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恋愛編
47話【daily work】林 惣之助:究極の美(藍原編)①
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病棟に行くと、いつも早めに来てるはずの東海林君がいない。……そういえば、今日は免許の更新に行くからちょっと遅れるっていってたっけ。……仕方ないなあ。
ちょっと嫌だけど、ひとりで回診。7人いる入院患者さんの顔を順に見て、最後に……林さんの個室の前に立つ。
はあ。また変な話にならないといいけど。
ひとつ深呼吸をすると、ばっちり仕事モードにギアを入れ直して、扉をノック。
「林さん、おはようございます。入りますねー」
明るく声をかけて、ガラッと扉を開け……
「ひゃあああっ!?」
予想外の光景に、素っ頓狂な声を上げて壁にへばりつく。
「ああ、おはようごさいます、藍原先生」
返事をしたのは、凛太郎くんだった。
「ど、どどどどうしてっ!」
面会時間外なのに、どうして凛太郎くんがいるの……それも、完全に、素っ裸で!!
「なななななんで、何を、ここで、その恰好は……っ」
ダメだ、完全にパニックになって日本語がおかしくなってる! 見ちゃダメ、見ちゃダメなんだけど、うう、目が、放せない……っ!
凛太郎くんは、林さんの座っているベッドの横に立っていた。左腕を頭の後ろに回して右肩のそばに、右手は顎のあたりを繊細に触れている。少しだけ背中を反って、やや傾げた顔であたしに流し目を送ってくる。……うう、ヤバい、これは、ものすごく……色っぽいわ! 蝋人形みたいにつやつやしたきれいな白い肌で、無駄な肉はついてなくて、痩せすぎてもいない。少年のような体型で、反った背中から浮き出る肩甲骨が、何だかすごくいやらしい。そして、下半身は……
「ひょええええっ!?」
見ちゃいけないと思いつつ見てしまった下半身の衝撃に、あたしはこの世のものとは思えない声を出してしまった。下半身も、もちろん裸。そして、そして……凛太郎くんの股間は、完全に、勃起していたっ!!
「凛太郎くん、左腕がちょっと下がったよ」
「すみません、先生」
凛太郎くんが林さんに指摘され、角度を修正して再び視線を床に落とす。……う、美しい……。本当に彫刻みたいだわ……。じゃ、なくて! そうじゃなくて!
「あ、あ、あのですね、入院中に、病室で、こ、このようなことは……っ、第一、面会時間じゃないですし!?」
林さんは、大きなスケッチブックのようなものに鉛筆で絵を描いていた。……デッサン、てやつかな? こ、こんな病室でまで、創作活動……。凛太郎くんを、真っ裸にして……。それにしても、どうして……勃起?
「すみませんね、藍原先生。毎日何か描いていないと、落ち着かないんですよ……」
林さんが淡々とした口調で視線を凛太郎くんに固定したまま話す。凛太郎くんはその後、ぴくりとも動かない。……さすが、モデルだわ……。いやらしいと思ってしまったあたしが恥ずかしくなるほど、ふたりは淡々と作業をしている。……いや、そうじゃない。淡々としているなら……どうして、勃起?
「あ、あの、とにかく、せめて服は着てくれないと……ここにはナースやお掃除の人も出入りしますし、急にこんな光景に出くわしたら、みなさんそりゃあびっくりして、もう、大問題になりますよ……」
「服ですって……?」
林さんが、鼻で軽く笑い飛ばした。……え、それだけ? ちょっと、今、バカにしたでしょ!? これだから芸術をわからない者は、って!
「こ、ここは病院なのでっ、お仕事されたい気持ちはわかりますが、もう少し、内容をちょっと、考えていただいて……」
しどろもどろに説明するあたしに、林さんが初めて目を向けた。
「……藍原先生。……いいですねえ。やはり白衣は、魔法のスパイスだ」
ああっ、またその話!? まずい、今このタイミングでそれは、まずいってば!
