【完結】恋に花咲け、植物男子!

いなば海羽丸

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1章・モエ

チトとの出会い・2

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 水曜日は、欠席すると面倒なのだ。コワモテな空手部の顧問が受け持つ、世界史の授業がある。内容はさほど難しくないのだが、あの教師は、授業のはじめに必ずと言っていいほど、小テストをやるのがお決まりだ。

 そんなものはべつに受けなくても、提出物だけしっかり出していれば、通知表に響くことはないのだが、世界史に限り、中間テストや期末テストでは、毎回行われるあの小テストとほとんど同じ問題が出るという噂があった。

 つまり、あれを受けておいて、内容だけつかんでおけば、テストではほぼ確実に点が取れるということである。それがあって、卒業に足りるだけの、出席日数ギリギリを狙って欠席しがちなモエでも、世界史の授業だけは皆勤で出席している。やみくもにテスト勉強をするより、過去の小テストで出た問題を見返したほうが、はるかに効率がいいのだ。しかも、最悪なことに、この世界史の授業、水曜日は一時限目。中間テストは来週末にせまっている。

「だぁああっ、もう! まずい……っ、まずいってぇ……!」

 モエは慌てて自分のエンジンをかけるように、朝食を済ませてしまうと、テレビを消し、洗面台へ行った。そうして、長く伸びた前髪を指先で摘まんでくるんと上げて、そこをピンで止め、ばしゃばしゃと顔を洗う。

 つぎに、洗面台の棚から、髪留め用のゴム紐を取る。

 長く伸びたえり足をまとめ、後頭部のあたりでひとつに束ねる。ちょっと曲がっているが、気にしない。それから、2階の自室へ駆け上がり、ワイシャツを着て、スラックスを穿き、ネクタイを締め、ブレザーを羽織ると、カバンの中身を確認して、つむじ風のように家を出た。

「まずい、まずい、まずい……」

 モエは自転車にまたがると、全速力で漕ぎだした。雨の日はバスで通学することも多いのだが、晴れていれば自転車で行くのが一番早い。バスだと停留所がある分、どうしても時間にロスができる。だが、自転車なら、時間のロスは信号のみ。信じられるのは自分の筋力と脚力。それに尽きる。

「クソ……ッ! 間に合え!」

 つい最近まで、剣道部できたえていた体だ。体力にも筋力にも、ある程度の自信はあった。

 ホームルームがはじまるのは、8時25分。家を出たのは、7時50分。自転車で学校まで行った際の過去最高新記録は、28分。青信号続きのラッキーが何度も重なった、奇跡的記録だ。それと同じレベルの奇跡を、モエは今日、実現しなければばらない。

「クソ……。やったるぜ、オラぁーーーーーッ!」

 ゴールデンウイークを過ぎた、5月の半ば。モエは叫びながら、自転車を走らせ、学校への道を急いだ。


***


 ホームルームを報せる鐘が鳴る頃、モエはホッと安堵あんどして、自分の席に着いていた。ギリギリチャレンジは成功だ。信号でひとつ引っかかったにもかかわらず、今朝の記録は過去最高新記録とほぼ同じ、28分だった。

 この輝かしい結果は、事実上の最高新記録。ひょっとしたら、太ももの筋力が上がったのかもしれない、なんて思いながら、モエは久しぶりにクラスメイトたちにあいさつをして、彼らの楽しそうな会話を無視するように、耳にイヤホンを差し込んだ。


 モエは予定通り、1時限目の世界史の授業をしっかり受けたあと、2時限目、3時限目、4時限目の授業を受ける。だが、その頃、眠気はもう限界だった。朝ごはんのカロリーはすでにしっかり消費していて、今は空腹もあったが、それよりも眠い。――と、そこで思い出す。今日は慌てて出てきたせいで、弁当を忘れてきてしまった。

 やっちゃった……。カウンターに置きっぱなしだ……。

 モエは仕方なしに、購買部へ行ってパンをいくつか買うと、そのまま中庭へ向かった。

 中庭は気持ちのいい木陰や花壇があって、風がよく通る。今日はよく晴れているし、あそこでランチタイムを過ごしたあと、そのまま昼寝をしたら、どんなにか気持ちがいいだろう。

 ランチタイムに過ごす場所としては、圧倒的に人気のあるはずの中庭だが、どうしてなのか、この高校の中庭には、ベンチがとても少なかった。また、ベンチはどれもが2人掛け用なので、つるむ人数が3人以上になると、中庭はランチタイムの場所として、まず選択されない。そのため、そこは案外と穴場なのだ。

 モエは中庭に出る。幸いベンチは最後のひとつが空いていて、モエはそこで昼食にありついた。2人掛け用のベンチを堂々とひとりで使い、購買で買ったパンをかじる。

 急いでいたので、迷うヒマもなく、パッと目について定番三種セットになってしまったが、これがうまいのだ。チーズフランスとあんドーナツ、それに焼きそばパン。これが、我が校名物、定番3種のランチセットである。

 はぁ、焼きそばパンうめえー……。

 モエはベンチの背もたれにだらりと体を預けながら、焼きそばパンをかじる。かじりながら、弁当のことを思い出していた。あれがそのままダイニングテーブルに置いてあるのを見たら、きっと母は帰ってくるなりまたガミガミ言うだろうから、今日は帰りのホームルームが終わったら、寄り道せずに真っすぐ家に帰って、あの弁当をたいらげてしまったほうがいいだろう。

 そんなことを思いながら、焼きそばパンをたいらげ、あんドーナツをかじる。だが、ちょうどその時だった。

「そういや、モエのヤツ、どうしてんのかな」
「さぁな。あれからもうすぐ2ヶ月経つんだし、今頃は帰宅部で気楽にやってんじゃない?」

 春風とともに、聞き覚えのある声が2つ、近づいてくる。その声を聞くなり、モエは反射的にベンチから立ち上がり、きょろきょろと周囲を見回した。隠れられる場所を探したのだ。そうして、すぐそばにイイ感じの植え込みを見つけると、その陰へ身を隠す。
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