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迷走編
67話【on the way to work】戸叶 梨沙 26歳:彼氏目撃!(戸叶編)
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はあ、満員電車ってうんざり。いつもは下り線の空いてる電車だけど、昨夜友達んちに泊まったら、こんなぎゅうぎゅうのS線に乗る羽目に。早く着かないかな……と思ってると。
扉が開いて、目を引くようなイケメン入ってきた。身長は軽く180センチは超えてる。色白茶髪で、彫りの深いモデルみたいな男の子。あんなおしゃれな子が、こんな激混みの朝のS線に乗るのって、なんだか似合わない。
……ん? よく見ると……。あの子の前に立ってるの、藍原先生じゃない? へえ、藍原先生もS線なんだ。……あれ。あの美形男子、両腕を前に動かして……よく見えないけど、藍原先生のこと、抱きしめてる? え、もしかしてあれが、先生の彼氏? 美形男子が体をかがめて、藍原先生に何か話しかけてる。先生は……顔を赤くして。うそでしょ、何あれ、朝っぱらからいちゃついてんじゃないわよ。あ、またあの子、体を丸めて……背が小さい藍原先生を、あんなにあからさまに抱きしめて。何が天然で意外とウブないい子ちゃんよ、ただのぶりっ子エロ女じゃん。しかも、あんなきれいな彼氏連れてるなんて。あれ、相当年下じゃん。犯罪レベルじゃん!?
「M病院前~、M病院前~」
ヤバい、降りなきゃ。あ、藍原先生も、後ろの子に声かけて出ていく。やっぱりそうだ、彼氏に間違いない。
電車を降りて、後ろから藍原先生に追いついた。
「――藍原先生!」
声をかけると、藍原先生はぎょっとしたように振り返った。
「りっ、梨沙ちゃん!? あなたもS線だったの?」
「あ、今日はたまたまでーす。ねえ先生、さっき一緒にいた人、先生の彼氏?」
「えええっ!?」
やだ藍原先生、そこまであからさまにびっくりしちゃって。まさか知り合いに見られてるなんて思わなかった?
「ふふ、見ましたよ~。めちゃくちゃ可愛い男の子じゃないですか。あんな人、どこで掴まえたの」
「えっ!? あっ、ああ、あの子は、彼氏じゃなくてっ、ただの知り合い!」
うわ、見え見えの嘘ついてんじゃないわよ、ムカつく。
「でもすごく仲よさそうだったじゃないですか。後ろから抱きつかれちゃったりして」
「だ、抱きつかれてなんかないわよ!? あ、あれは、あたしが潰されないようにかばってくれただけで。ほら、あたし小さいから、すぐ潰されちゃうの」
ふん、白々しい。そんなに顔を真っ赤にして、彼氏じゃないなんていわせないんだから。藍原先生になんかもったいなさすぎるイケメンだから、隠し通したいのかしら。……そっちがそのつもりなら、別にいいけど。
「いつも朝一緒に来るんですか?」
「違うわよ、今日はたまたま……だから、凛太郎くんは彼氏じゃないってば」
ふうん、凛太郎くんっていうんだ? あれだけ目立つ彼氏だったら、誰か知ってる人いるかも。
結局藍原先生は口を割らないまま病院についた。一緒に病棟業務をしていると。
「藍原先生! お久しぶりっす! あれ、戸叶も」
振り返ると、同期の東海林がいた。相変わらず調子のよさそうなへらへら笑顔を浮かべてる。
「塩谷さんの件で来ました。いや~、内科病棟、懐かしいっすねー」
「そういえば東海林くん、精神科に進んだんだもんね? うわあ、何だか感激ね。こないだまで内科にいた研修医くんが、精神科医として力になってくれるなんて」
またそんな歯の浮くようなセリフを。
「いやあ、力になるだなんて、まだまだひよっこですよぉ」
東海林も本気にしてんじゃないわよ。
「で、ですね。さっき上司と、本人と彼氏に話聞いてきました」
そこで声を落として、話し出す。
「あれ、典型的なボーダーっすね」
「ボーダー?」
「そう。境界型パーソナリティ障害。普段は甘えん坊で可愛くてむしろモテる系なのに、ちょっとしたことで突然キレ出して、大ゲンカすると大抵修羅場。死んでやるっていってみたり、リスカしたり。あれたぶんボーダーっすよ。……って、上司がいってました」
なんだ、受け売りか。
「自己瀉血もその一環なんで、あとはこっちで引き受けます。とりあえず、ヘモグロビンが正常化するまで鉄剤出しときゃいいっすか?」
「そうね、血さえ抜かなければ、治療はいらないはずだから。もしまた貧血がひどくなるようなら、声かけてくれる?」
「了解っす。じゃ、こっちの予約取っておくんで、内科はいつ退院してもらってもいいっすよ」
精神科の上司と一緒に指示出しする東海林を、藍原先生が感慨深げに見つめてる。
「すごいわね、東海林くん。すっかり一人前になっちゃって」
あれのどこが一人前なの、上司のいうとおり動いてるだけじゃん。……あ、でも。東海林って、こないだまで内科にいたんだよね。
引き上げようとする東海林を掴まえて、藍原先生にバレないように廊下に引っ張り出す。
「ねえ東海林。凛太郎くんて、知ってる?」
「えっ、凛太郎くん!? 凛太郎くんて、あの凛太郎くん?」
あからさまに反応。ダメもとで聞いてみたけど、東海林、知ってるんだ?
