【完結】恋に花咲け、植物男子!

いなば海羽丸

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1章・モエ

園芸のススメ・8

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 ハナミズキの木は、寒くなると葉が枯れて落ち、枝だけの状態になって冬を越す落葉樹。シンボルツリーには、なにを選んでもよいのだが、チトは落葉樹が好ましいと話していた。そして今、読んでいる雑誌にも、そう書いてある。

「ほおー。シンボルツリーには、落葉樹を植えるのがおすすめ……だって。チトが言ってたまんまだ」

 ――落葉樹って、冬場になると葉を落とすでしょ? その葉を集めておくと、腐葉土ができるんです。腐葉土は土づくりに必要不可欠なアイテムですが、買うとけっこう高いので、なるべく自分で作って利用します。それに、葉が落ちた木の根元は、春先になるとしっかり日が当たるでしょ。日が当たれば、ここに植えてある球根系の植物が、いい仕事をしてくれるんです。スイセンの花も、ムスカリも、クロッカスも、すっごくかわいい花をいっぱい咲かせてくれるんですよ。

 たしか、チトはそう話していた。日よけを目的にする場合、また、常に緑で彩りたい場合は常緑でもいいが、落葉樹を選ぶことによって、庭で腐葉土を作ることができる。さらに、春の芽吹きから、初夏の新緑、秋の紅葉、冬の枯れ姿まで、庭に季節の風情を演出できる。秋冬、枯れ枝にイルミネーションをつければ、最高におしゃれになる――なんてことも教えてくれた。

 思い返してみれば、たしかに。あのハナミズキの木の根元で、春先に花が咲いているのを、モエは見たことがあるような気がする。だが、今日、園芸作業をしているときには、わさわさとした葉が生えているだけだったから、あれは花が終わったあとなのだろう。

 雑誌をめくれば、有名なガーデナーなのだろうか。年配の女性がにこやかな笑みで美しい庭のすみに立っていて、そこに吹き出しが出ていた。

『我が家のシンボルツリーは銅葉どうばのスモークツリー。シックな色合いがどんな草花にも合わせやすく、ふわふわのお花はとにかくかわいい。ドライフラワーにもなるので、おすすめです』

「ふーん……。銅葉どうばってのもあるんだ……」

 たしかに、そこに映っている木の葉は黒っぽい色をしている。どうやらこういうのを銅葉どうばというらしい。斑入ふいりの葉について、チトは熱く語っていたが、銅葉どうばというのははじめて知った。それ以外にも、雑誌には葉の種類がいろいろと紹介されている。

斑入ふいり……、ライム葉、銅葉どうば……、散り……。いっぱいあんだなぁ……」

 そこまで読んで、モエはパタンと雑誌を閉じる。たしかに、園芸も植物も、奥が深いのだろう。植物の種類は気が遠くなるほどたくさんあるのだろうし、相手は自然界のものだから、コントロールも難しく、方法や正解もおそらくひとつではない。だから、り性な人ほど、ハマりこんでしまうのも頷ける。

 だが、ひとりでこうして雑誌を開いていても、さほど気分は上がらない。もちろん、嫌いではないのだが、植物自体に胸が高鳴るわけでもなく、庭仕事がやりたくてたまらない――というわけでもない。ただ、植物について考えていると、モエは同時にチトのことを思い出して、たまらなく気分が高揚するのだ。

 チトが喜ぶから、園芸部の活動を手伝いたいと思うし、チトの役に立ちたいと思う。チトが見ているものを一緒に、同じ感覚で感じたいのも、彼の純粋な気持ちにこたえたいからだ。こうして自主勉強しているのだって、チトのため――と、そう思ったところでハッとした。

「そっか……。俺は、チトくんと一緒に庭仕事がやりたいんだな……」

 思わず、心の声が口に出て、納得する。相違ない。モエはチトを好いている。だが、その理由についてはあまり深く考えなかった。チトへの好意なんて、深く考え込むようなことではない。モエにとってそれは、なんの不自然さもない、至極しごく、当然のことだったからだ。

 チトはたしかにちょっと変わっているのかもしれない。口を開けば、植物の話ばかりする同い年の高校3年生なんて、彼くらいなもので、似たような人は周囲にはいない。けれど、チトはいいヤツだ。植物のことになると、熱くなりすぎてしまうところもあるが、そういうところはむしろかわいいし、いつも優しく、一生懸命で、ときにはモエをしゃれた言葉で励ましてくれたりもする、いきなところもある。

 だから、モエがチトに好意を持っていて、おかしいことなんて、微塵みじんにも感じなかった。それどころか、モエはもっとチトと仲良くなりたいし、もっと彼に近づいて、彼の見ている世界を知りたいと思ってもいる。そうして、また。彼のことを考えると、胸が高鳴るのだ。

 明日、チトくんのこと、昼メシに誘ってみよっかなぁ……。

 そういえば、まだチトとはスマホの番号を交換していない。明日、番号を教えてもらおう。ふと、そんなことを考えて、モエは明日に思いをせ、心地よい胸の高鳴りに浸った。学校へ行くのがちょっと楽しみに思うなんて、本当に久しぶりのことだった。
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