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1章・モエ
週末の約束・1
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中庭ではじめてランチをした日の放課後も、モエはチトと一緒に園芸作業をした。
今日は、初夏というには少し気温が高いようだが、中庭はシンボルツリーのハナミズキのおかげで日陰になっていて、通り抜ける風も気持ちがいい。とはいえ、作業をしていれば、当然のごとく汗をかくし、土汚れもつくので、モエは今日、ロングのTシャツとジャージ、頭にはタオルを巻いて、作業に臨んでいた。
本当は暑くなることを予想して、半そでTシャツやハーフパンツも持ってきたのだが、チトに「作業をするときは、虫刺されやケガ防止のため、できれば長袖、長ズボンで」と言われたので、しっかり言いつけを守っている。
5月半ばの中庭は、すでにハナミズキの花が散り、葉が生い茂っている。中庭の今年は昨年よりも、ハナミズキの花が咲くのが早かったと、チトは話した。花が散ってから、もうずいぶん経つが、木の下にはまだその花びらが落ちている。モエはそれをほうきでかき集めたり、拾ったりしながら、リヤカーの中に入れ、ついでのように雑草を抜いていく。30分も続ければ、額には汗が滲み、モエはそれを、軍手を嵌めた手の甲で拭った。
「あっちいなー……」
初夏とはいえ、もう気候はほとんど夏だ。来週には5月下旬に入り、そうこうしているうちに6月がやってくる。夏はもうすぐそこまで迫っていた。
「モエくん、休憩する?」
ハナミズキの向こう側で、作業をしながらチトが訊いた。作業をはじめて、1時間ほど経ったのだろうか。喉の渇きを我慢できず、モエはチトのそばに寄る。
「休憩おなしゃす!」
頭を下げてそう声を張ると、チトはふふ、と笑みをこぼし「しょうがないなー」と言って、休憩を許してくれた。モエはチトとともに連れ立って、自販機の並ぶピロティでジュースを買うと、中庭に戻り、休憩を取る。
「モエくん、こっち。今日は東の風が吹いてるから、ここが一番気持ちいいはずだよ」
チトはハナミズキの木の下のベンチにモエを誘う。そこはちょうど、おとといの昼休み、ひと悶着あったベンチだった。モエが座り、そのあと吉川と結城がやってきて座り、植え込みに隠れたモエが通りすがりのチトにこっぴどく叱られた、あのベンチだ。
チトの話によれば、東の風が吹いているとき、この位置のベンチが一番風がよく通るのだという。
「ふぅー、風、きんもちいいなー……」
「でしょー……」
ふたり揃って、ベンチの背もたれにだらりと体を預け、ペットボトルのジュースを片手にひと息を吐く。
「だいぶ雑草も抜けてきたね。実は、近くオダマキちゃんの苗をいくつか植えたいと思ってるんだ」
「オダマキちゃん……?」
誰……?
なにやら人名のような名前だが、植えるというからには、植物なのだろう、と察して、モエはスマホでインターネットを開く。そうして、オダマキちゃん、というそれを検索した。すると、さまざまな色の花の写真がスマホ画面いっぱいに並んでいく。
「どれがオダマキちゃん?」
「これ、全部そうだね。オダマキちゃんって、最近、ちょっと流行ってるんだと思う。新しい品種がいっぱい増えててね。ネットで検索すると、すっごいいっぱい出てくるようになったんだよ」
どうやらそうらしい。たしかに、オダマキという言葉で検索をかけると、実に様々な花色のそれが、数多く出てきた。淡いピンク色をした、ランプのような形の花や、濃い紫色の花。渋い赤色や、黄色。色のバリエーションはかなり多いようだが、基本的にオダマキというのは、どれも程度はあれど、下向きに咲く花のようだった。その姿はやはりランプのようで、ちょっとメルヘンチックだ。
チトは「これ見て、うちのオダマキちゃん」と、自分のスマホの写真を見せてくれた。黄色い星型をした花がいくつも咲いているそれを見て、モエは「ほおー」と相槌を打つ。たしかに、この花なら、この中庭には似合う気がした。黄色といっても、それは強い色ではなく、レモン色に近いパステルカラーなので、ほかの花や植物にもうまい具合に馴染むかもしれない。――と、素人目ではあるが、想像してみる。
「かわいいな。星みたいで」
「でしょ! これをベンチのそばで見られるように、ちょこちょこ植えていきたいんだ。うちの庭で、こぼれ種から地道に増やしてきた子たちがいるから、明日、母さんに車出してもらって、持ってくるよ」
「おう。それにしても、植物にも流行なんてあるんだね」
「あるある。園芸店とか、ホームセンターに行くと顕著だよ。うちのはマイコちゃんっていって、昔からある種類。こぼれ種でいっぱい増えるし、すごく強健なんだ。あの辺りに植えると、ちょうどいいんじゃないかと思っててさ」
