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1章・モエ
週末の約束・4
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「えっ、でも、学校での作業はペナルティじゃん。それのお礼じゃ、俺のほうがしてもらいすぎじゃない?」
「ううん。前にも言ったけど、園芸部の作業を手伝ってくれるの、すごく助かるんだ。たしかに今、モエくんに手伝ってもらってるのはペナルティだけど……、それでも手伝ってくれてありがたいってことには変わりないよ。だから、お礼させて」
「そうなの?」
「そうだよー」
チトはそう言ってくれたが、モエはイマイチ乗り気がしない。チトが見せてくれると約束してくれた世界を、モエもチトと同じ目線で、同じ温度で感じたい。チトの見ている世界を共有したい。そのために、植物の世界を知りたい。その気持ちに嘘はないし、毎週末、チトとの時間が増えるのも、モエとはしては嬉しい限りだ。ただし、それは純粋な植物への気持ちではなく、あくまでもチトがいて、成り立っている。そう思うと、なんだかモエは申し訳ない気持ちになるのだ。しかし、そう思った時。
「それにさ……、僕、モエくんとの約束……、ちゃんと果たしたいからさ……」
「え……」
「もっと興味持ってほしいし……、もっと好きになってほしい。……その、植物のこと」
ドクン――と、心臓が跳ねる。モエとの約束。それはきっと、出会った日の放課後、チトがくれた、あの言葉だ。もう飛べなくなったモエが、地面を歩いていても楽しくなるように、綺麗な草花をたくさん植える。彼はそう約束をしてくれ、モエを励ましてくれた。それを思い出せば、モエの心臓は急激に高鳴りはじめる。
「だぁー! もうー、わかったよー……」
それ言われると、モエは弱いのだ。しかたなくそう答えたモエは、残りの草花の苗を植えてしまうと、水やりを済ませ、昼頃には、チトとともに鴻森家へ向かった。
***
「ただいまー。母さーん、いるー?」
家に到着したモエは、チトを連れて、玄関へ入り、うんざり声で玄関で声をかける。玄関の靴を数を見れば、今、家に誰がいるのか、把握できた。父、毅。母、英子。姉、茗子。鴻森家、本日は全員在宅しているようだ。
なんで今日に限って、姉ちゃんまでいるんだよ……。ツイてねぇ……。
姉の茗子とは、特段仲が悪いわけではない。だが、彼女は英子によく似ていて、ミーハーだし、モエに対しても、やや過干渉なところがあった。時には頼りになることもあるものの、やはり茗子にも、いろいろ知られると面倒だ。――と、いうわけで、鴻森家の女性陣には、なるべくならチトを会わせたくない、というのがモエの願いだったが、どうやらそれは叶わないらしい。
ちなみに、モエは学校を出るとき、英子のスマホに連絡をしていた。英子の声は今世紀最高潮に弾んでいて、どう考えてもテンションがおかしかった。あの調子でチトを迎えるのかと思うと、まったく心配でたまらなくなる。
『やだぁ、大変じゃない! 母さん、お化粧しなくちゃ。……あ、ちょっとあとで買い物行ってくるけど、彼女ちゃんは嫌いな食べ物ものない?』
『彼女ォ? 萌のヤツ、彼女連れてくんの?』
そんなやり取りが通話口から聞こえて、モエはまったく呆れてしまった。当然、チトが男だということも、彼女ではないということもちゃんと説明したのだが、英子は聞いているようでおそらくちゃんと聞いていなかったような気がする。――いや、理解していないといったほうが正しいかもしれない。
『なんだ、そうなの。じゃあ、ボーイフレンドによろしくね』
英子は通話の最後にそう言った。それを思い出し、モエはため息を吐く。
なーにが、ボーイフレンドだよ。チトは男だし、付き合ってないっつったのに……。
「チト、あがって」
「うん……。お邪魔しま――」
「おーっす、いらっしゃい。来たね、園芸ボーイズ」
モエの声を聞いてやってきたのか、茗子が颯爽と階段を下りてきて、玄関に姿を現した。そのすぐあと、母、英子がリビングからひょこっと顔を出す。
「あらあら、暑いのにありがとうねぇ。萌の母ですぅ。萌がいつもお世話になってますぅ」
「今日は暑いのに、大変だったでしょう」
うわっ、父さんまで出てきた……!