「モデル系美少年の、藍原先生の彼氏」
「ええええっ!? 先生の彼氏なの!?」
「声でかいよっ」
なんなの、この大げさなくらいの驚きようは。東海林は目を白黒させてる。周りを確認しながら、小さい声で聞いてきた。
「凛太郎くんて、藍原先生の、彼氏なの!? マジで!?」
「あんた、知ってんの? あの子、何者?」
「何者も何も、藍原先生の患者さんの、知り合いというかお付きというか……。いやあ、マジかよ。藍原先生、いつの間に凛太郎くんと付き合ってんだよ。マジかよ……」
「なにそれ、なんでそんなに驚いてんの。なんかあるの?」
「いや、その人、俺が研修で回ってる最中に知り合ったんだけどさ。画家のモデルやってんだよ。うわあ、やられたなあ、そういうことかぁ。あんな中性的な顔しといて、藍原先生狙いだったのかぁ。くそー、完全に騙されたぜ! 俺もまだまだだなあ……」
なんか知らないけど、東海林はひとりで驚いて納得して完結してる。
「あんた、話したことあるの? どんな子?」
「どんな子って……真面目で、物静かで、気弱そうで、礼儀正しくて……あんなにきれいな顔してんのに性格は地味で、不思議な子だよ。まあ、悪い奴ではないな。むしろ、母性本能くすぐる系? ……そうかぁ、藍原先生、母性本能くすぐられちゃったかぁ。ああいうのが好みだったのかぁ、そりゃあ岡林が撃沈するわけだよな。ああ、岡林に知らせてやらなきゃ!」
なるほど、とりあえず、凛太郎くんについてはちょっとわかった。……藍原先生、患者経由で男に手出すなんて、可愛い顔してしたたかじゃん。最近彼氏ができたっていう小野くんの情報とも時期が一致するし、これはもう間違いない。
上司に呼ばれて行こうとする東海林に、釘を刺しといた。
「ちょっと! 今の話、秘密だからね?」
扉が開いて、目を引くようなイケメン入ってきた。身長は軽く180センチは超えてる。色白茶髪で、彫りの深いモデルみたいな男の子。あんなおしゃれな子が、こんな激混みの朝のS線に乗るのって、なんだか似合わない。
……ん? よく見ると……。あの子の前に立ってるの、藍原先生じゃない? へえ、藍原先生もS線なんだ。……あれ。あの美形男子、両腕を前に動かして……よく見えないけど、藍原先生のこと、抱きしめてる? え、もしかしてあれが、先生の彼氏? 美形男子が体をかがめて、藍原先生に何か話しかけてる。先生は……顔を赤くして。うそでしょ、何あれ、朝っぱらからいちゃついてんじゃないわよ。あ、またあの子、体を丸めて……背が小さい藍原先生を、あんなにあからさまに抱きしめて。何が天然で意外とウブないい子ちゃんよ、ただのぶりっ子エロ女じゃん。しかも、あんなきれいな彼氏連れてるなんて。あれ、相当年下じゃん。犯罪レベルじゃん!?
「M病院前~、M病院前~」
ヤバい、降りなきゃ。あ、藍原先生も、後ろの子に声かけて出ていく。やっぱりそうだ、彼氏に間違いない。
電車を降りて、後ろから藍原先生に追いついた。
「――藍原先生!」
声をかけると、藍原先生はぎょっとしたように振り返った。
「りっ、梨沙ちゃん!? あなたもS線だったの?」
「あ、今日はたまたまでーす。ねえ先生、さっき一緒にいた人、先生の彼氏?」
「えええっ!?」
やだ藍原先生、そこまであからさまにびっくりしちゃって。まさか知り合いに見られてるなんて思わなかった?
