数取ったら、よく頑張ったねボイスを出してください!”
”美琴ちゃんに褒めてもらえるとかだったら、死ぬ気で頑張れる”
”応援してくれたらテスト期間中ずっとオールして勉強できる気がする”
”頑張るからご褒美欲しい!”
「えー……。なんかいきなりすごいやる気に満ち溢れて来たんだけど」
『お嬢様に褒められたい一心でしょうね。お嬢様はすでに、眷属の皆さんに褒められていますから、逃げ道はありませんよ』
「逃げるとは一言も言っていないのに、何か勝手に逃げ道封鎖されたんですけど」
そろそろ何か、グッズとかボイスの販売とかもやったほうがいいと思っていたころではあるので、いい機会だし近々何かしようとは考えていた。
なので逃げるつもりは微塵もないのだが、歌動画から結構逃げていた前科があるためか、逃げるつもりのない逃げ道を封鎖された。
”I&M公式:グッズとかボイス販売をするのね!? 台本とかは任せて頂戴!”
”なんか今すげー名前が見えた気が……”
”I&M公式おるやんけwww”
”美琴ちゃんママもよう観とる”
”夫婦そろって娘の配信観てんの草”
「お母さん!?」
まだ忙しくしている時間だろうに、どうしてこんなところにいるのだろうかと突っ込みたくなる。
それはともかく、琴音がグッズ等の販売に関わるとなると、絶対にろくなことがない予感がする。
確実に着せ替え人形にさせられた上、撮らなくてもいい表情とかを写真に収めて写真集を作って、それを販売とかしそうで怖い。
絶対に琴音が関わるのだけは阻止してみせると意気込むが、三十分後には美琴が机に突っ伏すことになった。
「んー?」
「配信やら案件やらで忙しくしてたのに、どうしてそんなに勉強できるのさ」
二学期の期末考査を終えてから数日。貼り出された順位表を見上げながら、昌がとても渋い顔をしながら言う。
昌の成績は決して悪いわけではなく、むしろ二十位台とかなり好成績だ。
ただ、美琴は配信者としてかなり忙しく活動するようになり、以前より勉強に割ける時間が減っている。
それでもできる時はきっちりと勉強をしているため、雷電美琴の名前は一位の座に君臨している。
「どうしてって言われても……。忙しくなっているのは事実だけど、忙しいならその合間に勉強すればいいだけだし。最近はダンジョンには行かないで机に嚙り付いていたし、さぼらないように勉強配信とかもしてたから」
「これが根っからの優等生の実力か」
「そういう昌だって成績いいじゃないの。晶子さんも喜ぶんじゃない?」
「母さんは確かにそれで喜んでくれるだろうけど、それとこれとは話が別。どんな勉強法してるのか気になって配信覗いたけど、普通に勉強してただけでなんの収穫もなかったし」
「授業をしっかり聞いて、ワークとか過去問とかやっていれば点数取れるわよ」
そもそも美琴は、自分で教科書を読みこんだりしているので、授業内容を先取りしている。
それもあって、授業は美琴にとっては先取りした範囲を復習する時間であり、先取りしているから混乱することなくついて行けている。
昌もそのことは知っているので、真似して授業内容の先取りを試みたそうだが、まだ習っていない部分の理解が難しいようで諦めている。
「あれだけ忙しそうにしてるのに一位を取るだなんて、流石は雷電さんだな」
「本当、運動も勉強もできて学校でも世間でも人気者で、何でもこなせて羨ましいなー」
「俺らとは出来が違うんだな。そこは流石にお嬢様だからかな」
順位も見たことだし、教室に戻ろうかと踵を返すと、そんな会話が聞こえてくる。
努力している姿はそうそう人に見せたりしていないので、そのように思われても仕方がないとは思っている。
しかし、それをまだ本人が近くにいる時に話すだろうかと、むっとしてしまう。
「ちょっと、そこの男子。美琴は確かに私達とは出来は違うけど、陰で努力しまくってんのよ。その努力を『出来がいいから』の七文字で否定しないで」
何か言ったところでどうにもならないだろうと、少しため息を吐いて戻ろうとすると昌が食って掛かったので、驚いて振り返る。
「え、わ、わりぃ……」
「謝るなら私じゃなくて美琴に、」
「昌、いいからっ。そこまで気にしてないから、もう勘弁してっ」
ものすごい注目の視線が向けられて、恥ずかしさで頬に朱を咲かせながら昌を引っ張る。
