【完結】恋に花咲け、植物男子!

いなば海羽丸

文字の大きさ
25 / 53
1章・モエ

週末の約束・4

しおりを挟む
「えっ、でも、学校での作業はペナルティじゃん。それのお礼じゃ、俺のほうがしてもらいすぎじゃない?」
「ううん。前にも言ったけど、園芸部の作業を手伝ってくれるの、すごく助かるんだ。たしかに今、モエくんに手伝ってもらってるのはペナルティだけど……、それでも手伝ってくれてありがたいってことには変わりないよ。だから、お礼させて」
「そうなの?」
「そうだよー」

 チトはそう言ってくれたが、モエはイマイチ乗り気がしない。チトが見せてくれると約束してくれた世界を、モエもチトと同じ目線で、同じ温度で感じたい。チトの見ている世界を共有したい。そのために、植物の世界を知りたい。その気持ちに嘘はないし、毎週末、チトとの時間が増えるのも、モエとはしては嬉しい限りだ。ただし、それは純粋な植物への気持ちではなく、あくまでもチトがいて、成り立っている。そう思うと、なんだかモエは申し訳ない気持ちになるのだ。しかし、そう思った時。

「それにさ……、僕、モエくんとの約束……、ちゃんと果たしたいからさ……」
「え……」
「もっと興味持ってほしいし……、もっと好きになってほしい。……その、植物のこと」

 ドクン――と、心臓が跳ねる。モエとの約束。それはきっと、出会った日の放課後、チトがくれた、あの言葉だ。もう飛べなくなったモエが、地面を歩いていても楽しくなるように、綺麗な草花をたくさん植える。彼はそう約束をしてくれ、モエを励ましてくれた。それを思い出せば、モエの心臓は急激に高鳴りはじめる。

「だぁー! もうー、わかったよー……」

 それ言われると、モエは弱いのだ。しかたなくそう答えたモエは、残りの草花の苗を植えてしまうと、水やりを済ませ、昼頃には、チトとともに鴻森家へ向かった。


***



「ただいまー。母さーん、いるー?」

 家に到着したモエは、チトを連れて、玄関へ入り、うんざり声で玄関で声をかける。玄関の靴を数を見れば、今、家に誰がいるのか、把握できた。父、毅。母、英子。姉、茗子。鴻森家、本日は全員在宅しているようだ。

 なんで今日に限って、姉ちゃんまでいるんだよ……。ツイてねぇ……。

 姉の茗子とは、特段仲が悪いわけではない。だが、彼女は英子によく似ていて、ミーハーだし、モエに対しても、やや過干渉なところがあった。時には頼りになることもあるものの、やはり茗子にも、いろいろ知られると面倒だ。――と、いうわけで、鴻森家の女性陣には、なるべくならチトを会わせたくない、というのがモエの願いだったが、どうやらそれは叶わないらしい。

 ちなみに、モエは学校を出るとき、英子のスマホに連絡をしていた。英子の声は今世紀最高潮にはずんでいて、どう考えてもテンションがおかしかった。あの調子でチトを迎えるのかと思うと、まったく心配でたまらなくなる。

『やだぁ、大変じゃない! 母さん、お化粧しなくちゃ。……あ、ちょっとあとで買い物行ってくるけど、彼女ちゃんは嫌いな食べ物ものない?』
『彼女ォ? はじめのヤツ、彼女連れてくんの?』

 そんなやり取りが通話口から聞こえて、モエはまったくあきれてしまった。当然、チトが男だということも、彼女ではないということもちゃんと説明したのだが、英子は聞いているようでおそらくちゃんと聞いていなかったような気がする。――いや、理解していないといったほうが正しいかもしれない。

『なんだ、そうなの。じゃあ、ボーイフレンドによろしくね』

 英子は通話の最後にそう言った。それを思い出し、モエはため息をく。

 なーにが、ボーイフレンドだよ。チトは男だし、付き合ってないっつったのに……。

「チト、あがって」
「うん……。お邪魔しま――」
「おーっす、いらっしゃい。来たね、園芸ボーイズ」

 モエの声を聞いてやってきたのか、茗子が颯爽と階段を下りてきて、玄関に姿を現した。そのすぐあと、母、英子がリビングからひょこっと顔を出す。

「あらあら、暑いのにありがとうねぇ。はじめの母ですぅ。はじめがいつもお世話になってますぅ」
「今日は暑いのに、大変だったでしょう」

 うわっ、父さんまで出てきた……!