「……私ね、昨夜藍原先生にお会いしたあと、インスピレーションが沸いて、少し、描かせていただいたんですよ……」
そういうと鉛筆を置き、床頭台に乗せてあった一回り小さなスケッチブックを取り出した。
「昨夜の、あなたです」
見せられた絵を見て、思わず息を呑んだ。それは、インターネットで出てきたようなヌードではなくて、いわゆる、肖像画だった。胸から上の、鉛筆で書かれた肖像画。まるで写真かと思うほどのリアルなタッチで、あたしの顔が描かれている。それが、あたしなんだけど、まるであたしじゃないみたいに……
「……とても、きれいですね」
つい、そう呟いてしまった。自分の絵を見てキレイだなんて、まるで自分を褒めてるみたいかな? でも、本当に、そう思ってしまった。あたしがきれいなんじゃなくて、その絵が放つ、オーラみたいなものが……何ていうんだろう、素人のあたしにはうまく表現できない。
「ふふ、そうでしょう? 藍原先生、これは、あなた自身ですよ? 私にはあなたが、こう見えたのです」
林さんが満足そうに微笑む。
「あの、とてもきれいですけど、あたし、こんなんじゃ……」
「ふふ。やはりあなたは、気づいていないんですねえ。あなたの内に潜む、美しさを。あなたは純粋に私の絵がうまいだけだと思っていらっしゃる。でも、そうではないんです。私は、あなたの内側に潜む美を引き出しただけ。この美しさはすべて、あなた自身のものです。どうですか? 清らかで純粋で、聖母のような美しさ」
それは絶対いいすぎだと思う。あたしのどこが清らかなのか……。
「でもね。この絵では、まだダメなんです」
「え?」
「いったでしょう? 清らかさは、いくら追求しても真実の美にはならない。この絵はね、未完成なのです。この絵が本当の美しさを放つとき……それは、この絵に欠けている感性が、誕生したとき。わかりますか? この絵の対極にあるものが同時に存在してこそ、この絵の輝きはいっそう増すのです」
……えっと、わかるような、わからないような……。
「つまりね、この絵にはまだ、性の生々しさが足りないんですよ――香織さん」
突然耳元で、少年の声が響いた。ビクッと体が震える。
凛太郎くんが、いつの間にか、あたしの背後に立っていた。
ちょっと嫌だけど、ひとりで回診。7人いる入院患者さんの顔を順に見て、最後に……林さんの個室の前に立つ。
はあ。また変な話にならないといいけど。
ひとつ深呼吸をすると、ばっちり仕事モードにギアを入れ直して、扉をノック。
「林さん、おはようございます。入りますねー」
明るく声をかけて、ガラッと扉を開け……
「ひゃあああっ!?」
予想外の光景に、素っ頓狂な声を上げて壁にへばりつく。
「ああ、おはようごさいます、藍原先生」
返事をしたのは、凛太郎くんだった。
「ど、どどどどうしてっ!」
面会時間外なのに、どうして凛太郎くんがいるの……それも、完全に、素っ裸で!!
「なななななんで、何を、ここで、その恰好は……っ」
ダメだ、完全にパニックになって日本語がおかしくなってる! 見ちゃダメ、見ちゃダメなんだけど、うう、目が、放せない……っ!
凛太郎くんは、林さんの座っているベッドの横に立っていた。左腕を頭の後ろに回して右肩のそばに、右手は顎のあたりを繊細に触れている。少しだけ背中を反って、やや傾げた顔であたしに流し目を送ってくる。……うう、ヤバい、これは、ものすごく……色っぽいわ! 蝋人形みたいにつやつやしたきれいな白い肌で、無駄な肉はついてなくて、痩せすぎてもいない。少年のような体型で、反った背中から浮き出る肩甲骨が、何だかすごくいやらしい。そして、下半身は……
「ひょええええっ!?」
見ちゃいけないと思いつつ見てしまった下半身の衝撃に、あたしはこの世のものとは思えない声を出してしまった。下半身も、もちろん裸。そして、そして……凛太郎くんの股間は、完全に、勃起していたっ!!