それでもまだ何か言いたそうにしていたが、これ以上何か変なことを発言して余計に注目されたらたまったものじゃないので、ぐいぐいと引っ張りながら教室に早足に戻る。
「もう! 気に食わないのは分かるけど、あんなに人がいる中で言わなくたっていいじゃない!」
「悪いことをしたとは思うけど、それでも言わずにはいられなかったのよ。あんたがどれだけ努力しているのか知っているから、なおさら」
「その気持ちはありがたいけど、本当に勘弁してってば。ただでさえ色んな事があってすっごい注目されてるんだから、これ以上は目立ちたくないの」
「誰よりも目立つ体と顔をして何を言う」
「どこ見て言っているのよ!?」
じーっと視線が胸に集中するのを感じ、顔を赤くして両腕を胸の前で交差させる。
「……普段何食べたらそんなに育つわけ。それは遺伝だけによるものとか答えたら、くすぐりまくりの刑に処すけど」
「何その刑!? すっごく嫌なんですけど!?」
「いいから答えなさい。これは持たざる者からの命令よ」
じりじりとにじり寄ってくるので、ちょっとずつ後ろに下がりながら逃げるが、すぐに壁際まで追い詰められて逃げ場を失う。
昌の胸だって、小さいわけではない。むしろ、教室の中にいる女子と比べると比較的大きい方に入る。
それでもやはり、昌的にはもう少し育ってほしいらしい。
大きいと確かに、緩急メリハリがつくので女性らしさが際立つし、ウェストが細く見えたりと、メリットはある。
だがそれ以上に、必要以上に異性から視線を向けられるし、何より足元が見えづらくなるし肩が凝るというデメリットがある。
と言うと、確実に何かされそうなのでデメリットの部分は口が裂けても言えない。
「と、豆乳とかはよく飲んでたかな。あとは普通に栄養バランスの取れた食事と、質のいい睡眠、とか」
「豆乳に栄養バランス、睡眠ね。いいマットレスとかも教えてもらえると助かるんだけど」
「こればっかりは自分で確かめないと。肌触りとか弾力とか、そういうのは個人の好みだし」
「それもそうだね。土日の間に買いに行ってみることにするわ」
とりあえず乗り切れた。
ほっと安堵のため息を吐き、机に戻る。
今日は期末考査で一位を取ったのだから、自分に対するご褒美としてケーキくらいは食べてもいいだろう。
いつもお菓子すらも手作りしてしまうので、たまにはお店のものも食べてみようと、家の近くにあるパティスリーを検索しようとスマホを取り出してすいすいと操作する。
♢
帰宅後。
今日は特に配信をする予定はなかったのだが、課題もそこまで難しいものでもなく夕飯を作る時間には終わらせてしまい、暇な時間ができたのでゲリラライブをすることにした。
また琴音が変に張り切ってイラストレーターやクリエイターに頼み、配信用のサムネイルをいくつか作ってくれて、いきなりメールファイルに送られてきたファイルの中から、雑談用と書かれているものを選んで設定する。
夕飯はとっくに食べてしまったが、まだデザートは食べていないので、軽く雑談しながら学校帰りに勝ってきたケーキをゆっくり食べることにする。
「眷属の皆さん、こんばんわ! 琴峰美琴の雑談ゲリラ配信の時間だよー!」
”ゲリラとか珍しっ”
”今日もぎゃわいいいいいいいいい!!!”
”¥31500:どうしていつもそんなに可愛いんですか!”
”勉強配信じゃない配信てなんだか久々”
”部屋着美琴ちゃん超可愛い!”
”なんかもこもこしてるの着てて最高”
”大きな苺の乗ったショートケーキも映っとる”
”美少女×猫×苺ショートケーキ=神”
”もうこの瞬間に、数多くの絵描き達がスクショして絵を描き始めてるんだろうな。TLが潤って助かるぜ”
一緒に部屋までついてきたあーじを膝に乗せて配信を始めると、一分前に告知をしたにも関わらず一瞬で五万人が集まった。
普段が事前に告知をするのと、次の配信の予約をしていることもあって、雑談配信でも目を疑うような人が観に来るのがデフォルトとなっているが、一万人以上が集まるだけでも十分多いのだ。
「聞いてよみんな。今日期末考査の順位が貼り出されたんだけど、見事に一位を取りました! というわけで、頑張った自分にご褒美ということで、食後のデザートに苺ケーキを買ってきました」
”よく頑張った!”
”勉強できて偉い!”