普段、あまりこういう場には参加しない父、毅までも、リビングから出てきて、丁寧なあいさつをしてから、頭を下げている。だが、3人揃って、誰も驚いたり、失礼なことを言いそうな様子はない。モエは首を傾げた。
なんだ……。母さん、ちゃんと聞いてたんだな……。
「お、お邪魔します……。あの、僕……、花咲千歳といいます」
「チトセくんっていうんだ。素敵な名前ねぇ。こちらこそ、よろしくお願いします」
「よ、よろしくおねげしゃす!」
あ、チトくん噛んだ。
チトは真っ赤な顔で、ぺこぺこと頭を下げている。緊張しているのだろう。語尾をわずかに噛んだようで、突然、田舎言葉のような感じになっていたが、早口なおかげか、幸い家族はあまり気にしていないようだった。
「さぁさ、あがって、あがって。駅前のおいしいお惣菜屋さんで、おかずたーくさん買ってきたから、みんなで食べましょ」
明るい声で、英子がリビングへ誘う。チトは靴を脱いで、それをきっちり端に揃えると、モエの耳元で「みんな優しそうだね」と耳打ちをして、頬を赤らめながら、嬉しそうに微笑んでいた。
「ううん。前にも言ったけど、園芸部の作業を手伝ってくれるの、すごく助かるんだ。たしかに今、モエくんに手伝ってもらってるのはペナルティだけど……、それでも手伝ってくれてありがたいってことには変わりないよ。だから、お礼させて」
「そうなの?」
「そうだよー」
チトはそう言ってくれたが、モエはイマイチ乗り気がしない。チトが見せてくれると約束してくれた世界を、モエもチトと同じ目線で、同じ温度で感じたい。チトの見ている世界を共有したい。そのために、植物の世界を知りたい。その気持ちに嘘はないし、毎週末、チトとの時間が増えるのも、モエとはしては嬉しい限りだ。ただし、それは純粋な植物への気持ちではなく、あくまでもチトがいて、成り立っている。そう思うと、なんだかモエは申し訳ない気持ちになるのだ。しかし、そう思った時。
「それにさ……、僕、モエくんとの約束……、ちゃんと果たしたいからさ……」
「え……」
「もっと興味持ってほしいし……、もっと好きになってほしい。……その、植物のこと」
ドクン――と、心臓が跳ねる。モエとの約束。それはきっと、出会った日の放課後、チトがくれた、あの言葉だ。もう飛べなくなったモエが、地面を歩いていても楽しくなるように、綺麗な草花をたくさん植える。彼はそう約束をしてくれ、モエを励ましてくれた。それを思い出せば、モエの心臓は急激に高鳴りはじめる。
「だぁー! もうー、わかったよー……」
それ言われると、モエは弱いのだ。しかたなくそう答えたモエは、残りの草花の苗を植えてしまうと、水やりを済ませ、昼頃には、チトとともに鴻森家へ向かった。
***
「ただいまー。母さーん、いるー?」
家に到着したモエは、チトを連れて、玄関へ入り、うんざり声で玄関で声をかける。玄関の靴を数を見れば、今、家に誰がいるのか、把握できた。父、毅。母、英子。姉、茗子。鴻森家、本日は全員在宅しているようだ。
なんで今日に限って、姉ちゃんまでいるんだよ……。ツイてねぇ……。
姉の茗子とは、特段仲が悪いわけではない。だが、彼女は英子によく似ていて、ミーハーだし、モエに対しても、やや過干渉なところがあった。時には頼りになることもあるものの、やはり茗子にも、いろいろ知られると面倒だ。――と、いうわけで、鴻森家の女性陣には、なるべくならチトを会わせたくない、というのがモエの願いだったが、どうやらそれは叶わないらしい。
ちなみに、モエは学校を出るとき、英子のスマホに連絡をしていた。英子の声は今世紀最高潮に弾んでいて、どう考えてもテンションがおかしかった。あの調子でチトを迎えるのかと思うと、まったく心配でたまらなくなる。
『やだぁ、大変じゃない! 母さん、お化粧しなくちゃ。……あ、ちょっとあとで買い物行ってくるけど、彼女ちゃんは嫌いな食べ物ものない?』
『彼女ォ? 萌のヤツ、彼女連れてくんの?』
そんなやり取りが通話口から聞こえて、モエはまったく呆れてしまった。当然、チトが男だということも、彼女ではないということもちゃんと説明したのだが、英子は聞いているようでおそらくちゃんと聞いていなかったような気がする。――いや、理解していないといったほうが正しいかもしれない。
『なんだ、そうなの。じゃあ、ボーイフレンドによろしくね』
英子は通話の最後にそう言った。それを思い出し、モエはため息を吐く。
なーにが、ボーイフレンドだよ。チトは男だし、付き合ってないっつったのに……。
「チト、あがって」
「うん……。お邪魔しま――」
「おーっす、いらっしゃい。来たね、園芸ボーイズ」
モエの声を聞いてやってきたのか、茗子が颯爽と階段を下りてきて、玄関に姿を現した。そのすぐあと、母、英子がリビングからひょこっと顔を出す。
「あらあら、暑いのにありがとうねぇ。萌の母ですぅ。萌がいつもお世話になってますぅ」
「今日は暑いのに、大変だったでしょう」
うわっ、父さんまで出てきた……!
普段、あまりこういう場には参加しない父、毅までも、リビングから出てきて、丁寧なあいさつをしてから、頭を下げている。だが、3人揃って、誰も驚いたり、失礼なことを言いそうな様子はない。モエは首を傾げた。
なんだ……。母さん、ちゃんと聞いてたんだな……。
「お、お邪魔します……。あの、僕……、花咲千歳といいます」
「チトセくんっていうんだ。素敵な名前ねぇ。こちらこそ、よろしくお願いします」
「よ、よろしくおねげしゃす!」
あ、チトくん噛んだ。
チトは真っ赤な顔で、ぺこぺこと頭を下げている。緊張しているのだろう。語尾をわずかに噛んだようで、突然、田舎言葉のような感じになっていたが、早口なおかげか、幸い家族はあまり気にしていないようだった。
「さぁさ、あがって、あがって。駅前のおいしいお惣菜屋さんで、おかずたーくさん買ってきたから、みんなで食べましょ」
明るい声で、英子がリビングへ誘う。チトは靴を脱いで、それをきっちり端に揃えると、モエの耳元で「みんな優しそうだね」と耳打ちをして、頬を赤らめながら、嬉しそうに微笑んでいた。
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