【完結】恋に花咲け、植物男子!

いなば海羽丸

文字の大きさ
50 / 53
5章・恋に花咲け、植物男子!

月下美人・1

しおりを挟む
 チトの叔父夫婦の家に到着したのは、昼過ぎのこと。チトの叔父、三森みもり譲次じょうじは、モエとチトが勝浦駅へ到着する時間を事前に把握し、車で迎えにきてくれていた。譲次は、チトの母の弟であるそうだが、同じ親のもとに生まれ育ったにしては、ふたりはずいぶんと雰囲気が違っていた。

「はじめまして。チトがいつもお世話になってます、チトの叔父の三森譲次です。長旅お疲れさま」

 車から降りてきた譲治は優しそうな笑顔で、モエに頭を下げた。背はモエよりも高く、体格はがっしりとしている。口調はとても穏やかで落ち着いていて、どこか上品な印象があった。

「こっ、鴻森萌です。よろしくお願いします……!」
「モエくんだね。チトから話を聞いてるよ。チトと仲良くしてくれて、ありがとうね」

 譲次はそう言うと、「それじゃあ、早速出発しよう」と言って、モエとチトを車に乗るよううながした。

「ふたりとも、お腹空いてるだろ? 今、うちのかみさんが冷や麦を茹でてくれてるはずなんだ。畑で獲れたスイカも冷やしてあるからね。帰ったらみんなで食べよう」
「やったぁ! おじさんちのスイカ、楽しみ!」

 庭の畑で獲れたスイカ、と聞いて、チトが大喜びしている。モエも後部座席で、密かに胸を躍らせた。スイカは家でもよく食べているが、それはスーパーですでに三角形にカットされ、ラップされたものばかりだ。丸いごとのスイカは冷蔵庫に仕舞っておくところがないという理由で、鴻森家では敬遠されていた。だが、畑で獲れたということは、それはもちろん丸ごとなのだろうし、譲次が自ら育てたものだということだろう。

 チトが喜んでいるところを見る限り、これは相当おいしいんだろうな、とモエは想像する。おかげで空腹を思い出した腹は、今にも情けない音を鳴らしそうだった。

 それからすぐ、譲次は車を走らせた。この車はアウトドアに向いた四駆の白いミニバン車で、悪路でも平気で走るのだそうだ。その車の後部座席に揺られながら、モエはチトと譲次の話を聞き、ふたりの関係が想像以上に強い絆で繋がっていることを知った。

 譲次とその妻、さえみ夫婦には、子どもができなかったらしい。そのため、彼らにとってチトの存在はとても大きく、子どものようなものなのだ、と譲治は話した。

 彼らの家は勝浦市内の山の上にあるらしかった。標高が200メートルほどあるその場所は、海風が吹く影響で、内陸よりもうんと涼しいのだそうだ。しかし、涼しいといってもここは千葉県の南房総。モエとチトの住む地域よりもうんと南にあるのだから、そんなに大差はないのだろう――と思ったが、聞けば真夏でも30度ほどまでしか気温が上がらないという。

「そんなに涼しいんですか、この辺」
「そうだよ。地形の関係でね。信じられないでしょう」

 南房総といえば、千葉県内でも温暖な気候だという認識でいたが、夏場は避暑地並みに涼しいので、古い家は、いまだにエアコンがないケースもあるというのだ。同県に住んでいても、それほど気候が違うという事実には本当に驚いた。

 そんなことを話しながら、譲次の家へは20分ほどで到着した。そこはさっき話に聞いていた通り、風のよく通る高台に位置していて、わずかに海が眺望できた。敷地の奥には広い庭があるようで、その奥には山が見えている。家はペンションのように大きく、昔懐かしい古民家のような雰囲気がありながら、どこか近代的な清潔感も漂っていた。おそらく、これはモダンというやつだ。