 普段、あまりこういう場には参加しない父、毅までも、リビングから出てきて、丁寧なあいさつをしてから、頭を下げている。だが、3人そろって、誰も驚いたり、失礼なことを言いそうな様子はない。モエは首をかしげた。

 なんだ……。母さん、ちゃんと聞いてたんだな……。

「お、お邪魔します……。あの、僕……、花咲千歳といいます」
「チトセくんっていうんだ。素敵な名前ねぇ。こちらこそ、よろしくお願いします」
「よ、よろしくおねげしゃす!」

 あ、チトくん噛んだ。

 チトは真っ赤な顔で、ぺこぺこと頭を下げている。緊張しているのだろう。語尾をわずかに噛んだようで、突然、田舎言葉のような感じになっていたが、早口なおかげか、幸い家族はあまり気にしていないようだった。

「さぁさ、あがって、あがって。駅前のおいしいお惣菜屋さんで、おかずたーくさん買ってきたから、みんなで食べましょ」

 明るい声で、英子がリビングへ誘う。チトは靴を脱いで、それをきっちりはじそろえると、モエの耳元で「みんな優しそうだね」と耳打ちをして、頬を赤らめながら、嬉しそうに微笑ほほえんでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】人見先輩だけは占いたくない!

鳥居之イチ
BL
【登場人物】 受:新島 爽《にいじま そう》   →鮫島高等学校/高校二年生/帰宅部    身長 :168センチ    体重 :59キロ    血液型:A型    趣味 :タロット占い 攻:人見 孝仁《ひとみ たかひと》   →鮫島高等学校/高校三年生/元弓道部    身長 :180センチ    体重 :78キロ    血液型:O型    趣味 :精神統一、瞑想 ——————————————— 【あらすじ】 的中率95%を誇るタロット占いで、校内の注目を集める高校二年生の新島爽。ある日、占いの逆恨みで襲われた彼は、寡黙な三年生の人見孝仁に救われる。 その凛とした姿に心を奪われた爽だったが、精神統一を重んじ「心を乱されること」を嫌う人見にとって、自分は放っておけない「弟分」でしかないと告げられてしまうが…… ——————————————— ※この作品は他サイトでも投稿しております。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

美しい世界を紡ぐウタ

日燈
BL
 精靈と人間が共に生きる世界。  “ウタ”を紡いで調和をもたらす、カムナギという存在がいた。  聖界から追放された一族の末裔である少年、リュエルは、 “ウタ紡ぎ” として独自の活動をする日々の中、思いがけずカムナギを育成する学び舎への招待状を渡される。  意を決して飛び込んだそこは、貴族ばかりの別世界。出会いと波乱に満ちた学生生活の幕が上がった。  強く、大らかに開花してゆくリュエルの傍には、導き手のような二人の先輩。ほころんだ心に芽生えた、初めての想いと共に。  ――かつて紡がれた美しい世界が、永久になるまで。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

【連載版】魔王さまのヒミツ♡ ~バレたら即・下剋上?!クール魔王の素顔は泣き虫チキンな箱入り息子~

黒木  鳴
BL
歴代最年少で魔王の地位に就いたレイには隠し通さなければならない秘密がある。それは……「魔王もうやだぁぁぁ~~!!下剋上こわいよぉぉぉーーー!!!」その実態が泣き虫ポンコツ魔王だということ。バレれば即・下剋上を挑まれることは必至!なので先々代の魔王を父に持ち、悪魔公爵ジェラルドが膝を折ったという2枚看板を武器にクールな魔王を演じている。だけどその実力を疑う者たちも出てきて……?!果たしてレイの運命は……?!溺愛腹黒系悪魔×初心な小悪魔系吸血鬼。お茶目なパパんも大活躍!!短編「魔王さまのヒミツ♡」文字数の関係で削ったシーン・設定などを大幅加筆の連載版となります。

雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―

なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。 その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。 死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。 かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。 そして、孤独だったアシェル。 凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。 だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。 生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...