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5章・恋に花咲け、植物男子!
月下美人・1
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チトの叔父夫婦の家に到着したのは、昼過ぎのこと。チトの叔父、三森譲次は、モエとチトが勝浦駅へ到着する時間を事前に把握し、車で迎えにきてくれていた。譲次は、チトの母の弟であるそうだが、同じ親のもとに生まれ育ったにしては、ふたりはずいぶんと雰囲気が違っていた。
「はじめまして。チトがいつもお世話になってます、チトの叔父の三森譲次です。長旅お疲れさま」
車から降りてきた譲治は優しそうな笑顔で、モエに頭を下げた。背はモエよりも高く、体格はがっしりとしている。口調はとても穏やかで落ち着いていて、どこか上品な印象があった。
「こっ、鴻森萌です。よろしくお願いします……!」
「モエくんだね。チトから話を聞いてるよ。チトと仲良くしてくれて、ありがとうね」
譲次はそう言うと、「それじゃあ、早速出発しよう」と言って、モエとチトを車に乗るよう促した。
「ふたりとも、お腹空いてるだろ? 今、うちのかみさんが冷や麦を茹でてくれてるはずなんだ。畑で獲れたスイカも冷やしてあるからね。帰ったらみんなで食べよう」
「やったぁ! おじさんちのスイカ、楽しみ!」
庭の畑で獲れたスイカ、と聞いて、チトが大喜びしている。モエも後部座席で、密かに胸を躍らせた。スイカは家でもよく食べているが、それはスーパーですでに三角形にカットされ、ラップされたものばかりだ。丸いごとのスイカは冷蔵庫に仕舞っておくところがないという理由で、鴻森家では敬遠されていた。だが、畑で獲れたということは、それはもちろん丸ごとなのだろうし、譲次が自ら育てたものだということだろう。
チトが喜んでいるところを見る限り、これは相当おいしいんだろうな、とモエは想像する。おかげで空腹を思い出した腹は、今にも情けない音を鳴らしそうだった。
それからすぐ、譲次は車を走らせた。この車はアウトドアに向いた四駆の白いミニバン車で、悪路でも平気で走るのだそうだ。その車の後部座席に揺られながら、モエはチトと譲次の話を聞き、ふたりの関係が想像以上に強い絆で繋がっていることを知った。
譲次とその妻、さえみ夫婦には、子どもができなかったらしい。そのため、彼らにとってチトの存在はとても大きく、子どものようなものなのだ、と譲治は話した。
彼らの家は勝浦市内の山の上にあるらしかった。標高が200メートルほどあるその場所は、海風が吹く影響で、内陸よりもうんと涼しいのだそうだ。しかし、涼しいといってもここは千葉県の南房総。モエとチトの住む地域よりもうんと南にあるのだから、そんなに大差はないのだろう――と思ったが、聞けば真夏でも30度ほどまでしか気温が上がらないという。
「そんなに涼しいんですか、この辺」
「そうだよ。地形の関係でね。信じられないでしょう」
南房総といえば、千葉県内でも温暖な気候だという認識でいたが、夏場は避暑地並みに涼しいので、古い家は、いまだにエアコンがないケースもあるというのだ。同県に住んでいても、それほど気候が違うという事実には本当に驚いた。
そんなことを話しながら、譲次の家へは20分ほどで到着した。そこはさっき話に聞いていた通り、風のよく通る高台に位置していて、わずかに海が眺望できた。敷地の奥には広い庭があるようで、その奥には山が見えている。家はペンションのように大きく、昔懐かしい古民家のような雰囲気がありながら、どこか近代的な清潔感も漂っていた。おそらく、これはモダンというやつだ。
かっけえ家……。
家の目の前には砂利が敷かれた数台分の駐車場があり、2台の車が停まっている。さらにその隣には、駐車場の倍ほどもある広いスペースに、腰丈ほどの棚が横数列になって並んでおり、そこにずらりと植物が載せられていた。譲次は駐車場の一番端に車を停める。そばには、大きな古い板に達筆な文字で「山野草店・みもり」と書かれていた。
「おじさん、お客さん来てるね」
「うん。こんな所なのに、どこで聞いてきてくれるんだかなぁ」
「通販も始めたんでしょ?」
「始めたけど、実際に足を運んでくれる人のほうがやっぱり多いね。みんな、実物を見て買いたいんだよなぁ、きっと」
譲次はシートベルトを外しながら「悪いんだけど、チト。モエくんを案内してやってな」と言い残して車を降りると、お客のもとへ走っていった。見れば、植物の並ぶ棚の奥は木陰になっていて、その辺りに数人の男性と、ひとりの女性が立ち話をしている。
「モエくん、あの女の人がうちの叔母さんだよ。さえみさん」
「そうなんだ……」