 かっけえ家……。

 家の目の前には砂利が敷かれた数台分の駐車場があり、2台の車が停まっている。さらにその隣には、駐車場の倍ほどもある広いスペースに、腰丈ほどの棚が横数列になって並んでおり、そこにずらりと植物が載せられていた。譲次は駐車場の一番端に車を停める。そばには、大きな古い板に達筆な文字で「山野草店・みもり」と書かれていた。

「おじさん、お客さん来てるね」
「うん。こんな所なのに、どこで聞いてきてくれるんだかなぁ」
「通販も始めたんでしょ?」
「始めたけど、実際に足を運んでくれる人のほうがやっぱり多いね。みんな、実物を見て買いたいんだよなぁ、きっと」

 譲次はシートベルトを外しながら「悪いんだけど、チト。モエくんを案内してやってな」と言い残して車を降りると、お客のもとへ走っていった。見れば、植物の並ぶ棚の奥は木陰になっていて、その辺りに数人の男性と、ひとりの女性が立ち話をしている。

「モエくん、あの女の人がうちの叔母さんだよ。さえみさん」
「そうなんだ……」
「こっち、着いてきて!」
「あぁ、うん」

 チトに呼ばれて、モエは家の中に入る。そのあとから、さえみが追うようにして玄関へ入ってきた。

「ふぅー、助かった。譲次さんがいないのに、なんだか小難しいこといろいろ聞かれちゃってさ、おばちゃんおろおろしちゃったよ」
 
 さえみはそう言って肩をすくめた。彼女の年齢はおそらく、モエたちの親世代とさほど変わらないのだろうが、ずいぶんと若々しく見える。しかも、かなりの美人だった。上品で穏やかな印象のある譲次とは似合いだ。ただし、山野草のことについては、譲次ほど詳しくないようで「最近はマニアックな人がほんとに増えたわ」とため息をいた。その気さくで親しみやすい雰囲気に、モエはホッとする。

「さえみおばちゃん、久しぶり。今年もお世話になります」
「はーい、お待ちしてました。モエくん、旅館に来たと思って、羽伸ばしてね」
「あっ、はい……。よろしくお願いします……!」

 モエが頭を下げると、さえみは「よろしく。すぐごはんにするから、荷物置いて、手ぇ洗っといで」と言い残し、慌ただしく廊下の奥へ消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

【完結】期限付きの恋人契約〜あと一年で終わるはずだったのに〜

なの
BL
「俺と恋人になってくれ。期限は一年」 男子校に通う高校二年の白石悠真は、地味で真面目なクラスメイト。 ある日、学年一の人気者・神谷蓮に、いきなりそんな宣言をされる。 冗談だと思っていたのに、毎日放課後を一緒に過ごし、弁当を交換し、祭りにも行くうちに――蓮は悠真の中で、ただのクラスメイトじゃなくなっていた。 しかし、期限の日が近づく頃、蓮の笑顔の裏に隠された秘密が明らかになる。 「俺、後悔しないようにしてんだ」 その言葉の意味を知ったとき、悠真は――。 笑い合った日々も、すれ違った夜も、全部まとめて好きだ。 一年だけのはずだった契約は、運命を変える恋になる。 青春BL小説カップにエントリーしてます。応援よろしくお願いします。 本文は完結済みですが、番外編も投稿しますので、よければお読みください。

【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。

キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。 しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。 迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。 手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。 これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。 ──運命なんて、信じていなかった。 けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。 全8話。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

路地裏の王子様と秘密のカフェ ―10年ぶりに再会した親友はトップアイドルでした―

たら昆布
BL
大学生の千秋がバイト帰りの路地裏で助けたのは、今をときめくアイドル『GALAXY』のセンター、レオだった。 以来、レオは変装して千秋の働くカフェへ毎日通い詰めるようになる。 ​「千秋に会うと疲れなんて全部消えちゃうんだ」 トップアイドルとは思えないほど素直に懐いてくるレオに、千秋は戸惑いながらも多忙な彼を支えたいと願うようになる。 ​しかし、千秋はまだ知らない。 レオが10年前に「また絶対会おう」と約束して別れた泣き虫な親友の玲央本人だということに。

処理中です...