【完結】恋に花咲け、植物男子!

いなば海羽丸

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プロローグ

飛べなくなった日

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 あの日は、早朝からぼたん雪が降っていた。底冷えのする、寒い日だった。だが、おそらくそこにいる誰もが、寒さなど微塵みじんにも感じていなかっただろう。体育館内は熱がこもり、窓の外はみるみるうちに結露し、白く曇って見えなくなっていった。

「ファイトー!」
「モエ、いけるぞ!」
「小手ぇえええッ! 小手だぁッ!」
「いいとこーッ!」

 応援が盛んに飛び交う中で、技を決めるはじめの声が、ひときわ大きく響き渡る。直後、ドンッ、と床を踏み鳴らす音がして、ふたつの竹刀が忙しなくぶつかり合った。

 パンッ、パン、という乾いた音がしばらく続いたかと思うと、奇声にも似た、相手を威嚇する声が、大勢の応援の中に混ざって響く。体育館の床は、氷のように冷たい。けれど、そんなことは少しも気にならなかった。

 冬季に開催された、小規模な地区大会、個人戦。高校一年生の鴻森こうもりはじめは、地元体育館の一番上座の試合場で、強豪校の主将と戦っていた。彼は萌のひとつ年上で、千葉県内でも、三本指に入るほどの強豪校の主将だった。誰もが恐れる強者だ。

 試合時間は四分。――といっても、すでに十分以上、萌は戦っている。四分間の試合で勝敗がつかなかったため、延長戦に入っているのだ。

「面りゃあッ!」
「胴ォ――――ッ」

 互いに一歩も譲らず、今は何度目かの延長戦。なかなか勝敗はつかない。けれど、楽しかった。いつもなら、こんなに長いこと試合をすれば、呼吸が上がってすっかりバテてしまうはずなのに、不思議なほど体が軽い。

 体力の消耗を感じない。このまま、たぶん、いつまでも戦える。いくらでも飛べる。もっと遠くに。もっと速く。技を繰り出せる。

 アドレナリンが溢れて止まらなかった。時間が経てば経つほど、意識が研ぎ澄まされていくのがわかる。おかげで、試合前、気がかりだった左足の違和感はなかった。飛んだときに、ピリッとした痛みがあったはずなのに、それも消えていた。萌は間合いを詰め、技のタイミングを計り、床を踏み鳴らし、数歩攻めた。

「うらぁあああッ!」

 相手を威嚇いかくし、竹刀が触れるか触れないかの距離まで近づく。すると、こらえきれなくなったように、相手が下がる。そこをさらに攻める。また、相手が下がった。イイ感じだ。そこはすでにライン際。相手はもうこれ以上下がれない。状況は圧倒的に有利だ。一本を狙える。その確信を胸に、萌は飛んだ。

「面りゃあああッ!」

 相手の脳天めがけて、飛び込む。ところが、直後、萌の体はするりとかわされ、立ち位置は一瞬で逆転した。萌はライン際に立たされ、次の瞬間、そのまま体当たりを受ける。――だが、倒れそうになった体を左足一本でなんとかこらえようとした。

 体勢が崩れる。直後、左足に衝撃が走った。左の足首。かかとの上。そこに、鈍器のようなもので、思いきり叩かれたような衝撃があった。気が付いたとき、萌は試合場の外で倒れていた。
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