「ふふ、見ましたよ~。めちゃくちゃ可愛い男の子じゃないですか。あんな人、どこで掴まえたの」
「えっ!? あっ、ああ、あの子は、彼氏じゃなくてっ、ただの知り合い!」
うわ、見え見えの嘘ついてんじゃないわよ、ムカつく。
「でもすごく仲よさそうだったじゃないですか。後ろから抱きつかれちゃったりして」
「だ、抱きつかれてなんかないわよ!? あ、あれは、あたしが潰されないようにかばってくれただけで。ほら、あたし小さいから、すぐ潰されちゃうの」
ふん、白々しい。そんなに顔を真っ赤にして、彼氏じゃないなんていわせないんだから。藍原先生になんかもったいなさすぎるイケメンだから、隠し通したいのかしら。……そっちがそのつもりなら、別にいいけど。
「いつも朝一緒に来るんですか?」
「違うわよ、今日はたまたま……だから、凛太郎くんは彼氏じゃないってば」
ふうん、凛太郎くんっていうんだ? あれだけ目立つ彼氏だったら、誰か知ってる人いるかも。
結局藍原先生は口を割らないまま病院についた。一緒に病棟業務をしていると。
「藍原先生! お久しぶりっす! あれ、戸叶も」
振り返ると、同期の東海林がいた。相変わらず調子のよさそうなへらへら笑顔を浮かべてる。
「塩谷さんの件で来ました。いや~、内科病棟、懐かしいっすねー」
「そういえば東海林くん、精神科に進んだんだもんね? うわあ、何だか感激ね。こないだまで内科にいた研修医くんが、精神科医として力になってくれるなんて」
またそんな歯の浮くようなセリフを。
「いやあ、力になるだなんて、まだまだひよっこですよぉ」
東海林も本気にしてんじゃないわよ。
「で、ですね。さっき上司と、本人と彼氏に話聞いてきました」
そこで声を落として、話し出す。
「あれ、典型的なボーダーっすね」
「ボーダー?」
「そう。境界型パーソナリティ障害。普段は甘えん坊で可愛くてむしろモテる系なのに、ちょっとしたことで突然キレ出して、大ゲンカすると大抵修羅場。死んでやるっていってみたり、リスカしたり。あれたぶんボーダーっすよ。……って、上司がいってました」
なんだ、受け売りか。
「自己瀉血もその一環なんで、あとはこっちで引き受けます。とりあえず、ヘモグロビンが正常化するまで鉄剤出しときゃいいっすか?」
「そうね、血さえ抜かなければ、治療はいらないはずだから。もしまた貧血がひどくなるようなら、声かけてくれる?」
「了解っす。じゃ、こっちの予約取っておくんで、内科はいつ退院してもらってもいいっすよ」
精神科の上司と一緒に指示出しする東海林を、藍原先生が感慨深げに見つめてる。
「すごいわね、東海林くん。すっかり一人前になっちゃって」
あれのどこが一人前なの、上司のいうとおり動いてるだけじゃん。……あ、でも。東海林って、こないだまで内科にいたんだよね。
引き上げようとする東海林を掴まえて、藍原先生にバレないように廊下に引っ張り出す。
「ねえ東海林。凛太郎くんて、知ってる?」
「えっ、凛太郎くん!? 凛太郎くんて、あの凛太郎くん?」
あからさまに反応。ダメもとで聞いてみたけど、東海林、知ってるんだ?
「モデル系美少年の、藍原先生の彼氏」
「ええええっ!? 先生の彼氏なの!?」
「声でかいよっ」
なんなの、この大げさなくらいの驚きようは。東海林は目を白黒させてる。周りを確認しながら、小さい声で聞いてきた。
「凛太郎くんて、藍原先生の、彼氏なの!? マジで!?」
「あんた、知ってんの? あの子、何者?」
「何者も何も、藍原先生の患者さんの、知り合いというかお付きというか……。いやあ、マジかよ。藍原先生、いつの間に凛太郎くんと付き合ってんだよ。マジかよ……」
「なにそれ、なんでそんなに驚いてんの。なんかあるの?」
「いや、その人、俺が研修で回ってる最中に知り合ったんだけどさ。画家のモデルやってんだよ。うわあ、やられたなあ、そういうことかぁ。あんな中性的な顔しといて、藍原先生狙いだったのかぁ。くそー、完全に騙されたぜ! 俺もまだまだだなあ……」
なんか知らないけど、東海林はひとりで驚いて納得して完結してる。
「あんた、話したことあるの? どんな子?」
「どんな子って……真面目で、物静かで、気弱そうで、礼儀正しくて……あんなにきれいな顔してんのに性格は地味で、不思議な子だよ。まあ、悪い奴ではないな。むしろ、母性本能くすぐる系? ……そうかぁ、藍原先生、母性本能くすぐられちゃったかぁ。ああいうのが好みだったのかぁ、そりゃあ岡林が撃沈するわけだよな。ああ、岡林に知らせてやらなきゃ!」
なるほど、とりあえず、凛太郎くんについてはちょっとわかった。……藍原先生、患者経由で男に手出すなんて、可愛い顔してしたたかじゃん。最近彼氏ができたっていう小野くんの情報とも時期が一致するし、これはもう間違いない。
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