【完結】恋に花咲け、植物男子!

いなば海羽丸

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1章・モエ

チトとの出会い・1

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 慌ただしい物音に目が覚めた。モエは平日の朝が嫌いだった。仕事に出かける両親のバタバタした足音も、焦るような姉の声も、まだ眠るモエに、無条件に罪悪感を植えつけるからだ。

 枕元では、アラームがしつこく7時半を報せている。あと15分で家を出なければ、朝のホームルームには間に合わない。1分でも遅れれば、担任の教師には「また遅刻か」と叱られるだろう。だが、モエは寝返りを打ち、布団を被った。

 学校なんか、どうでもいいー……。

 ほどなくして。そんなモエの何度目かの睡眠を邪魔するように、部屋の扉がけたたましくノックされる。だが、モエは返事をしない。じきに、聞き慣れた叱咤激励が飛んでくるのを知っているからだ。

はじめーッ、あんた今日も学校休むつもり? もう、つまんないこと気にしないで、学校行くだけ行きなさいよ! 言っとくけど留年なんかしたら、母さん承知しないからね!」

 今日はいつになく母の叱咤激励が強い。おかげで、まだ夢の中に戻ろうとしていたモエの意識は、呆気あっけなく現実に引き戻されてしまった。乱暴に布団を剥いで、天井を見つめ、枕元のスマホを取る。そうして、おもむろに時刻を確認すると、重いため息がれた。

 高校3年生に上がってから、モエは学校を休みがちだ。週に3回行けばいいほうだったが、今週はまだ1回も学校へ行っていない。あまりに休むと、担任からちくちく文句を言われるだろうし、授業にもついていけなくなる。それがわかっていても、モエは学校へ行くのが億劫おっくうで、なかなかベッドを出られなかった。

「ダリィ。行きたくねえなぁ……」

 ぼそりと呟き、スマホを枕元に伏せて――いや、違うな。と思い直す。行きたくないわけではない。行く気力がないのだ。ベッドの上でゴロゴロと寝転がりながら、モエは低くうなり、枕に顔をした。こうまで気力を失くした、その理由はわかりきっている。

 モエにはなにもなかった。学校へ行くのに目標も目的も、楽しみも、なにも。

 勉強を頑張ろうにも、受験したい大学は特段なく、授業にはさっぱり身が入らない。将来なにをしたいだとか、どんなことを学びたいだとか、どんな職種に就きたいだとか、そんなビジョンは欠片ほどもない。モエの未来は、良くも悪くも真っ白だった。

 ついでに言えば、高校3年生に進級して、新しくなったクラスにも、あまり馴染めていない。特段タイプの女の子がいるわけでもないし、会いたい友だちがいるわけでもない。もっとも、そんな友人は、他クラスだろうと、他学年だろうと思い当たらないし、話せるクラスメイトは大勢いるが、関係は浅かった。

 とにかく、そんなわけで、おもしろみのない学校生活なものだから、モエは行く気がしなかった。――といっても、出席日数が足りなくて、留年になるのは、避けたいところだ。今でさえ、やっとこさかよっているというのに、あともう1年、この生活を続けなければならないなんて、とてもじゃないが受け入れられない。だから、日数がギリギリでも、卒業さえできればいい。モエはそれでよかった。

「あー……、今日も休みてえな……」

 ついに、願望が声に出る。しかし、そうこうしているうちに、腹が情けない音で鳴りはじめ、モエはただこうして転がっているわけにもいかなくなって、仕方なくベッドから起き出した。いつの間にか物音のしなくなったリビングへ行くと、片付いたダイニングテーブルの上には、ひとり分の朝食の準備だけが、ぽつんと置かれ、カウンターキッチンの上には、弁当も用意されていた。

 物音ひとつしないのが寂しくて、モエはテレビを点ける。パッと映ったのは、馴染みのある朝のニュース番組だ。しかし、その画面のすみにある日付を見て、ハッとする。そうして、下唇を突き出した。

「やっべ……。今日、水曜じゃん……!」
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