【完結】恋に花咲け、植物男子!

いなば海羽丸

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1章・モエ

週末の約束・2

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「あれって……、アメジストセージ……だったっけ?」
「すごい、覚えたね! そうだよ、アメジストセージ! その手前にオダマキのマイコちゃんを植えるってわけ」

 チトの話を聞きながら、モエは頬をゆるめた。チトは、植物の名前にすべて「さん」や「ちゃん」、または「くん」を必ずつけて、まとめて呼ぶときにも必ず擬人化して呼ぶようだったが、聞けば、それは母のクセが移ったのだそうだ。要するに、チトの母も、植物ヲタクだということなのだろう。チトは母似なのかもしれない。そっくりな顔をして、白熱した植物語りをするチトとチトの母を想像すれば、くくっと笑みがこぼれてしまう。

「了解。じゃあ、明日はチトのお母さんに会えるんだ。いいよなぁ、庭仕事やってるなんて、マメそうなお母さんで」
「モエくんちのお母さんは、お花やらないの?」
「やんなーい。うちの母さん、基本ミーハーだし、雑だし。あと、飽き性だから。庭はあるけど、年中草ぼうぼうのほったらかしだしさ――」
「えぇっ!」

 突然、チトが悲鳴のような声を上げたので、モエもビクッとして、肩をすくめた。だが、当然だ。植物ヲタクで、いつも植物のことを考えているチトからすれば、庭があるのに雑草だらけにして、ほったらかしにしておくなんて、信じられないのかもしれない。

 やべー……、引かれるかな……。言わなきゃよかったか……。

 だが、もう遅い。チトは黒縁眼鏡の奥の瞳をまん丸くしたまま、口を開けて静止している。モエはすでに汗ばんだTシャツの下にさらに冷や汗をにじませた。

「……ったくさぁ、チトからしたら、信じらんないっしょー? いやー、恥ずかしいわー。うちの母さんにチトんちのお母さんの爪の垢、煎じて飲ませたいくら――」
「モ、モエくん……っ!」

 そう言い終わるか否か――という時。チトはモエの肩をぐっとつかみ、顔を近づけてせまる。モエは予想もしなかったチトの行動に、思わず身構えた。いったい、どうしたというのだろう。

「チトくん……? どした?」
「モエくん……、そのお庭、よかったらぜひ……、ぼ、僕に任せてもらえないでしょうか……!」
「へ……?」
「モエくんちの庭、見せてほしい……!」

 うっそー……。

 途端に、モエは顔を引きつらせる。ほったらかしておけばいいと思っていた母のお願いごとを、まさか言い出す前に、チトからもお願いされてしまうなんて、モエは思ってもみなかった。


***


 翌日の土曜日。モエはチトと、朝8時に学校で待ち合わせをして、昼まで園芸作業をした。チトは昨日、話していた通り、行きは母に車で送ってもらって、黒い網かごのような平たいケース2つに、オダマキ・マイコの苗と、夏に咲く草花の苗をびっちり詰めて、計40個ほど持ってきたようだった。

 感心したのは、その苗と一緒に、彼は帰りに足がなくならないように、自転車を折りたたんで持ってきていたことだ。どうやら、チトの乗っている自転車は折り畳みができるタイプらしい。

 チトの母は一見、モエが想像していた通りの雰囲気で、外見もチトによく似ていた。ただし、そのほかは想定外。チトが車から降りて、車のトランクから苗や自転車を運び出す、ほんの数分の間、チトの母は明るい笑顔で、時折、冗談を交えながら、ノンストップでモエに話しかけ、最後の最後までしゃべったあと、風のように帰っていったである。

「チトのお母さん、おもしろいね。息継ぎいつしてたんだろ?」
「ほんっとに……、恥ずかしいんだから……」

 聞けば、チトの母はいつもあの調子なのだそうだ。家にいようと出先だろうと、そこに誰が居合わせていようと関係なくおしゃべりが止まらず、ひとりでボケて、ツッコんで、けらけら笑って、まるで、ひとり芸人のようなのだという。

 想像とはずいぶん違っていたが、逆にチトの父は、どちらかといえば寡黙なタイプなのだそうで、モエはチトが、ふたりの特徴をちょうど半分ずつ受け継いで生まれてきたんだな、と確信した。ただし、どちらかといえば、モエの知るチトは、やはり母親似であるような気はした。

 チトは耳まで顔を真っ赤にして、家から持ってきた「オダマキ・マイコ」の苗を、ベンチのすぐ後ろの植え込みの手前に植えていきながら、母のことや、家族のことを話した。モエもまた、それを聞きながら、時折、笑って、チトに習ったようにオダマキの苗を植えていく。

 土を掘って、黒いポリポットに入ったオダマキをそうっと手の平でひっくり返して、ポリポットから苗を取り出し、ポットの形が残った土の部分の上側――これを肩と呼ぶそうだが、その部分を指でやさしく削り、さらに土で固まった根をやさしく握るようにしてほぐしてから、さっき掘った穴に植えつけ、土をかぶせていく。しかし、そうしながら、内心はまったく穏やかではなかった。

 まさか……、チトのほうからうちの庭を見たいって言い出すなんて思わなかった……。
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