「こっち、着いてきて!」
「あぁ、うん」
チトに呼ばれて、モエは家の中に入る。そのあとから、さえみが追うようにして玄関へ入ってきた。
「ふぅー、助かった。譲次さんがいないのに、なんだか小難しいこといろいろ聞かれちゃってさ、おばちゃんおろおろしちゃったよ」
さえみはそう言って肩をすくめた。彼女の年齢はおそらく、モエたちの親世代とさほど変わらないのだろうが、ずいぶんと若々しく見える。しかも、かなりの美人だった。上品で穏やかな印象のある譲次とは似合いだ。ただし、山野草のことについては、譲次ほど詳しくないようで「最近はマニアックな人がほんとに増えたわ」とため息を吐いた。その気さくで親しみやすい雰囲気に、モエはホッとする。
「さえみおばちゃん、久しぶり。今年もお世話になります」
「はーい、お待ちしてました。モエくん、旅館に来たと思って、羽伸ばしてね」
「あっ、はい……。よろしくお願いします……!」
モエが頭を下げると、さえみは「よろしく。すぐごはんにするから、荷物置いて、手ぇ洗っといで」と言い残し、慌ただしく廊下の奥へ消えていった。
「はじめまして。チトがいつもお世話になってます、チトの叔父の三森譲次です。長旅お疲れさま」
車から降りてきた譲治は優しそうな笑顔で、モエに頭を下げた。背はモエよりも高く、体格はがっしりとしている。口調はとても穏やかで落ち着いていて、どこか上品な印象があった。
「こっ、鴻森萌です。よろしくお願いします……!」
「モエくんだね。チトから話を聞いてるよ。チトと仲良くしてくれて、ありがとうね」
譲次はそう言うと、「それじゃあ、早速出発しよう」と言って、モエとチトを車に乗るよう促した。
「ふたりとも、お腹空いてるだろ? 今、うちのかみさんが冷や麦を茹でてくれてるはずなんだ。畑で獲れたスイカも冷やしてあるからね。帰ったらみんなで食べよう」
「やったぁ! おじさんちのスイカ、楽しみ!」
庭の畑で獲れたスイカ、と聞いて、チトが大喜びしている。モエも後部座席で、密かに胸を躍らせた。スイカは家でもよく食べているが、それはスーパーですでに三角形にカットされ、ラップされたものばかりだ。丸いごとのスイカは冷蔵庫に仕舞っておくところがないという理由で、鴻森家では敬遠されていた。だが、畑で獲れたということは、それはもちろん丸ごとなのだろうし、譲次が自ら育てたものだということだろう。
チトが喜んでいるところを見る限り、これは相当おいしいんだろうな、とモエは想像する。おかげで空腹を思い出した腹は、今にも情けない音を鳴らしそうだった。
それからすぐ、譲次は車を走らせた。この車はアウトドアに向いた四駆の白いミニバン車で、悪路でも平気で走るのだそうだ。その車の後部座席に揺られながら、モエはチトと譲次の話を聞き、ふたりの関係が想像以上に強い絆で繋がっていることを知った。
譲次とその妻、さえみ夫婦には、子どもができなかったらしい。そのため、彼らにとってチトの存在はとても大きく、子どものようなものなのだ、と譲治は話した。
彼らの家は勝浦市内の山の上にあるらしかった。標高が200メートルほどあるその場所は、海風が吹く影響で、内陸よりもうんと涼しいのだそうだ。しかし、涼しいといってもここは千葉県の南房総。モエとチトの住む地域よりもうんと南にあるのだから、そんなに大差はないのだろう――と思ったが、聞けば真夏でも30度ほどまでしか気温が上がらないという。
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かっけえ家……。
家の目の前には砂利が敷かれた数台分の駐車場があり、2台の車が停まっている。さらにその隣には、駐車場の倍ほどもある広いスペースに、腰丈ほどの棚が横数列になって並んでおり、そこにずらりと植物が載せられていた。譲次は駐車場の一番端に車を停める。そばには、大きな古い板に達筆な文字で「山野草店・みもり」と書かれていた。
「おじさん、お客さん来てるね」
「うん。こんな所なのに、どこで聞いてきてくれるんだかなぁ」
「通販も始めたんでしょ?」
「始めたけど、実際に足を運んでくれる人のほうがやっぱり多いね。みんな、実物を見て買いたいんだよなぁ、きっと」
譲次はシートベルトを外しながら「悪いんだけど、チト。モエくんを案内してやってな」と言い残して車を降りると、お客のもとへ走っていった。見れば、植物の並ぶ棚の奥は木陰になっていて、その辺りに数人の男性と、ひとりの女性が立ち話をしている。
「モエくん、あの女の人がうちの叔母さんだよ。さえみさん」
「そうなんだ……」
「こっち、着いてきて!」
「あぁ、うん」
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