”しれっと一位取ってきたって言ってて、やっぱり頭いいんだなって”
”勉強面ではぽんこつじゃなかったのか……”
”ケーキを買う理由が微笑ましい”
”¥50000:頑張ったご褒美に、お財布があったかくなるプレゼントだよ”
”¥50000:一位獲得記念スパチャ”
”¥35100:今日も可愛いお姿を拝見することができたことを感謝します”
”おい誰だよwww 今お賽銭スパチャ投げたやつwww”
「あの、あまりそんな投げられると本当に反応に困るんですけど……」
収益化が解放されてからというもの、美琴が雷神バレしていることもあってか配信を神社と呼び、スパチャをお賽銭と言って投げてくる視聴者が増えた。
そりゃもちろん、自分の配信を観に来てくれてコメントを残してくれるだけでなく、スパチャまで投げてくれるのは非常に嬉しい。
嬉しいのだが、赤スパチャという一万円以上のお金が風に巻き上げられた砂くらい飛んでくるので、本当に反応に困る。
「でも今回の試験、結構難しい問題がたくさんあったから、普段通りに解けたけどちょっと不安だったんだよね」
『昌様から伺いましたが、珍しく悩んでいる瞬間があったそうですね』
「数学の問題ね。あれ高校生に解かせるようなものじゃないのがいくつか混じってたんですけど」
『お嬢様の成績がいいから、意地悪をしたくなったのでしょうね』
「先生がそれやっちゃダメでしょ……」
すいーっと、アイリが搭載されている浮遊カメラが顔の横までやってくる。
テスト期間中は、アイリによるカンニングができないようにと、ピアスを外して登校していた。
おかげで一人で登校している時は、話し相手がいなくてつまらなくはあったが、いい具合に気持ちが引き締まった。
ちなみに、美琴が勉強が忙しくて配信の頻度が落ちている間、アイリが自分でチャンネルを開設した上に、イラストスタジオというイラストを描くことに特化しているソフトをインストールして、自分でイラストを描き上げていた。
そのイラストを更に動けるように色々作業をしてアバターを作り上げ、アイリ自身でバーチャルアワーチューバーとしてデビューしていた。
もうすでに登録者数は九十万人を超えており、収益化ラインも突破しているが、AIであることをアイリが公言していることもあって収益化はしないそうだ。
世界初のAIのアワーチューバーということもあって、ツウィーターでは連日トレンド入りを果たした上、ネットニュースに留まらず現実のテレビ番組にも取り上げられる事態になった。
アイリのアバターは黒髪ショートヘアのメイドらしい。
これはアイリがツウィーターで意見を募集して、それを意見を基にしたとのこと。
『そんな中でも一位を取ったのですから、誇るべきですよ。努力した甲斐がありましたね』
「頑張った分だけ結果が付いてくると、いつもやっていることではあるけど嬉しいものね。あとは何点取ったのか、返却時までの楽しみだ。……あ、甘さ控えめで美味しい」
フォークで一口取って食べると、ふわふわなスポンジとホイップクリームの美琴好みの控えめな甘さが口に広がる。
そこに苺の甘酸っぱさも加わり、これは当たりだと頬を緩ませる。
”それどこのお店の?”
”美琴ちゃんが食べてるってだけで美味そう”
”気になるー”
”教えてくれ”
「うーん、美味しいものはできるだけ共有したいんだけど、身バレしているとはいえどあまり私の家の特定に繋がるようなことはしたくないのよね。だから教えられないかな」
『これだけの情報ですら特定する危険人物もおりますので、これ以上は話すのをよしましょう』
「そんな人いるの?」
『世の中には、車のボンネットの上にある葉っぱの写真を投稿するだけで、その投稿主の住所を割り出す変態もおりますから。気を付けるに越したことはありません」
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「ところで、今観に来てくれている眷属のみんなの中に、同じ学生だよって人いる?」
”はい!”
”高一です”
”中学一年の十三歳です”
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”美琴ちゃんと同い年!”
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”ここにいます!”
同じ学生が今どれくらいいるのかふと知りたくなったので、試しに問いかけてみるとかなりの数、学生だと明かすコメントが流れる。
「おー、結構いるんだ。みんなも試験とかあった? まだこれからとかまだ期間中とかなら、配信を観ていないで勉強しなさい」
期末考査は一夜漬けとかでどうにかなるものではない。
毎日きちんと、コツコツ勉強を続けることが、いい点数を取る近道なのだ。
美琴のように、とっくに終わっているならともかく、まだ終わっていないなら配信を閉じて勉強しろと、カメラに向かって人差し指をぴっと指しながら言う。
”はい! ごめんなさい!”
”勉強してきまーす”
”配信をラジオみたいに流して、美琴ちゃんの清楚ボイスを聞きながら勉強してきます”
”テストでいい点数取ったら、よく頑張ったねボイスを出してください!”
”美琴ちゃんに褒めてもらえるとかだったら、死ぬ気で頑張れる”
”応援してくれたらテスト期間中ずっとオールして勉強できる気がする”
”頑張るからご褒美欲しい!”
「えー……。なんかいきなりすごいやる気に満ち溢れて来たんだけど」
『お嬢様に褒められたい一心でしょうね。お嬢様はすでに、眷属の皆さんに褒められていますから、逃げ道はありませんよ』
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なので逃げるつもりは微塵もないのだが、歌動画から結構逃げていた前科があるためか、逃げるつもりのない逃げ道を封鎖された。
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”なんか今すげー名前が見えた気が……”
”I&M公式おるやんけwww”
”美琴ちゃんママもよう観とる”
”夫婦そろって娘の配信観てんの草”
「お母さん!?」
まだ忙しくしている時間だろうに、どうしてこんなところにいるのだろうかと突っ込みたくなる。
それはともかく、琴音がグッズ等の販売に関わるとなると、絶対にろくなことがない予感がする。
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「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
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18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
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その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
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