妄想女医・藍原香織の診察室

Piggy

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恋愛編

4話【daily work】看護師 佐々木 楓 24歳:備品室(楓編)

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 備品室からナースステーションに戻ろうとしたところで、カウンターに男の子が立っているのが見えた。なんか、見覚えのあるような……?

「看護師の佐々木さん、いますか?」

 え、あたし? あんな知り合いいたかしら……。……。あああっ! も、もしかしてあの子、……えっと、名前なんだっけ。そう、大橋くん。間違いないわ、あたしが酔っぱらった勢いでうっかりヤッちゃった、大橋くん! うそ、なんでここにいるの? まずい、ここで見つかるわけには……!

「佐々木さん? こんなところで、何してるんですか?」

 備品室の棚に張り付いていたら、声をかけられた。って、うわっ、お、岡林先生……!

「ああっ、いえ、な、何でも……」

 反対側のドアから入ってきた岡林先生が、不思議そうにあたしを見てる。うわあ、もうやだ。生まれて初めて、勢いでセックスしちゃった知らない男の子と、つい数日前フラれたばかりの岡林先生とに挟まれて、あたしはもうどう振舞っていいのかわからない。

「あれ? ……あそこにいる男の人、確か、藍原先生のお隣さんのとこにお見舞いに来てたような」

 岡林先生が、備品室から首を伸ばして確認してる。

「えっ、岡林先生、ご存じなんですか?」
「ああ、さっき藍原先生と一緒に、緊急入院したお隣さんの様子を見に行ったんですよ。そしたらちょうどあの人が、お見舞いに来たので」
「え、お隣さん、入院してるんですか? どうして?」
「なんでも緊張性気胸だっていってましたけど。もう落ち着いて、今は外科病棟に。……佐々木さん、知ってるの?」

 い、いけない! これ以上ツッコまれると、説明できないわ! 岡林先生に振られて、やけ酒して藍原先生の部屋に押し掛けたあげく、お隣さんちにまで乱入して、しかも初対面の知らない男の子とヤケセックスしましたなんて、絶対いえないからっ!

「ひょっとして佐々木さん、あの人から隠れてるの? ……あれ、あの人、佐々木さんを探してるみたいだけど。何かあったんですか?」
「えっと、えっと、こないだひょんなことから、藍原先生と、お隣さんと、あの人と、4人で飲んだんです。それで、ちょっと、醜態を晒してしまったので、もう会いたくないな、と……」

 うう、ダメ、あたし、嘘つくの苦手なの。もうこれ以上、ツッコまないで。

「ははは、そんなこと? 佐々木さんまた、酔いつぶれたの? そんなの醜態のうちに入らないですよ、可愛いもんです」

 それが、酔いつぶれたどころではないんです。だから会えないんですよ!

「あの人は、会いたそうにしてますよ? 楓さん、惚れられちゃったんじゃないですか?」

 岡林先生が、笑顔であたしを見てくる。誰もいない備品室で、狭い通路で、長身の岡林先生が、今にも体が触れそうな距離であたしを見下ろしてくる。……反則だよ、先生。なんでこんなときに、そういうこというの? しかも、いつも佐々木さんっていうくせに、どうしていきなり、名前で呼ぶの? あたしのこと、フッたくせに。

「別に、あの人に惚れられても、うれしくないです。あたしが惚れられたいのは、岡林先生なんで」

 どうせあたしの気持ちはもうバレてるんだ。がっつりフラれたし。だから今さら、恥ずかしくもなんともない。

「楓さん――」
「いいんです、先生にその気がないのはわかったから、もういいんです。でも、でも、納得いかないんです。……先生、遊び人なんでしょ? なのにどうして、あたしには手出してくれなかったの」
「え……あの、それって……」

 岡林先生がびっくりした顔であたしを見てる。あたしは半泣きで岡林先生の顔を睨んだ。

「知ってます、先生が遊び人なことくらい。だから、好きになってもらえないなら、せめて遊びでもいいからって……思ってたのに……」
「……楓さん。女の人が自分で、遊びでもいいなんていっちゃダメだよ」

 ほら、またそういう優しいことをいう。そんなだから、好きになっちゃうんだ。

「あたしは、遊びでも抱きたくないくらい、魅力のない女ですか」
「違うよ、楓さんはすごく魅力的だよ。だからこそ……もっと真剣な気持ちで向き合う男性と、付き合わなきゃ」
「ほかの人じゃ嫌なんです、だから、遊びでもいいから、先生がいいっていってるんです」
「か、楓さん、ここでそんな話はまずいよ。人が来ますよ? ほら、涙を拭いて?」

 岡林先生の温かい手のひらがあたしの頬に触れて、指が、そっと涙をぬぐった。ますます、好きになる。

「先生……キスして?」

 ヤケクソで、お願いした。

「キスしてくれたら、諦める。だから……」
「楓さん……」

 岡林先生が、じっとあたしを見つめる。こんなに間近で見つめられたのは、初めてだ。それだけでも幸せな気分になる。キスだけなら、してくれるかもしれない。大きな手をあたしの頬に当てたまま、岡林先生の顔が、少しだけ近づいた。

「岡林。私との約束、忘れたの?」

 突然、女性の声がした。
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