チトはそう言って、わさわさとした茂み――たしか、アメジストセージという名前だったような気がするが、それの手前を指差している。
今日は、初夏というには少し気温が高いようだが、中庭はシンボルツリーのハナミズキのおかげで日陰になっていて、通り抜ける風も気持ちがいい。とはいえ、作業をしていれば、当然のごとく汗をかくし、土汚れもつくので、モエは今日、ロングのTシャツとジャージ、頭にはタオルを巻いて、作業に臨んでいた。
本当は暑くなることを予想して、半そでTシャツやハーフパンツも持ってきたのだが、チトに「作業をするときは、虫刺されやケガ防止のため、できれば長袖、長ズボンで」と言われたので、しっかり言いつけを守っている。
5月半ばの中庭は、すでにハナミズキの花が散り、葉が生い茂っている。中庭の今年は昨年よりも、ハナミズキの花が咲くのが早かったと、チトは話した。花が散ってから、もうずいぶん経つが、木の下にはまだその花びらが落ちている。モエはそれをほうきでかき集めたり、拾ったりしながら、リヤカーの中に入れ、ついでのように雑草を抜いていく。30分も続ければ、額には汗が滲み、モエはそれを、軍手を嵌めた手の甲で拭った。
「あっちいなー……」
初夏とはいえ、もう気候はほとんど夏だ。来週には5月下旬に入り、そうこうしているうちに6月がやってくる。夏はもうすぐそこまで迫っていた。
「モエくん、休憩する?」
ハナミズキの向こう側で、作業をしながらチトが訊いた。作業をはじめて、1時間ほど経ったのだろうか。喉の渇きを我慢できず、モエはチトのそばに寄る。
「休憩おなしゃす!」
頭を下げてそう声を張ると、チトはふふ、と笑みをこぼし「しょうがないなー」と言って、休憩を許してくれた。モエはチトとともに連れ立って、自販機の並ぶピロティでジュースを買うと、中庭に戻り、休憩を取る。
「モエくん、こっち。今日は東の風が吹いてるから、ここが一番気持ちいいはずだよ」
チトはハナミズキの木の下のベンチにモエを誘う。そこはちょうど、おとといの昼休み、ひと悶着あったベンチだった。モエが座り、そのあと吉川と結城がやってきて座り、植え込みに隠れたモエが通りすがりのチトにこっぴどく叱られた、あのベンチだ。
チトの話によれば、東の風が吹いているとき、この位置のベンチが一番風がよく通るのだという。
「ふぅー、風、きんもちいいなー……」
「でしょー……」
ふたり揃って、ベンチの背もたれにだらりと体を預け、ペットボトルのジュースを片手にひと息を吐く。
「だいぶ雑草も抜けてきたね。実は、近くオダマキちゃんの苗をいくつか植えたいと思ってるんだ」
「オダマキちゃん……?」
誰……?
なにやら人名のような名前だが、植えるというからには、植物なのだろう、と察して、モエはスマホでインターネットを開く。そうして、オダマキちゃん、というそれを検索した。すると、さまざまな色の花の写真がスマホ画面いっぱいに並んでいく。
「どれがオダマキちゃん?」
「これ、全部そうだね。オダマキちゃんって、最近、ちょっと流行ってるんだと思う。新しい品種がいっぱい増えててね。ネットで検索すると、すっごいいっぱい出てくるようになったんだよ」
どうやらそうらしい。たしかに、オダマキという言葉で検索をかけると、実に様々な花色のそれが、数多く出てきた。淡いピンク色をした、ランプのような形の花や、濃い紫色の花。渋い赤色や、黄色。色のバリエーションはかなり多いようだが、基本的にオダマキというのは、どれも程度はあれど、下向きに咲く花のようだった。その姿はやはりランプのようで、ちょっとメルヘンチックだ。
チトは「これ見て、うちのオダマキちゃん」と、自分のスマホの写真を見せてくれた。黄色い星型をした花がいくつも咲いているそれを見て、モエは「ほおー」と相槌を打つ。たしかに、この花なら、この中庭には似合う気がした。黄色といっても、それは強い色ではなく、レモン色に近いパステルカラーなので、ほかの花や植物にもうまい具合に馴染むかもしれない。――と、素人目ではあるが、想像してみる。
「かわいいな。星みたいで」
「でしょ! これをベンチのそばで見られるように、ちょこちょこ植えていきたいんだ。うちの庭で、こぼれ種から地道に増やしてきた子たちがいるから、明日、母さんに車出してもらって、持ってくるよ」
「おう。それにしても、植物にも流行なんてあるんだね」
「あるある。園芸店とか、ホームセンターに行くと顕著だよ。うちのはマイコちゃんっていって、昔からある種類。こぼれ種でいっぱい増えるし、すごく強健なんだ。あの辺りに植えると、ちょうどいいんじゃないかと思っててさ」
チトはそう言って、わさわさとした茂み――たしか、アメジストセージという名前だったような気がするが、それの手前を指差している。
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