【完結】恋に花咲け、植物男子!

いなば海羽丸

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1章・モエ

週末の約束・5

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 それから、モエはリビングでチトや家族と一緒に昼ごはんを食べると、早速チトに家の庭を見てもらった。見てもらったと言っても、一目瞭然だ。モエの自宅の庭は、毅によると10坪ほどあるということだったが、木はおろか、花は一輪だって咲いていない。赤茶色の土の上には、あちこちで雑草が生い茂っているだけだ。ところが、チトは言う。

「すごくいい庭ですね」
「ええッ! どこが!」

 家族全員の声がそろって、チトが笑う。だが、お世辞を言うにしても、今のはちょっと度が過ぎている。逆に嫌味のようだ。モエはそう思ったが、チトはひとしきり笑ったあと、かぶりを振った。

「ここ、いい庭ですよ。まず、綺麗な長方形がいい。向きは南――いや、ちょっと南西かな。どのみち、日当たりは相当いいですよね?」
「そうね……。洗濯物はよく乾くけど……、夏は暑いくらいなの」
「なるほど……」
「綺麗なお庭にしたいんだけどね……。もうどこから手をつけていいんだかわかんなくって……」

 英子がそう言ったのを聞くなり、モエはまゆを上げる。どこから手をつければいいのかは、見ればわかりそうなものだが、あきれるモエの隣で、チトはカバンの中から、一冊のノートを取り出して開き、筆記用具を出した。それの表紙部分には「植物日記」と書かれている。思わずモエは「あっ」と声を上げた。

「でた! チトくんの植物日記!」

 まだそれを見せてもらっていなかったモエが興奮気味にそう言うと、チトは照れくさそうに笑みを見せる。それから、一番後ろのページを破いて取り、その紙の上で、ボールペンを走らせていく。

「形がきれいなほうが、庭は絶対に作りやすいんです。あと、日当たり。日当たりがよすぎるのは、アイデア次第でいくらでも日陰を作れます。でも、隣接した建物や、大きな樹木、そもそもの立地などで、日当たりが悪いのはどうしようもありません。まぁ、それでもやりようはいくらでもあるんですけど……」

 モエは話を聞きながら、チトの手先をじっと見つめた。チトはこの家の庭を模した長方形をそこに描き、東西南北を書き足すと、リビングの窓から見える、雑草だらけの庭を見つめた。

「でも、日当たりがいいからですかね。あの種の量……、ナガミヒナゲシが群生してました?」

 不意に、聞き慣れない名前が登場して、モエは慌ててき返す。

「ナガミ……なに?」
「ナガミヒナゲシ。ヨーロッパから来た外来種だよ。春になるとここに、ポピーみたいなかわいい花が咲くでしょ?」
「そう、そう。でも、あれね、触ると手がかぶれるのよ」
「そうなんです。あれは放っておくと、こぼれ種で無数に増えて、どこからでも出てくる厄介者なんです。今後は出てきたら、軍手をした状態で引っこ抜くか、まだ芽吹いたばかりのタイミングで抜いちゃってください。駆逐しないと大変なことになりますから」

 すでに大変なことにはなっている気がするが、モエは頷く。すると、チトは紙の上に目線を落とし、長方形の真ん中あたりに、黒い丸印をつけた。

「まず、庭を作るにはシンボルツリーを決めなきゃいけません。日影ができるものがいいので、常緑でもいいかもしれませんが、常緑の木は基本的に、剪定で忙しくなるものが多い特徴があります」

 そう言って、チトはモエの顔をちら、とうかがう。まるで彼は「剪定はモエくんの仕事になるかもね」と言わんばかりだ。モエは慌ててかぶりを振った。

「だめ、だめ! シンボルツリーといえば、落葉樹だろ、やっぱ!」
「えー、そうなの?」
「雑誌でも達人がそう言ってたし!」
「落葉樹は僕もおすすめです。落ちた葉は腐葉土に使えますし、紅葉がきれいな種類もたくさんありますから」

 チトがそう言ったのを聞いて、英子はなにかを思い出したかのように「あっ」と声をあげる。それから、すぐさま提案をはじめた。

「じゃあさ、ユーカリなんかどう? それか、ミモザ! 最近、流行りじゃない?」
「たしかに、流行ってますね。でも、どちらも常緑です。しかも、オージープランツですね」
「オージープランツ?」
「オーストラリアとか、南アフリカ、ニュージーランド原産の乾燥した地域の植物を、園芸業界で総称してそう呼ぶんです。ミモザもユーカリも、おしゃれでいいと思います。ただ、オージーはだいたいが常緑で、しかも成長が早い特徴があるので、これも、剪定をマメにしなければならないんですよねぇ……」

 チトはそう言いながら、またモエに視線を送る。モエは再びかぶりを振った。しょっちゅう剪定しなければならない樹木は、なんとしても候補から避けなければならない。

「だめ! ユーカリとミモザ反対!」
「そうなの? なんだか、意外と難しいのねぇ……」
「どうせ剪定は男の仕事になるんだからさぁ、手入れが楽なやつにしようよ。ねぇ、父さん」
「ん? おう。まぁ、好きなものを植えたらいいよ」

 モエはジトっと父をにらむ。そうやって長年、母に選択権を預け続けた結果、芝生にブチ切れたんだろうが、と言い返したいのは山々だが、その文句をここで今、言ったところでしようがない。頬杖をつき、ため息をらす。すると、その隣でチトが遠慮がちに手を挙げた。
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