【完結】恋に花咲け、植物男子!

いなば海羽丸

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1章・モエ

植物日記・1

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 翌日、モエは朝一番に特進科クラスのE組を訪ねた。モエはこれまであまり縁のなかったクラスに、少し緊張しながら、教室の中をのぞく。モエのいる普通科クラスと、ここ、特進科クラスは階が違うのだが、なにやら雰囲気まで違っている。ちなみに、特進科クラスの隣がスポーツ科クラス。吉川と結城のいるクラスだった。

 おぉ……、さすがは特進科だな……。なんか、見るからにみんな優等生オーラが出てる……。

 まず、制服を着崩している生徒はほとんどいないし、モエのように、上履きのかかとを踏んづけてペタペタ歩いている生徒もいない。モエのように、髪を長く伸ばしているような男子はいないし、スカートを短くしている女子や、化粧をしている女子もいない。

 朝っぱらから、うるさく騒いでいる生徒はゼロ。みんな各々、席に座って本を読んだり、周囲のクラスメイトと穏やかな会話を楽しんでいる。なんというか、教室全体の雰囲気が大人びているのだ。

「ええと……、チトくんは……」

 教室をのぞいて探してみるが、どこにもチトの姿はなかった。チトはまだ登校していないのだろうか。――とはいえ、もうすぐ予鈴が鳴る時刻だ。

「いねえな……。休みかな」

 だが、そう思った時だった。

「モ、モエくん……!」

 ひっくり返ったような声がして振り向くと、たった今、登校してきたであろうチトが、そこに立っていた。彼は黒縁眼鏡をくいっと上げて直し、その奥の瞳をぱちくりさせながら、モエに近づいてくる。

「いったいなにしてるんですか? ここはE組ですよ」
「おはよー、チトくん。あのさ、今日の昼休み、一緒にメシ食わない?」
「えっ!」
「なんだ、もう誰かと約束しちゃった?」

 チトの反応に、ちょっとだけ落胆する。彼の友人関係は希薄だと吉川に聞いてはいたが、ランチを一緒に過ごす決まった相手くらいはいるのかもしれない。そこに乱入してもいいのだが、モエがよくても相手は嫌がるかもしれない。がっかりしていると、チトはぶんぶんと首を横に振った。

「いえいえ! 約束なんかしてないです」

 それを聞いて、一気にテンションが上がる。

「よかったー! じゃあ、付き合ってもらえないかな。一緒に見たいものがあって」
「一緒に見たいもの……、僕とですか?」
「そう。あ……、それと、ほい」

 そう言って、スラックスのポケットからスマホを取り出して見せる。チトはそれをきょとん、とした目で見つめ、首をかしげていた。

「なんです……?」
「番号、教えて。俺ら、まだ連絡先交換してなかったじゃん。俺、チトくんと話したいこともあるし。連絡先知らないの不便だからさ」

 そう言ったあと、チトは数秒ほど呆然ぼうぜんとしていたが、すぐ我に返ったようにハッと目を見開く。そうして、慌ててスラックスのポケットや、ブレザーのポケットを探りはじめた。

「は、はい! しょ、少々……、お待ちくださいっ……」

 その仕草や口調は、なんだかいつも以上に丁寧で、だが、それが彼らしく、好ましい。モエは笑みをこぼした。しかし、いつまでもそうして敬語を使われるのもなんだか寂しいものがある。

「なー、もういい加減に敬語やめない? 俺たち、友だちになったんだしさ」
「と、友だち……?」
「あれ、違ったか……」

 見切り発車だった、と苦笑したが、モエにとって、チトはとうに友だちだった。とはいえ、まだチトとモエは出会って2日目だし、放課後、彼と一緒に園芸作業をしているということ以外に接点はない。それでも、すでにモエの中で、チトの存在は大きくなっている。もしかしたら、今、一番大きな存在にすらなっているかもしれない。

「違ったなら――……」

 もし、チトにとってモエがまだ友だちでないのなら、これから――いや、今すぐ友だちになってほしい。そう言おうとしたが、モエの言葉は、チトにさえぎられた。

「いえいえっ! ぼ、僕なんかでいいなら、ぜひ、よろしくお願いします!」
「あー、また敬語」
「す、すいません……じゃなくって、ごめん……!」

 どうやら、敬語はなかなか直りにくいようだが、そんなところも彼らしく、やはり好ましい。あせらなくたって、ゆっくり距離を縮めていけばいいか、と思いながら、モエはチトと、スマホの連絡先を交換した。モエのメッセージアプリには、新しいアイコンが増える。アイコン写真は、なにかの植物の芽だ。彼が好きな植物なのだろうか。

 かわいい。チトくんって感じだな……。

「オッケー、ありがとう! じゃあ、昼休みね。待ってて、迎えに来るから!」
「えっ、はい……」
「あとでねー!」

 そう言って、モエは特進科クラスをあとにする。胸が高鳴り、心は浮かれ、足取りは軽やかだ。ついでに体が火照ほてったように、ほかほかしている。階段を2段飛ばしながら駆け上がり、普通科クラスへ戻るまで、アキレス腱の傷のことはすっかり忘れていた。
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