「凛太郎くん、左腕がちょっと下がったよ」
「すみません、先生」
凛太郎くんが林さんに指摘され、角度を修正して再び視線を床に落とす。……う、美しい……。本当に彫刻みたいだわ……。じゃ、なくて! そうじゃなくて!
「あ、あ、あのですね、入院中に、病室で、こ、このようなことは……っ、第一、面会時間じゃないですし!?」
林さんは、大きなスケッチブックのようなものに鉛筆で絵を描いていた。……デッサン、てやつかな? こ、こんな病室でまで、創作活動……。凛太郎くんを、真っ裸にして……。それにしても、どうして……勃起?
「すみませんね、藍原先生。毎日何か描いていないと、落ち着かないんですよ……」
林さんが淡々とした口調で視線を凛太郎くんに固定したまま話す。凛太郎くんはその後、ぴくりとも動かない。……さすが、モデルだわ……。いやらしいと思ってしまったあたしが恥ずかしくなるほど、ふたりは淡々と作業をしている。……いや、そうじゃない。淡々としているなら……どうして、勃起?
「あ、あの、とにかく、せめて服は着てくれないと……ここにはナースやお掃除の人も出入りしますし、急にこんな光景に出くわしたら、みなさんそりゃあびっくりして、もう、大問題になりますよ……」
「服ですって……?」
林さんが、鼻で軽く笑い飛ばした。……え、それだけ? ちょっと、今、バカにしたでしょ!? これだから芸術をわからない者は、って!
「こ、ここは病院なのでっ、お仕事されたい気持ちはわかりますが、もう少し、内容をちょっと、考えていただいて……」
しどろもどろに説明するあたしに、林さんが初めて目を向けた。
「……藍原先生。……いいですねえ。やはり白衣は、魔法のスパイスだ」
ああっ、またその話!? まずい、今このタイミングでそれは、まずいってば!
「……私ね、昨夜藍原先生にお会いしたあと、インスピレーションが沸いて、少し、描かせていただいたんですよ……」
そういうと鉛筆を置き、床頭台に乗せてあった一回り小さなスケッチブックを取り出した。
「昨夜の、あなたです」
見せられた絵を見て、思わず息を呑んだ。それは、インターネットで出てきたようなヌードではなくて、いわゆる、肖像画だった。胸から上の、鉛筆で書かれた肖像画。まるで写真かと思うほどのリアルなタッチで、あたしの顔が描かれている。それが、あたしなんだけど、まるであたしじゃないみたいに……
「……とても、きれいですね」
つい、そう呟いてしまった。自分の絵を見てキレイだなんて、まるで自分を褒めてるみたいかな? でも、本当に、そう思ってしまった。あたしがきれいなんじゃなくて、その絵が放つ、オーラみたいなものが……何ていうんだろう、素人のあたしにはうまく表現できない。
「ふふ、そうでしょう? 藍原先生、これは、あなた自身ですよ? 私にはあなたが、こう見えたのです」
林さんが満足そうに微笑む。
「あの、とてもきれいですけど、あたし、こんなんじゃ……」
「ふふ。やはりあなたは、気づいていないんですねえ。あなたの内に潜む、美しさを。あなたは純粋に私の絵がうまいだけだと思っていらっしゃる。でも、そうではないんです。私は、あなたの内側に潜む美を引き出しただけ。この美しさはすべて、あなた自身のものです。どうですか? 清らかで純粋で、聖母のような美しさ」
それは絶対いいすぎだと思う。あたしのどこが清らかなのか……。
「でもね。この絵では、まだダメなんです」
「え?」
「いったでしょう? 清らかさは、いくら追求しても真実の美にはならない。この絵はね、未完成なのです。この絵が本当の美しさを放つとき……それは、この絵に欠けている感性が、誕生したとき。わかりますか? この絵の対極にあるものが同時に存在してこそ、この絵の輝きはいっそう増すのです」
……えっと、わかるような、わからないような……。
「つまりね、この絵にはまだ、性の生々しさが足りないんですよ――香織さん」
突然耳元で、少年の声が響いた。ビクッと体が震える。
凛太郎くんが、いつの間にか、あたしの背後に立っていた。
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